初めての戦闘
夕暮れ。
空が、赤と紫の境目みたいな色に染まっていた。
帰り道、ヒカリは足を止める。
胸の奥が、嫌な予感で締めつけられた。
――静かすぎる。
その瞬間、空気が歪んだ。
音のない衝撃。
風が逆流するみたいに、街の空気が震えた。
「……なに?」
通学路の先に、
“それ”はいた。
影。
人の形に似ているけれど、
どこかが決定的に間違っている存在。
赤い光が、目のように揺れている。
(……こわい)
声にならない声が、喉の奥で詰まる。
次の瞬間、
桜色の光が、影を裂くように駆け抜けた。
光がほどけ、少女の姿になる。
――かなで。
ヒカリの息が止まった。
「……かなで、ちゃん……?」
その声は届かない。
かなでは宙に浮かび、弓を構えていた。
その姿は、あまりにも綺麗で、
でも――あまりにも現実離れしていた。
『目標を確認。対処を開始しろ』
冷たい声が響く。
かなでの背後、金色の光の中に、人の形をした存在が浮かんでいる。
「でも……!」
かなでの声が、震えた。
「相手が……何なのか、分からない……!」
影が、ゆっくりと腕を伸ばす。
通りすがりの男性へ。
「……っ!」
逃げ場がない。
距離も、時間も、足りない。
ヒカリは、祈ることしかできなかった。
(お願い……!)
かなでの指が、弓を引く。
その手が、小さく震えている。
――撃たなきゃ。
矢が放たれた。
光が、影を貫く。
一瞬の静寂。
そして、影は霧のように崩れた。
かなでは、その場に留まり、
弓を下ろしたまま動かない。
「……やっちゃった……」
その呟きは、
勝利の声ではなかった。




