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始まりの少女と、静観の選択
「では――始まりの少女は?」
その問いに、場の空気が一瞬だけ張り詰める。
「……健在です。
守護者としての資質は、想定を超えています」
女王は、ゆっくりと頷いた。
「問題ありません」
玉座の背後で、淡い光が揺らぐ。
「彼女は“始まり”です。
そして始まりとは――
終わりへ向かうために在るもの」
女王は、ようやく実から視線を逸らした。
「帝国は力を失いました。
世界樹は実を失いました。
少女は、自らの責任を知り始めています」
その声は、どこまでも穏やかだった。
「――盤面は、整いました」
近衛妖精騎士たちは、深く頭を垂れる。
「次の命令を」
女王は、しばし沈黙した後、告げる。
「しばらくは、静観を」
意外な命令だった。
「恐怖は、熟成させなければ意味を持ちません。
希望があるうちは、人は抗いますから」
女王は微笑む。
慈愛に満ちた、母のような微笑みで。
「次に動くのは――
世界が、自ら“差し出した時”です」
その瞬間、
世界樹の実が、ひときわ強く輝いた。
それが、どれほど多くの命を繋ぎ、
どれほど多くの世界を奪う光なのか――
知る者は、まだ誰もいない。




