勝者は立ち、敗者は奪われていた
熱が、爆ぜた。
それは炎ではない。
光でも、魔法でもない。
空間そのものが焼かれた。
点ではない。
線でもない。
広場一帯を覆う“面”が、同時に白く輝き、
次の瞬間、地獄の様相を呈した。
妖精騎士たちは悲鳴を上げる暇すらなかった。
逃げ場はなく、回避も意味を成さない。
展開された結界ごと、存在を削り取られる。
――遅すぎた。
もし最初から、これを選んでいれば。
もし、守るものを背にしなければ。
焼け跡に残ったのは、焦げた大地と、溶けた光の残滓だけだった。
アトラは、その中央に立っていた。
だが――立っているだけだった。
膝が、崩れる。
「……っ!」
黄金の鎧が地面に触れる音が響く。
腹部から溢れた血が、石畳に落ち、細い筋を引いた。
「アトラ!」
ヒカリが駆け寄る。
躊躇なく膝をつき、その身体を支える。
「ごめんなさい……!
私が……!」
震える声。
アトラは首を振った。
「違う」
掠れた声だったが、迷いはなかった。
「それは……私の判断だ」
ヒカリを見て、微かに笑う。
「王である前に、私は……そう在りたかった」
雪代かなでは一歩引いた位置で、その光景を見守っていた。
完全に蚊帳の外だが、割って入る気にはなれない。
(……戦場、なのに)
妙な空気だった。
アトラは鎧の留め具に手を掛ける。
「……少し、借りるぞ」
ヒカリの肩に体重を預け、立ち上がる。
一歩、また一歩。
歩いた跡に、血が滴る。
世界樹は、すぐそこだった。
だが――
ヒカリが足を止める。
「……おかしい」
根元に、誰もいない。
「巫女さんが……いない」
その時。
足音が、静かに近づいてきた。
岩陰から現れたのは、夜凪ほのかとクロ。
そして、その二人に支えられるように現れた――白衣の少女。
巫女だった。
顔色は悪く、衣は乱れ、明らかに消耗している。
それでも、彼女は立っていた。
「……遅れてしまいました」
巫女は静かに告げる。
「世界樹の実は……二つとも、妖精たちに奪われました」
ヒカリの息が止まる。
「近衛妖精騎士……二名が内部へ侵入しました。
私たちは……足止めされて……」
巫女は目を伏せた。
「妖精たちは、既に……妖精国へ帰還しています」
静寂が広場を包む。
アトラは世界樹を見上げた。
そこには、まだ力がある。
だが、もう――目的のものはない。
「……そうか」
それだけを呟く。
勝った。
だが、奪われていた。
ヒカリは拳を握りしめる。
(……まだ、終わってない)
彼女は知っている。
最大の敵は、まだ残っている。
アトラにとっても。
そして、自分にとっても。
世界樹は、沈黙していた。




