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未来の婚約者は、裏切りの記録を持っていた  作者: マルコ


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第3部 第4話  記録のない空

第一節 世界の終わりに残されたもの


 風が吹いていた。

 だが、それは“時間のない風”だった。

 昼も夜もなく、太陽も月も動かない空。


 ユリウスは瓦礫の上に座り、焦げたノートを抱えていた。

 残っているのは、最後の一枚。

 白紙のまま、何も書かれていない。


 「……ここが、“記録の終点”か。」


 周囲には人影もない。

 都市は静まり返り、音という概念さえ薄れていく。


 エリナの声が聞こえた。

 「ユリウス……ここはどこ?」

 「“時間が止まった世界”。アランも、未来も、もう存在しない。」

 彼女は震える手で空を指さす。

 「見て、空が……何か書かれてる。」


 雲の間に、光の文字が浮かんでいた。


『ここから先は、記録を超えた世界。』


第二節 存在の再構築


 ユリウスは立ち上がった。

 「……つまり、これは試練ってことか。

  “第六の記録”を継ぐ者が、自分の言葉で世界を創り直せるかどうか。」


 彼はゆっくりとペンを構えた。

 白紙のノートの上に、最初の一行を書き込む。


『世界はまだ終わっていない。』


 瞬間、空が揺れた。

 大地が光を帯び、失われた色が少しずつ戻っていく。


 「ユリウス、それ……!」

 「“書く”ことで、世界が動き始めてる。

  今度は俺が“記録”になる番だ。」


 だがそのとき、地平の向こうから声が響いた。


 「――ならば、お前が“神”になるというのか?」


 黒い靄の中から現れたのは、アラン・レーヴェン。

 だがその姿は人ではなく、“時間そのもの”と融合した存在だった。


第三節 時の亡霊


 アランの瞳は空と同化していた。

 その声は、万の時代が同時に語るような重なり方をしている。


 「見ろ、この空を。

  “記録”がなくなった世界では、人の存在さえ不確かだ。

  お前が書くほどに、別の現実が消えていく。」


 ユリウスはペンを止める。

 「……確かに、俺の書く一行で世界が揺れる。

  でも、消すためじゃない。“選ぶため”に書いてるんだ。」


 「選ぶ? 愚かだ。

  人は常に後悔し、未来を恐れ、過去にすがる。

  記録がある限り、苦しみは消えない。」


 エリナが叫ぶ。

 「それでも、記録があるから“愛”が残るのよ!」


 アランの顔が一瞬だけ歪む。

 「……姉と同じことを言うな。リディアも、リアナも……皆そうだ。」


第四節 ペンと剣の最終対話


 風が吹く。

 ユリウスは一歩前に出た。

 「アラン。お前が奪ったものを、俺が書き戻す。

  “正しい過去”なんて存在しない。だが、“想い”は残せる。」


 彼は空を見上げ、文字を走らせた。


『過去を赦し、未来を生かす。

 それが人の歩む“時間”。』


 アランの懐中時計が砕け、光が溢れる。

 彼の身体が崩れながら、静かに笑った。

 「……まさか、記録に“赦し”を書くとはな……

  お前が本当の継承者だ、ユリウス。」


 光が広がり、空が青く染まっていく。

 “記録のない空”に、再び時間が流れ始めた。


第五節 再生の朝


 気がつくと、ユリウスは草原の上に立っていた。

 青い空、柔らかな風、そして遠くに鐘の音。

 エリナが目を開け、微笑む。


 「……戻ってきたの?」

 「いや、“新しい世界”だ。

  誰の記録にも書かれていない、“最初の未来”。」


 彼はノートを開いた。

 そこには、もう何も書かれていない。

 代わりに、光の文字が浮かんでいた。


『第六の記録:完了。

 この世界は、あなたたちの言葉で続いていく。』


 エリナが涙をこぼす。

 「やっと……本当の意味で、終わったのね。」

 ユリウスは微笑んだ。

 「いや、“始まった”んだよ。」


終章 “筆の継承”


 その後。

 新しい王国では、子どもたちに一本のペンが贈られる風習が生まれた。

 ――「書くことは、生きること」


 その思想は世代を越えて受け継がれ、

 やがて世界を照らす“第七の記録”を生むことになる。


 風の中で、ユリウスの声が静かに響いた。


「記録は終わらない。

 それが、人という存在の証だから。」


 空には、あの日と同じ青が広がっていた。

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