第3部 第2話 時間を盗む者
第一節 静寂の崩壊
それは夜明け前のことだった。
王都アステリアの中央広場に、異様な光が走る。
時計塔が逆回転し、街灯の明かりが次々と消えていった。
「時間が……逆流してる!」
警鐘が鳴り響き、兵士たちが駆けつける。
だが、彼らの影は一瞬で消え、次の瞬間、街の外に吹き飛ばされていた。
人々の記憶も、断片的に奪われていく。
昨日の出来事が“無かったこと”になる。
――それは、まるで「時間を盗む」何者かが現れたようだった。
第二節 “クロノス教団”
学院に戻ったユリウスとエリナは、事態の報告を受ける。
「時間が消失する現象が各地で発生している」と。
学術院の老人は震える声で言った。
「犯人は、“クロノス教団”。
彼らは古代の時術を崇拝し、世界の“記録”を奪う集団だ」
ユリウスは眉をひそめる。
「記録を奪う? どうやってそんなことが……」
「“第六の記録”が現れた瞬間、世界中の時間の糸が一時的に露出した。
彼らはその断片を盗み、過去を売買しているのだ」
エリナが静かに言った。
「つまり、“未来を創る”記録があれば、“過去を盗む”こともできる……」
第三節 奪われた一日
翌朝、ユリウスが目を覚ますと、周囲の景色が違っていた。
学院の壁に見慣れない校章が刻まれ、友人の名前が名簿から消えている。
「……昨日が、なかった?」
ノートを開くと、ページの中央に赤い文字が滲んでいた。
『第六の記録:一日分の時間が奪われました。』
エリナが駆け込んできた。
「あなたの記録、盗まれたのよ!」
「俺の……?」
「“書いた言葉”は、時間と同調してる。
だから、それを奪えば“存在”ごと削除できるの」
ユリウスは拳を握る。
「……つまり、クロノス教団は人間そのものを“消せる”ってわけか」
第四節 影の都市
二人は教団の拠点があると噂される「影の都市」へ向かった。
王都の北に広がる地下迷宮。
そこでは、時間を止めたままの“囚われた者たち”が並んでいる。
壁一面に時計が埋め込まれ、それぞれが違う時を刻んでいた。
中央の祭壇に立つのは、黒い外套をまとった男。
「来たか、リディアの子孫よ。そして……“第六の記録”の継承者。」
エリナが構える。
「あなたが、クロノス教団の導師ね!」
男はフードを外した。
その顔には、どこか懐かしい面影があった。
「驚いたか? ――俺の名はアラン・レーヴェン。
リディア王妃の“弟”。」
第五節 過去の罪
「……弟?」
エリナの瞳が揺れた。
「そんな……歴史の記録には、そんな人いなかった!」
「当然だ。俺は“第五の記録”から削除された存在だからな」
アランは手に銀の懐中時計を掲げる。
「百年前、姉は未来を創った。
だが、その代償として、“過去の一部”を消した。
――つまり、俺だ。」
ユリウスは息をのむ。
「だから、時間を盗んで復讐してるのか?」
「違う。俺は時間を“取り戻している”だけだ。
失われた過去を、再び書き直すために。」
アランの目が光り、周囲の時計が一斉に逆回転を始めた。
「お前たちも、いずれ分かる。
“正しい記録”とは、勝者が書いた物語にすぎないのだと。」
第六節 未来を守る戦い
空間が歪み、時が止まる。
エリナの髪が宙に浮かび、ユリウスの影が裂けた。
「ユリウス! 記録を開いて!」
「今ここで!?」
「時間を奪われる前に、あなた自身を書き留めて!」
ユリウスはノートを開き、ペンを走らせた。
『俺はここにいる。過去も未来も、誰にも渡さない。
この瞬間こそ、俺の存在の証だ。』
ノートが光を放ち、空間が弾けた。
時計の針が止まり、アランの影が後退する。
「……面白い。お前は“第六の記録”を完全に掌握し始めているな。
だが、まだ遅い。次に目を覚ました時、この国の“過去”は消えている」
アランが光の中に消えた瞬間、街の鐘が再び逆回転を始めた。
終章 消えゆく王国
翌朝。
ユリウスが目を開けると、王都アステリアの地図が変わっていた。
“リアナ王国”の名が、どこにも存在しない。
まるで、百年前の歴史そのものが消えたように。
エリナが震える声で言った。
「……アランは、過去を盗んだのよ」
ユリウスは拳を握りしめる。
「奪われた過去を取り戻す。
そして、俺が――“本当の記録”を書き直す。」
ノートのページが風にめくられ、赤く光った。
『第六の記録:第二章完了。
次章――“失われた時代”へ移行。』




