第3部 序章 第六の記録 ― 継ぐ者たち
第一節 風の時代
それから百年。
アステリア王国は、“筆の時代”と呼ばれる黄金期を迎えていた。
すべての子どもたちは十歳になると、一本の羽根ペンを授かる。
それは魔法ではなく、“意思”を記すための象徴。
リディア王妃が残した「第五の記録」は、いまや王国の教育と文化の根幹となっていた。
“書く”ことで心を整理し、
“記す”ことで人が繋がる。
未来を恐れる者はいなかった。
……表向きは、そう見えた。
第二節 記録を拒む少年
王都の片隅に、一人の少年がいた。
名前はユリウス。十五歳。
孤児院育ちで、物心ついた時から「書くこと」を嫌っていた。
彼の机の上だけは、いつも空白だった。
教師が言う。「ユリウス、記録の時間だ」
彼は小さく答える。「……書かなくても、分かってます」
だが、その夜。
彼の枕元に、一冊の古びたノートが現れた。
表紙には見覚えのない紋章。
開くと、一行だけ文字が浮かび上がる。
『第六の記録、起動者:ユリウス・カイン。』
その瞬間、部屋の中の時間が止まった。
第三節 声を継ぐ少女
翌日。
ユリウスの前に、ひとりの少女が現れる。
「あなた、夢を見たでしょ」
白金の髪、深紅の瞳。
彼女の名はエリナ・レーヴェン。
――“リディア王妃の直系の子孫”。
彼女は静かに言う。
「あなたが持つノート、それは“第六の記録”。
百年の沈黙を破って、再び“未来”が語りかけてきた」
ユリウスは首を振る。
「そんなはずはない。未来なんて、もう――」
だが、ノートが勝手に開き、文字が走る。
『拒絶する者こそ、新しい記録の始まり。』
エリナは微笑んだ。
「あなたが選ばれた理由、少しずつ知っていくことになるわ」
第四節 動き出す新世界
その頃、世界の各地で“異変”が起きていた。
時間の流れが不規則に揺れ、古代の遺物が突然機能を取り戻す。
かつてリアナたちが封じた“第四の記録”の欠片が、
地中から次々と出現していたのだ。
王立学術院の長老は震えながら語る。
「“第五の記録”が人の願いを叶えた。
だがその反動として、世界は“再記述”を始めたのだ」
つまり――
“未来”そのものが、人の意思で再び動き出している。
終章 リディアの声
夜。
ユリウスは再びノートを開く。
そこには、優しい文字が浮かび上がっていた。
『ユリウス、もし迷ったら、空を見て。
あなたの選ぶ言葉が、誰かの未来になる。』
それは、百年前にリディアが最後に残した一節だった。
ユリウスは息を呑み、そっとペンを取る。
「……じゃあ、俺が書く。
“第六の記録”を――人の手で終わらせるために。」
その瞬間、星空が光り、彼のページに風が吹いた。
そして、物語は再び動き始める。




