第2部 最終章 第五の記録 ― 終わりなき物語
第一節 はじまりの筆跡
リディアが“第五の記録”を書き始めてから、一か月。
王国は平和を取り戻し、人々は未来を語り合うようになっていた。
この記録は、不思議な性質を持っていた。
書かれた言葉が、現実を「創る」――
だがそれは、過去の“未来記録”のように強制ではなく、
人々の願いが共鳴した時だけ形を成す。
リディアはその力を、国の再建に使った。
倒壊した街は再び立ち上がり、
戦で傷ついた土地には花が咲く。
ノアはその様子を見て微笑んだ。
「人が書いた“記録”が、ようやく人を救ってるな」
「ええ。これは“運命”じゃなくて、“希望”の魔法よ」
第二節 新しい伝承
“第五の記録”はやがて、王国中に広まった。
民はそれぞれの思いを、日記や詩や手紙として書き残す。
それが世界に小さな奇跡をもたらす――
泣く子が笑い、荒れ地に雨が降り、
争っていた村が和解する。
学者たちはそれを「共鳴現象」と呼び、
リディアを“希望の綴り手”と讃えた。
彼女はそれを否定しなかった。
「私一人の力じゃない。
みんなが“書くこと”を恐れなくなっただけよ」
ノアはそんな彼女を見つめ、ふと口にした。
「ルカやリアナが見たら、泣いて喜ぶだろうな」
「きっと笑ってるわ。“やっと正しい未来を見つけた”って」
第三節 旅立ち
春の風が吹く朝。
リディアはノアと共に王城を出た。
目的地は、かつて全てが始まった地――
“時の祭壇”。
風化した石段を登り、丘の上に立つ。
そこには、かつてルカが消えた光の柱の跡があった。
彼女は静かに日記を開く。
そして、最後の一行を書き始める。
『この物語は、私たちの心の中で生き続ける。
未来は、もう誰にも奪われない。』
ペン先が止まる。
その瞬間、風が吹き抜けた。
空に、かつての“赤・黒・白”の光が交わり、虹となって広がる。
ノアが息を呑む。
「これは……?」
「記録が祝福してるのよ。
終わりじゃなくて、“始まり”だって」
第四節 語り継がれる未来
十年後。
アステリア王国の歴史館。
子どもたちが笑いながら一冊の本を覗き込んでいる。
そこには、“未来の記録”の伝承が語られていた。
リアナ、アレン、ルカ、ミレイナ、ノア、そしてリディア。
時を越え、繰り返し人々に愛と恐れを教えてきた者たちの記録。
教師が微笑みながら言う。
「この物語は終わりません。
なぜなら、“未来”を信じる心がある限り、
記録は何度でも――書き続けられるからです」
終章 永遠のページ
夕暮れの光の中で、リディアは王都の塔から世界を見下ろしていた。
風に揺れる髪、胸に下がるペンダント。
遠くで子どもたちが笑っている。
「お母様、兄様、見ててくれる?」
彼女は小さく笑い、ペンを握った。
『第五の記録・最終頁。
人は未来を恐れながらも、
それでも愛することをやめなかった。
だからこの物語は――終わらない。』
ページを閉じる。
光が優しく彼女を包み込む。
そして、風が彼女の囁きを運んだ。
「ありがとう。あなたたちが教えてくれた“記録”の意味、
私は生涯、忘れない。」
空には、五色の光が咲いていた。




