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無能の烙印と聖なる掌  作者: 英瀬
第二章
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第十九話 里の民との交流・2

 里のエルフたちは、それぞれが独自の技術を持っていた。

 それを活かし、日々お互いを助け合いながら生活しているのだ。

 彼らは皆、僕に優しく、僕がなにか困っているとすぐに手を差し伸べてくれた。


 ある日、僕が旅のはじめから使っている服が傷んでいるのを見て、一人のエルフの女性が声をかけてきた。

 彼女はティツィアといい、里で織物と染色の工房を営んでいた。

 里の民の中ではあまり見かけない、深い緑色の髪が印象的だ。


「その服、随分と傷んでいますね。よければ、私が新しいものを作ってあげましょうか? 森の植物で染め上げた、丈夫で着心地の良い服ですよ」


 ティツィアは、優しく微笑みながら僕の服を指差した。

 彼女の工房は、様々な色の糸や布、そして芳しい植物の香りに満ちていた。

 僕は、彼女の申し出に二つ返事でお願いした。

 数日後、ティツィアが作ってくれた服は、森の緑や空の青を思わせる自然な色合いで、軽くて動きやすく、着心地が抜群だった。


「ありがとう、ティツィアさん! すごく動きやすいし、暖かいよ」


 僕がそう言うと、彼女は嬉しそうに頷いた。


「光の癒やし手の子どもに、少しでも快適に過ごして欲しかったのです。またなにかあれば、いつでも声をかけてくださいね」


 別の午後には、アデリアに連れられて、里の楽器職人の工房を訪れた。

 そこでは、トロメデオという名の、少し厳しそうな顔つきをした年配のエルフが、美しい竪琴を削っていた。

 彼の鋭い灰色の瞳は、木材のわずかな歪みも見逃さないようだった。


「おじさん、テオドールよ! この子が、穢れを癒やす力を持っているの!」


 アデリアが元気よく紹介すると、トロメデオは一度手を止め、僕の顔をじっと見つめた。

 その視線は、まるで僕を疑い探るかのようで、少し緊張した。


「ふむ……。たしかに、お前さんの光は、この森の生命の響きにも似ている。良い音を出すには、まず、良い魂を持たねばならん。お前さんの光は、紛れもなく清らかな魂から生まれているな」


 トロメデオの言葉は、まるですべてを見透かしているようで、僕は彼の言葉に深く頷いた。

 彼は、完成したばかりの竪琴を僕に差し出し、優しく弦を弾いた。

 その音色は、森の風のように澄み渡り、僕の心を震わせた。


「音もまた、光と同じく、人々の心を癒やす力を持つ。お前さんの力も、いずれは音のように、この世界に響き渡るだろう。精進するのだぞ、少年」


 彼の言葉は、僕の修行へのモチベーションを一層高めてくれた。


 里には、長老の孫であるトニという青年もいた。

 トニは、どこか不思議で落ち着いた雰囲気を持っていた。

 彼の瞳は、長老と同じく深い知識を宿しているようだった。

 彼は、僕が精霊との感応の修行をしている時、よく僕の近くに座って、静かに見守ってくれた。


「テオドールくん、精霊の声を聞くには、まず自分の心の音を聞くことだよ。そして、森の呼吸を感じるんだ」


 トニは、僕が瞑想で集中できない時、優しくアドバイスをくれた。

 彼の声は、僕の心を落ち着かせ、精霊との繋がりを深める助けになった。

 彼は、次期里長候補として長老から直接教えを受けているようで、古の歴史や精霊に関する知識が非常に豊富だった。


 ある夜、里の広場では、エルフたちが集まって歌を歌ったり、昔話に耳を傾けたりした。

 彼らの歌声は、澄んでいて、どこか懐かしい響きがあった。

 そして、その歌には、森の歴史や、精霊たちへの感謝の気持ちが込められていることを、僕は修行を通じて少しずつ理解していった。


 僕もその輪に加わり、彼らの歌を聞き、静かに過ごした。

 バルトルは僕の肩で、時折、歌声に合わせて小さく体を揺らしていた。

 アデリアは、僕の隣で、時折、歌の意味を僕にささやいてくれた。


「この歌はね、精霊たちが森を守ってくれていることへの感謝の歌なの」


「この話は、昔、里を災いから救った英雄のことよ」


 アデリアの解説のおかげで、僕はエルフの文化や歴史を、より深く知ることができた。

 彼女は、僕にとってかけがえのない友人だった。

 そして、ティツィアやトロメデオ、トニといったエルフたちとの交流は、僕の心を深く癒やし、僕の力に自信を与えてくれた。

 ヴィルト家での暮らしが、遠い記憶の彼方へと追いやられていく。

 僕はここで、自分が「光の癒やし手」として、この世界に必要とされているのだということを、肌で感じることができた。

 そして、この穏やかな日々の中で、僕は来るべき穢れとの戦いに備え、心身ともに成長していったのだ。

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