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無能の烙印と聖なる掌  作者: 英瀬
第二章
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第十七話 力の深化と古の知識

 光の里での日々は、僕にとって驚きと学びの連続だった。

 里の暮らしは、自然と共生することを重んじ、森の恵みを大切にしていた。

 朝は鳥のさえずりで目覚め、夜は満天の星空の下で眠りにつく。

 この里にいると、僕の心も身体も、まるで森の木々のように伸びやかに成長していくのを感じた。


 長老は僕に、穢れと聖なる癒やしの力について、より深く、より専門的なレベルでの修行を授けてくれた。

 ヴィルト家の地下室でのバルトルとの鍛錬は、僕の内に秘められた力を目覚めさせ、その光を安定して引き出すための基礎的なものだった。

 光を特定の対象に当てたり、その量を調整したりと、力の基本的な出力制御に主眼が置かれていた。

 最初は不安定で暴走しがちだった僕の力に、ある程度の方向性を見出すための段階だったのだ。


 しかし、この里での修行は、そのさらに先を行くものだった。

 僕が既に発動できるようになった「聖なる癒やしの力」を、今度はその質を深化させ、より高度応用と制御を習得することに主眼が置かれたのだ。

 長老は、僕の持つ力が、単なる治癒能力ではなく、魂の浄化、そして世界をあるべき姿に戻すための根源的な力なのだと繰り返し説いた。


 僕の修行は、主に「精霊との感応」と、「古の穢れの根源的理解」という二つの柱で進められた。


 毎朝、僕は日の出と共に森の奥深くへ入り、精霊たちの息吹を感じながら瞑想に耽った。

 これまでの瞑想では、自身の内なる力を高めることが目的だったが、ここでは、精霊たちとの対話を試みた。

 長老は、精霊たちはこの森の生命そのものであり、清らかな生命の源であると教えてくれた。

 精霊の力を僕の「聖なる癒やしの力」と融合させることで、より深く、より広範な穢れの浄化が可能になると長老は説いた。

 最初はかすかな光の粒としてしか感じられなかった精霊たちが、日を追うごとに、まるで微風のように、あるいは木々の囁きのように、鮮明なイメージや声として僕の意識に語りかけてくるようになった。

 彼らの声は、木々の葉ずれの音や、川のせせらぎのように心地よく、僕の力を増幅させていくのがわかった。

 精霊たちは、僕の癒やしの光に引き寄せられるように集まり、僕の周りを舞い、僕の身体の奥深くにある「聖なる癒やしの力」を活性化させていった。

 彼らとの感応を深めることで、僕は光の属性や波動を意識的に変化させ、浄化の対象に応じてより効果的に力を運用する高次な制御を学び始めたのだ。


 また、長老は僕に、遠い過去に起こった穢れの歴史について、まるで物語を語るかのように詳しく聞かせてくれた。

 エルフは他の種族よりも遥かに長寿であり、その記憶は数千年にも及ぶ。

 彼らは、世界の歴史の大きなうねりを、代々見守り、その知識を伝承してきたのだ。


「遥か昔、この世界には、今の時代をはるかに超えるほどの繁栄を享受した『古の文明』が存在した。彼らは、自然の理を解き明かし、驚くべき技術と魔術を築き上げた。しかし、その文明もまた、人々の飽くなき欲望、争い、そして憎しみといった負の感情が蓄積され、やがて形を得た『古の穢れ』によって滅び去ったのだ」


 長老は、里に代々伝わる古文書や、エルフの歴史を伝える壁画を見せながら語った。

 そこには、黒い靄に覆われ、生命の色彩が失われた世界、そして苦しみもがき、やがて朽ちていく人々の姿が、痛々しいほど鮮明に描かれていた。

 その光景は、僕が穢れの村で見たものと酷似していた。

 そして、その絶望的な穢れに対抗するために、一人の『聖女』が、光の力で世界を救ったという伝説も語られた。


「その時の穢れは、今のものとは比べ物にならないほど強大で、世界そのものを飲み込もうとした。しかし、聖女は、人々の希望を集め、自身の光の力と融合させることで、穢れを打ち払ったのだ。だが、完全に消滅させることはできず、穢れの根源は世界のどこかに深く封印された、とされている」


 僕が今目の当たりにしている穢れは、もしかしたら、その強大な古の穢れの封印が解けかかっている、あるいは再び活性化し始めた兆候なのかもしれない。

 長老から得た知識は、僕が穢れの真の姿を理解する上で、かけがえのないものとなった。

 それは、僕の力に課せられた使命の重さを、改めて僕に知らしめた。


 バルトルは常に僕の傍らにいて、僕の修行をサポートしてくれた。

 僕が精霊との感応に集中している時も、彼の魔力が僕の周囲を取り巻き、余計な干渉から守ってくれた。

 僕の力が暴走しそうになるたびに、彼の魔力が僕の力を制御する助けとなった。


 《テオドール、お主の力は、お主の心と繋がっている。心が乱れれば、力もまた乱れる。常に平静であれ。そして、精霊の声に耳を傾けるのだ。彼らは、この世界の真理を知っている。そして、聖女の伝説も、お主の力と無関係ではないだろう》


 バルトルの助言は、僕が力を制御し、精神を集中する上で、非常に役立った。

 彼が僕の額に身を擦り付け、微かな魔力を流し込んでくれるたびに、僕の心は落ち着きを取り戻し、集中力が増した。


 アデリアもまた、僕の修行に付き合ってくれた。

 彼女は、エルフの里に伝わる古の歌を教えてくれたり、森の植物や動物たちの知識を僕に教えてくれた。

 森での生活に慣れない僕に、エルフの知恵を授けてくれたのだ。


「この花はね、心を落ち着かせる効果があるんだよ。修行で疲れた時に嗅ぐといいわ」


 アデリアが差し出す、可憐な白い花からは、優しい香りが漂ってきた。

 彼女の存在は、僕にとって、単なる道案内役ではなく、大切な友人であり、僕の心を癒やしてくれる存在でもあった。

 彼女の明るさが、僕の重い使命を負う心に、一服の清涼剤を与えてくれた。

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