気持ちの伝え方
リズの部屋をノックする。今回も返事ではなく、ドアが少しだけ開く。
さすがに今回はネグリジェではなく服を着ているようだ。おそらく、手伝ってもらったのだろう。慣れない服装ではあるが、動くのに不自由はなさそうだ。領地の敷地の視察にと、念の為用意していた軽装を選んでくれたようだ。
それ以外の荷物はどこに行ったのか……マントすら見当たらない。
どちらにしても、顔色はかなり良くなったように見える。とりあえず、安心だ。
「食事……ゴハン イク シマショウ」
頷くのを確認して、マントはと自分が羽織っているのを軽く指差す。
少し慌てたように、持参した鞄から折りたたまれたマントを取り出す
――んっ? マントまでしまっていたのか?
適当に置くなり、かければ良いのにと思いながらも、特に口出すことではないなと判断する。
ドアを少し大きく開け、リズが出やすいようにし、セシルにとっても初となる、護衛なしでの外出だ。
――――さぁ、夕食を食べに行こう。
道中、リズは少し後ろを歩いていた。もしや、一緒に歩くのが嫌なのかと、密かにダメージを受ける。何度か振り返ってみるとその度に目が合い微笑見返される。
――分からない……
靴をかかとの低いものに履き替えた為、足はずいぶん楽そうに見える。歩くのが速いのかと少しスピードを落とすと、それに合わせるように、彼女も歩みを遅らせる。
――なんだ? この距離感は……なぜ、距離をとる?? 嫌なのか!? ……困ったなっ、完全にエスコートするタイミングを逃してしまった……
馬車を降りるタイミングなどがあれば、義務感もあってなんとなく出来た。
だが、今回は普通にドアから出てきた。
――どこで、手を取るのが正解だったんだ!?
迷って考えてるうちに、ついいつもの早歩きでリズと距離が離れてしまったことに気がついた。
「しまった、どこに…………」
少し離れたところで、男性に声をかけられている。
「お嬢さん、美しいあなたに夜道は危険です」
「………………っ」
「良ければ休憩できるところまで案内しますよ。さぁ、お手を……」
何も言い返せず、戸惑うだけの彼女の手を少し強引に持とうとする。
「〜〜っ!?」
「彼女に何かご用ですか?」
セシルがその手を掴み、リズを自分の方へと引き寄せる。
「!?」
「おいっ、俺が先に声をかけたんだぞ」
急に態度を変える男に
「僕の連れです」
突然現れたセシルに、男は言い返そうとするも、なぜだか異様な圧を放つセシルに思わず一歩引き下がる。
「……っ、そちらにも落ち度があるのでは? 連れなら、こんなところを彼女1人で歩かせるべきではないだろう。それに、彼女もこちらの誘いを断らなかったあたり……君に不満があるのでは?」
「……失礼した。あなたの言うことにも一理ある」
そう言って彼女にかがみこみ、左手の甲にキスをする。真っ赤になるリズの手を握ったまま、優しく肩を抱き、自分の方に再度身を引き寄せる。
不満を持たせているとは2度と言わせないと言わんばかりの一連の優雅な所作に、男は思わず息を飲む。
「では、彼女のエスコートは僕がしますので……」
去り際に足を止める。
「それと……彼女は貴方の誘いに目を伏せ、顔を背けていた……女性の拒否が必ずしも言葉だけでとは言えないのでは?」
「なっ……」
それだけ言うと、リズの手を握ったままその場を離れる。
「すみませんでした」
「っ!?」
人通りの多い道に出ると、セシルはすぐに謝罪した。
「あの男の言う通りです。貴方の手を最初からとるべきでした。紳士として……夫となる身として失格です」
謝るセシルに、リズはもう一度手を握り、微笑む。
「……お腹すきましたね。美味しい店を聞いたんです。行きましょう」
もう、彼女が話せるかどうかなど関係ない。彼女の視線、笑い方、控えめな所作、それだけでも十分分かるものがある。言葉で言われないと不安なのは、自分の都合だ。彼女なりにずっと伝えてくれていたではないか……
「僕も、あなたと仲良くなりたいと思ってます」