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寝過ごした食事


 同行している従者には先に領地へと伝言を依頼しておく。


「それで……急だったので一般の宿場ではあるが、悪くないだろう?」


 まだ父の管轄なだけあり、治安も悪くない。部屋も綺麗……だと思う。かなりシンプルではあるが……木材だけで作られた部屋に小さなテーブルと椅子、外を見渡せる窓に、小さめのベッドが1つ……


 うん、まぁ……あとで湯を持ってきてもらえば、部屋で湯浴みくらいは出来るだろう。



「…………」

「ここで休む。分かるか?」


 振り返って見ると、1つしかないベッドを見つめ固まっている。



「っ!? 違うぞ? 何かしようとか……そんなんではっ!!」


 肩を慌ててつかみ、誤解を解こうと訂正しようとすると、リズはそっと目を閉じる。


「違うっ!! そうではないっ!!!!………………分かったから!!」



 呼吸を整え、なんとか落ち着いて和の言葉を話す。


「…………ココ キミダケ キョウハ ヤスム  アシタ シュツパツ」


 セシルの話に静かに頷く。



 ドアを閉め、息を大きく吐く。


 一体、どうなんだ。喋れるのか? 言葉は分かるのか? 簡単な言葉だけを覚えてきたのか……



 疲れが押し寄せ、宿主に湯浴みと手伝いを依頼し自分の部屋に閉じこもる。



 落ち着かないな…………とりあえず、今日一日、彼女には身体を休ませてもらうことが最優先だ。あとは……僕も寝よう。


 彼女からしてみれば長い航海に比べればたった1日の移動などあまり変わりないかもしれない。だが、新天地に着けば休む間などない。表情には出さないが、なんとなくここでストップをかけるべきだと思ったのだ。





 何時間程寝ただろうか、空腹で目が覚める。窓を見ると、日が暮れているようだ。


 そうか、お昼も抜いてしまったのか。お腹が空いたな……


 身体を起こし、ここがどこだか一瞬考える。



 ――っ!?


 慌ててベッドから降りる。


 ――しまった!!食事の段取りをしていなかった。彼女もお腹を空かせているに違いない。そもそも、お昼はどうしたのだろう……


 マントを羽織り、慌てて部屋を出ると、宿の食事処よりいい匂いがしてくる。一階へ降りてみると、すでに人でいっぱいのようだった。



 食事など、いつも用意してもらうのが当たり前だった為、頼んでおくのを忘れていた。身分を明かすのは控えて泊まっている為、特別扱いもない。



「旦那、外へお食事で? 奥方も湯浴みのあと、すぐに横になられたとのことなので、そろそろ起きると思いますよ」


 宿主がセシルに声をかける。マントを羽織っているのを見て、外へ出ると思ったのだろう。実際は、平民とは異なるこのきらびやかな衣装を隠すためなのだが……


「あぁ、そうだな……外でも食事は出来るな……どこかいいところを教えてもらえないか?」



「まぁ、そうですね。ここら辺だと、モアイの店が評判いいですよ。なんでも、変わった料理を提供しているとか。なんでしたっけ……確か、コメを使った異国飯が美味しいとか」


「そうか、ありがとう」


 異国の料理か……ここに来てからほとんど食べてない彼女の口に合う料理が見つかるかも知れない。


 店主に場所を聞き、お礼を渡す。


「こんなにっ! ?旦那、やっぱりどこぞのお貴族様で? ……なんというか、オーラ? が少し違うような……それに、奥方様がまるで王女様ようなドレスだったと、女中どもが騒いでいましたよ」



 まずい……多かったのか? まさか一般の宿にその王族が泊まっているのだと気付かれれば、身の安全にも関わる。マントを羽織っているとはいえ、元は領地に行く為の装いだった為、リズの方はかなり気合をいれたドレスだったことを忘れていた。


「いや……妻……との旅行中でして……こんな機会ですから、贅沢にと……ハハハ」


「なるほどね………分かりました!! お任せください。頂いた分は精一杯サービスさせてもらいますよ」




「……あぁ、ありがとう」


 リズの見た目から、外国からの旅行者と思ってくれたのだろうと、ほっとする。




 海沿いの町のため、外国からの輸入品や立ち寄る旅行者も珍しくない。おかげで、リズが目立たずに済んだ。



 それにしても、リズの体型が分からなかった為、ひと通りのサイズを用意し簡単にあとからサイズを微調整したドレスとなってしまった。本来、長時間馬車に乗るならもっと軽装が良かったのだろうが、最初の印象は大事だからと重い格好となってしまった……


 慣れない土地に慣れない衣装、彼女には負担をかけてしまってばかりだ……




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