いつかのお話をしましょう
「第8王子様!?」
記者はセシルの前に連れてこられると、驚くが、どうせ捕まるならと不躾なことを聞く。
「裁判のあとにも関わらず、公爵家の馬車に乗ってお出かけだったようですが、どちらへ?」
「貴様っ!! 殿下に失礼だろうっ!!」
護衛が口を封じようとする。
「あぁ、構わない……」
記者は密かに笑う。噂どおり、第8王子はお優しいようだ。
「どうやらご令嬢が私と話したいと強く希望されてな……だから忠告しに行ったのだ。結婚式で妻だけと誓った身だと。これ以上私への好意は不敬とみなすとな……」
威厳を感じさせるその話し方に、思わず記者は背中が冷たくなる。
「それと、今までは黙認していたが、これ以上下品な記事を書いてみろ? 王族への侮辱罪になると、仲間に伝えてくれるか?」
王族への侮辱罪……死を意味するその言葉に、ただ頷くしか出来なかった。
「では、今すぐ行け」
震える足で走り去っていく姿を見送ったあと、キアは笑いながらセシルの肩をたたく。
「兄さんかっこよかったです!! なんというか、めちゃくちゃ王って感じでした」
「いや、僕にはこれは向いていない…」
――とりあえず、これでリズを心配させるような記事も書かれないだろう……
キアと別れ、早馬でリズのもとへ向かう。
「セシル様!!」
――あぁ、これだよな……
「リズ……」
使用人達もいる前だが、出迎えるリズを思わず強く抱きしめる。
「君だけがいい……」
「??????」
春がめぐり、ようやく貿易に関しての準備が整った。領地には様々な国がその場で品物を引き渡し、受け取れるよう、新たな取引場としての拠点づくりをした。
リズが主体となり、船場からすぐのところに宿を設け、旅の疲れが取れるよう各国の文化を意識した来賓室を作った。豪華なづくりにした部屋もあり、そこで話し合いも可能だ。
「王都にも負けないかもしれませんね」
正直、貿易に関してはかなり立派な作りだ。
「この地はリズにお世話になった国がメインだからな。王都に比べれば規模は小さいが、それでも僕1人では叶わなかった」
「ふふふ、そろそろニアさん達が遊びにくる時間ですわ」
「あぁ、確か……赤子も連れてくるのだろう?」
「えぇ、ひと月経ったので、お義父様にお顔を見せに行った帰りに、こちらにもよってくださるみたいです!!」
「はは、初孫に大盛り上がりだったからな……」
「あら、でもしっかりお祝いの品を用意されてらっしゃるのは、セシル様も楽しみなのでは? 甥っ子ですものね」
「まぁ、な」
城へ戻り、ロゼ達の馬車を待つ。
「ようこそおいでくださいました、陛下」
「……今日は兄として来たのだ。堅苦しい呼び方はやめろ」
「ふふ、そう言うのならセシル様は公爵様とお呼びしなければならないかしら?」
後ろに控えるニアの言葉に、セシルは苦笑いだ。
「……ようこそ来てくださいました、兄さん」
「公爵が不満ならお前も王族の権利を残してやるかと提案しただろう?」
「いえ、普通は他の兄弟は他の貴族が不満をもたないよう侯爵以下にするのが慣例でしょう……それを公爵にされるとは……しかも、特別権利が別で与えられては、目立ちすぎます」
「立派な功績を残しているんだ、能力に応じ、公平に与えた階級のつもりだが?」
「…………立ち話もなんですし、中へどうぞ」
執事の機転でようやく中へと入る。
「わぁ〜〜、可愛いですわ」
「ふふふ、そうでしょう? 私と旦那様の子どもですもの。可愛いに決まってますわ」
「それにしても、よく間に合いましたね」
妊娠を告げず、王からロゼに王位継承をゆずると告知された日、ロゼはあろうことかそのタイミングでニアの妊娠を発表したのだ。安定期には入ってはいたが、同行していたニアはお腹の目立たない装いをし、非公開にしていたこともあり、全員が驚いた。何よりも国王が、初孫の知らせに飛び上がり、戴冠式も就任パレードも異例の速さで決めてしまったのだから大変だった。
「まったく、旦那様ったら……嬉しさを超えるととんでもない行動をするんですから……」
「え、兄さんがですか?」
「ふふ、本当はこの子がお腹にいると分かった時、すぐに領地内でお祭りを開こうとしたんですよ。安定期に入るまではと止めていたんですよ」
「それで、前陛下に呼ばれた日、安定期はいつかと聞かれて、もう入ってるって伝えたら……ふふ、あの場でつい言ってしまったみたいで」
――そういえば、リズが義妹になった日も帰らないでずっといたもんな……
ずっと完璧だと思っていた意外な一面を知る。
「それで、お身体の具合はもう大丈夫なんですか?」
「ええ、大分良くなったわ。よく眠っているし、抱いてみる?」
「起こしてしまうのでは?」
「そろそろ起きる時間ですので大丈夫ですよ」
「では……緊張してしまいますわ……」
そう言って抱っこするリズに、セシルは初めてあった日のことを思い出す。
――あの時も、このように緊張していたのだな……
当時は堂々と見えていたが、あの時の表情と同じように微笑む彼女を見る。
「……だが、良いものだな」
「だろう? 息子でこの愛しさだ。もし……娘か姪が出来た日には、俺は自分が何をしでかすか分からん……その時は、お前が俺を止めてくれ」
「…………はい」
赤子を連れ、リズとニアが別の部屋へ行くのを見届けたあと、気になっていたことを兄に聞く。
「ところで、シチ兄さんはどうされたので?」
ロゼは就任式の日、慣例どおり他の兄弟に爵位を授ける。だが、そこにシチの名はなかった。国外追放されたのだから、当然なのだが、やはり気になっていたのだ。
「聞いていないのか?」
「何をです?」
「イナ国でキア殿のもとで鍛え直してもらっているぞ」
「なんですって!?」
「彼のもとでなら状況も分かるし、真面目に働けば最低限の暮らしと安全は保証してもらえる……彼はずいぶんと乗り気でこの話を受けてくれたから、てっきり知っているものだと思っていたが……」
――考えるのは止めとこう。まぁ、今度遊びに行った時に様子でも見ておくか……
楽しそうにシチに仕事させるキアが容易に想像できる。
「旦那様、リズさんが寝かしつけてくれましたのよ」
「さすが我が義妹だな!!」
「あぁ、リズ。ありがとう、おかげで兄さんとゆっくり話が出来たよ」
「ふふ、私も赤ちゃんを抱っこさせてもらえて楽しかったです……とても可愛らしいですね」
「あぁ、そうだな」
「?」
「ふふ、いつかのお話、今度ゆっくりしましょうね」
「っ!?」
翌年、姪っ子が産まれたとの知らせに、3ヶ月にわたる祝日を作ろうとする王を、セシルが必死に止めることになった。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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