君が今相手しているのは、誰だと思っている
セシルの隣には、アマンダがくっつくように座るる。キアはあからさまに睨みつけるように彼女を見るが、セシル以外目に入っていないようだ。
「失礼だが……」
「アマンダとお呼びになってください」
「……アマンダ嬢、もう少し離れてはくれないか?
なんというか、初対面の距離ではないだろう」
「まぁ、そんな悲しいこと仰らないで下さいませ。未来の夫婦となる関係じゃないですか……」
「アマンダ、それは……」
無理に同席した父親に口を挟まれ、再び睨む。だが、今度は言い返すことはせず、セシルの腕に強くしがみつく。
「それは……なんです? お父様は、アマンダとセシル様を結婚させてくれると約束してくれましたわよね? だから薬も食事もとりましたのよ?」
「…………」
「アマンダは約束を守り出したのに、お父様は嘘をつくのですか?」
「…………」
「セシル様、本当は第1夫人が良いんですのよ。でも、アマンダは良い妻ですから、第2でも我慢します。その代わり、アマンダといっぱいいて下さいね」
「こっ」
「いい加減にしろ」
セシルが断ろうとするより先に、キアが切れる。
「まぁ……先ほどからあなた……そもそも誰ですの? セシル様の付き人だと思ってましたけど、未来の妻への口のききかたには気をつけなさい」
「公爵だか1人娘だか知らないが、なんだ!? それが親に対する態度か!? 食事をしてあげるなど、誰のためだと思っているんだ!? 」
――そう言えば、キアは父を亡くして跡を継いだと言っていたな。あの言い方だと、他の家族も早くに亡くしているのだろう……
「アマンダの幸せは皆んなの幸せなのよっ!? そうよねっ!!?? お父様!!!!」
「あっ、あぁ……」
勝ち誇った顔をするアマンダに、今度は公爵相手にキレる。
「だったら……だったらもっとちゃんとしろ!! 娘を甘やかした結果がコレだぞ!!?? 意思が通らなければ食事も薬も拒否……今っ、兄さんが断ったら、次は何をするか分からないぞ!?」
キアの言葉に、公爵はハッとする。高い地位と身分が、今まで娘の願いをなんでも叶えられてきた。その結果が、今なのだ。明らかに断ろうとするセシルの言葉に、娘がどう反応するのか、容易に想像がつく。
「…………すまなかった、妻を早くに亡くしたばかりに、娘を甘やかしすぎた……」
「お父様っ!! こんな無礼者に謝る必要なんて」
バチーーンッ!!!!
部屋中に大きな音が響く。
「なっ、あ……」
その力は強く、鼻から血がしたたり落ちる。
「お父様……何を……」
自分の頬を思いきり叩いた公爵は、慌てて駆け寄ろうとする使用人を止め、鼻血を粗くさっとぬぐう。驚く娘に、目をそらさずそのまま話しかける。
「どうだ? 驚いただろう。これがお前が皆んなにしていることだ」
「アマンダはそのようなことは…」
「お前がやつれていくのを毎日見るたびに、周りは、私はどれほど身を切られる思いか……自分の身体を大事にしないのは、傷つけているも同然だ」
「何を言ってますの!? それより、そんなはしたない顔のままセシル様に近づかな……」
「そして、この無様な姿をお前もさらしているのだ!!」
娘の目の前まで行き、紅茶を飲もうとする手をつかむ。
「誰が……無様ですって??」
「アマンダ、お前はもう成人したんだ。なのに、いつまでも子どものような振る舞いはやめなさい。食べたくないのであれば、もう食べなくてよい。その代わり、私も一緒に食べるのをやめよう。そうすれば、今の地位も維持は難しくなり、やがて使用人は去り、いずれは何も残らなくなるが、お前が本当にそれを望むのであれば仕方ない。最期まで付き合おう。だが、それでお前の希望が叶うわけではない」
「うちは公爵家なのですよ!! そんなことには」
「なる。父は……王は働けるのにその職務を放棄した者には、たとえ公爵家だろうが徹底的に追求する。剥奪もありえることだ。もちろん、全ての貴族の追求が出来ているわけではないが、君が今相手しているのは、誰だと思っている」
セシルは静かに立ち上がる。
「僕は……私はロザード国第8王子だ。今回は君に、妻も愛人も迎え入れるつもりはないと言いにきただけだ。だが、このような公爵家の内情を知った以上、王家としてその地位にふさわしいかどうか、判断する必要があるだろう。常に見られていることを忘れるな……君の父君は問題なさそうだが……もし今の君が跡を継ぐのであれば、取りつぶしも考えよう」
「セッ、セシル様……アマンダは……」
「セシル殿だ」
捕まれそうになった手を冷たく振り払うと、キアとともにその場を去る。
「セシル殿、お待ちを……お見送りを」
公爵があわてて追いかけ、馬車を早急に段取りしする。
「この度は、娘のためにと失礼なことを致しました」
「……彼女は、まだ若い。もう一度、チャンスをやってあげてくれないか?」
「よっ、よろしいのですか!?」
引きこもりで、世間との関わりを避けていた頃の自分を思い出す。
「だが、次が最後だ。それ以上は王家として見逃せない」
「……感謝致します」
「兄さん、かっこよかったですが、最後はやっぱり兄さんですね」
「……疲れた」
帰りの馬車、ようやく息ができる。アマンダが過去の自分に少し重なって見えた。
――最初からこうするべきだったんだ。
初めからセシルが毅然とした態度を取っていれば、アマンダもすぐに身を引いたかもしれない。そもそも公爵に連れ出されることもなかっただろう。
「……キア、お前にもすまなかった」
「兄さんが謝ることは何もないですよ? 一緒に何か出来て嬉しかったですし」
「……イナ国には行けないが、必ず毎年顔を見に行こう。キアも、こちらにはいつでも泊まりに来ていいぞ」
「っ!! はい!!」
城へ着くと、あたりを見回す。
――いたな……
隠れていた記者を見つけると、捕らえさせる。
「わぁ!?」
「お前は?」




