愛しい息子へ
――思ったよりも切り込んできたな……
まさか国外追放の策略まで追求するとは予想外だった。だが、確かにシチの言いようによってはただの文書偽造指示罪くらいした確かな証拠はない。あとは、キアや周りが動いたことなのだ。
あの時、リズが止めていなければ、怒った王は話を聞くことはなかっただろうし、今までのセシルであれば、面倒ごとに巻き込まれたくないと、さっさとリズとともに本当にイナ国へ移ろうと選んでいたかもしれない。
――リズの兄との約束がなければ、とうにそうしていたかもしれない……
実の兄と闘ってでも守りたいのは、貿易が出来るようになれば、いつか和の国直通のやり取りも叶うかもしれない。多様な国の者たちの出入りが多くなれば、リズがこの地で異国の者として浮くこともない。
「指示したのは……セシルの……弟の便箋を欲しいと頼んだことのみです。それを使ってイナ国へ文書を送った覚えも、それ以上のことをしたわけでもありません」
「っ!!??」
「もし、僕がそれ以上に何かしたと言うのなら、その証人とやらを連れてきて欲しい。直接話を聞きたい」
――そうくるか……
今回、王族侮辱罪を外すため、領地内での裁きとしたことで、この場に連れてくれなくした。彼の証言を記録した公書と、あれだけの騒動には父を始め兄弟達が集まっており、証言には十分のはず。
「その者は、モアイの店の店員だとか……普段から空いてる席があっても満席と偽りチップを多くねだっていたとか。その者の虚言癖は、むしろ民の方がよく知っているのでは?」
「……なぜ、セシルの紋章が押された便箋を欲しがった?」
「父に会う為です」
「何?」
「父上、いえ殿下は末息子を可愛かっており、成人の儀のあとも異例を作って1年近くも城へ置いておいたくらいですから……王位継承権を剥奪され、見捨てられたも同然の僕ですが、最後に、親子で話す場を作りたかったのです。弟の名を借りてでもね。それくらいしなければ、もう、父は会ってくれないと思っていますので」
「シチ……王である父を使ってまでしらばっくれるつもりか?」
自分の名を出され、さすがに黙ってはいられなかったのだろう。思わず立ち上がる王を判事がなんとか落ち着かせる。
「落ち着いて……では、文書偽造と第7王子になりすまそうとしたことは認めるのだな」
「えぇ、今となっては愚かだったと反省しております。ですが、イナ国とのやりとりは、おそらく混乱に乗じてお金を盗もうと考えたのかと……」
シチの言葉に、モアイの店員と聞いて民衆の雰囲気が変わる。
「あの店員には私も横柄な態度をされたことがあるわ」
「あぁ、確かにあいつならやりそうだな」
「そもそも、第6王子の指示があったならすぐに捕まるのもおかしいわよね?」
――ここまで評判悪いのか……いや、まぁ分かる。
だが、コカラの涙を思い出す。
「ここで重要なのは、兄が文書偽造とその男とのつながりを認めたことです。あの男に、イナ国の言葉を書き郵送するほどの語学力があるとは到底思えません」
――民衆の心に働きかけるなら、こちらの方がよっぽど説得あるだろうな……
「確かに……」
「無理だわ」
「どう考えても無理だな」
「よく考えれば、そんな大それたこと出来ないな」
風向きが変わる。シチの民衆を味方につける作戦は失敗と言えるだろう。
「くっ……」
「こちらが我が国に送られてきた手紙となります。その外国宛に送られた手続き、内容は一国民が出来る内容ではなく、明らかにセシル殿と同等の地位である者と分かります」
「…………」
「この手紙には王位継承権を棄権し、イナ国への移住手続きが終わればすぐにでも移り住むという旨が書かれてます。是非弟の力を借りたいと……」
「何か異論は?」
「…………」
「王の名を出した以上、王族であっても陛下が望めば侮辱罪が適用されます……」
判事が王の意向を伺う。普段息子たちに甘い父だが、民衆の前では威厳ある王として慕われている。
「我の名を悪用するとは言語道断だ、判事に代わり言い渡す。第7王子を王族の身分剥奪とし、国外追放の刑に処す」
「父上っ!!」
叫ぶシチの顔を見ず、そのまま席を去ってしまった。セシルには分かる。あれは、涙を見せまいとする時の我慢している時の父の顔だと。
「これにて、閉廷とする」




