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それぞれの裁き


「ぐすっ、うっ、うぅ……本当に、うっ、ごっ、ごめんな……ざい」


 大きな涙を流すコカラに、ハンカチを差し出し、肩を抱きかかえるように料理長が寄り添う。


「コカラさんが悪いわけでは……」


「いいえっ、従業員の不正なんてわたじのぜきにんよっ……」


「いや、それを言うなら彼をそそのかした兄と兄弟の僕にも非はある」


 


 おそらくシチからの報酬であるコインを数えていたところを、城の衛兵が捕まえ、拷問にかけようとしたところ、痛いのは嫌だとすぐに吐いた。セシルのイナ国での出来事を盗み聞きし、それをあろうことかシチに情報を打ったのだ。便箋を盗んだあとは消える手はずだったが、欲の出た彼は他の兄弟達にもつけいる隙がないか残って探っていたのだった。



「あの子、店のお金には手を出したことはなかったのよ……」


 必死にかばうコカラだったが、リズ達に迷惑をかけたことがよほどショックだったようだ。


「私も……一緒に責任をとるわ。あの子をこの城に連れてきた責任もあるもの」


「……そうだな、部下の責任は君にもとってもらおう」


「っ!? セシル様!! お言葉ですが、それはあまりにも……」


 料理長が前に出る。


「君には月に2度、こちらの城でオコメの料理を作ってもらう。それが、君を許す条件だ」


「へ…………!?」


「妻のリズにはツケモノも提供すること、いいな?? 料理長も、彼女と協力してキッチンを管理してくれ」


「はっ、はい」


「ぐすっ……それで、あの子は……」


「……王族侮辱罪はなしにしてもらった……この地の、領主として裁くが良いか?」


「〜〜っ、ありがとうございます」


 王族侮辱罪となれば、間違いなく死刑になる。なんとか父を説得し、国外追放処分で手を打った。



――ふぅ、こちらはこれくらいで良いが、問題は、兄の方だろうな……






 他国を巻き込んだ今回の件、セシルも同じように王位継承権を剥奪してやろうと考えたようだ。今日は、シチとの裁判の日。会いたくなかったが、ここまでの大騒動となれば、出ないわけにはいかないのだ。




「セシル様、大丈夫ですか?」


「あぁ……心配ない」



 リズには着いてこないよう頼んだ。遠くの地から来る異人館の整備には、彼女の参加は不可欠だ。それに、リズを巻き込みたくない。


「行ってくる」






 久しぶりの王都、本当であれば、王位継承者の正式な発表が行われる時期だ。だが、今回は違う。シチはまだ正式に婿入りの手続き前であり、領主の座を失い、王位継承権を剥奪されていても、まだ王族なのだ。



「セシル、行くぞ」


「ロゼ兄さん」


「長いこと引きこもっていたお前とは違って、俺はこういうことにも慣れているもんでな」


「…………ありがとうござ」


「義妹のためだ」


「あっ、はい」


「いいか、真実よりも、世間はどちらが悪と見るか、それだけを重要視する。シチは既に分が悪い。だが、油断するな」


「…………」


「……あいつのことは、俺が面倒見る」



 セシルが気がかかりだったことを見透かされたようだった。兄を相手に裁判をする、やったことは許せないが、裁かれることを望んでいるわけでもないのだ。



――甘いな……


「分かりました」



 裁きは、民衆の集まる中で行われる。王族同士の不祥事、あらぬ噂が流れる前に決着をつけるためだ。セシル、シチ、イナ国からはキアが参加する。

判事の横には、王である父も座る。



「それで、既に協力者からの証言は得ている。文書偽造罪はその者に処分が出されている。そのバッグにはシチ……第6王子からの指示があったと」



「まずは、イナ国からの損害を請求致します。兄さ……第7王子であるセシル殿を迎える為の諸手続きの費用、移送費として我が国の通過でおよそ300万イナル」


 シチは淡々と書類を読み上げる。他国を巻き込んだ不祥事ではあるが、費用としてはむしろ小規模だ。


「そして……この私をぬか喜びさせた精神的苦痛に伴う慰謝料として500億イナルだ」



「っ!?」


――目が本気だ……相当、怒っている……


「今回の不祥事、我が国の過失であったことは受け入れますが、キア上官……それは、あまりにも高額な請求では」


「これでも全く足りないくらいだと思っている……我が国の王からせめて半分にしろと言われしぶしぶ折れた金額だ……」


――これで半分っ!!?? 傷心したキアを敵にまわしたくはないな……


「ごほんっ、イナ国への正式な謝罪とかかった費用の全額負担を第6王子シチの個人資産から出すように……それと、その慰謝料については、その……カウンセリングの後決めさせてもらえればと……」


「〜〜〜〜っ、異論ありません……」


「異論ありません」


 キアはちらりとセシルを見ると、ため息をついたあと、仕方なしにその判決を受け入れる。兄のいるロザード国を破産させるわけにはいかないと思ってくれたのだろう。キアの同意の後、シチも静かに返事をする。




「おほんっ、では次に、第7王子セシル殿の名を語り、文書偽造の指示を行った件についてだ。ただの偽造指示罪だけではなく、それを利用し王位継承権の剥奪、領地の乗っ取りおよび国外追放を企てた疑いについて、何か弁解はあるか?」



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