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家族の選択


「とりあえず、一旦日を改めてこの話はしよう」


――危ないところだった……一線をこえてしまいそうな境地に入るところだった……


 高慢な態度から、急に兄と慕う変わりように思わず萌えてしまった。だが、考えてみればこれは簡単な話ではない。



「兄さん?」


「この国の地をもらうということは、この国の一人として生きるということだ。それは、少し考えたい」


「そうですね……」


 あからさまにショックを受ける弟に申し訳なくも思うが、ようやく港を開放し、領主としての(まつりごと)がまわせるようになったところだ。それに、リズの兄と、何よりも彼女を優先すると約束したところなのだ。


「?」


「なんでもない。それよりもせっかくの家族の再会だろう? 母の、こちら側の親戚については知らないんだ。教えてくれるか?」


「!! もちろんです。では、兄さんと義姉さんもどうぞこちらへ!! すぐに食事を用意させます」






 さすが、あらゆる作物や資源が豊かな国だけあって、もてなされる料理は色とりどりで華やかだ。



「ふふ、コカラが飛んできそうですね」


「そうだな、珍しい品ばかりだ」


「お口に……合いますでしょうか?」


 セシルが口に運ぶ料理を熱心に見つめながら聞く為、なんとも食べづらい。だが、どれも素晴らしいものばかりだ。


「あぁ、うちの料理長にも負けない美味しさだ」


「ここも、もう兄さんの(うち)ですよ……まぁ、それはいずれですが。それより、そのダイヤについて、見てほしいものがあるんです」



 そう言うと、使用人が箱を持ってくる。


「これは……すごいな」



 中には拳ほどもある黒ダイヤが入っていた。


「ふふん、これをですね、この国の水の中にいれますと、ほら!! 黒色から今度はクリアな輝きに変わりましたでしょう? このダイヤはかつてこの地が始まった時に永遠に豊かさが保たれるようにと、不思議な力が授けられたと言われているんです。義姉さんが持っているものは、遠くに嫁ぐ大叔母に、お守り代わりに渡されたらものだと言われてます」


「お守り、ですか?」


「はい、それに同じダイヤをカットして作ったものですから、いつかまた戻ってくるようにとの意味もあったのかと」


「……セシル様、やはりこのダイヤは受け取れませんわ」


「あっ、義姉さん、そのような意味で言ったわけでは……」


「いいえ、私なら、ダイヤだけでもまたこの地で1つになって欲しいと……思うはずですわ」


 リズもまた、もう故郷に帰れない身として、似た境遇を重ねたのだろう。


「リズ……そうだな。この黒ダイヤは返そう」


「兄さんまで!! それは、兄さんの……母殿の形見なのでしょう?」


「そうだが、かまわない。母は僕を産んですぐに亡くなった。恋しく思うほどの思い入れもない。だから、このダイヤはこの地にあるべきだと思っている」


「……分かりました、では……」



 帰りの日、次の約束を交わし、イナ国の貴重な調味料、それと、黒ダイヤの代わりにと大量の宝石を渡され家路にもどることになった。


 どこから情報がもれたのか、珍しい果物や調味料に、コカラが悲鳴とともに城へ飛んできたことはいうまでもない。






「それで、どう考える?」


 長いこと留守を頼んでいたロゼに、お礼と一連の話を伝える。


「…………」


「もう決めているのだろう?」


「はい」


 道中、リズにも考えを伝えていた。


「僕は、断ろうと思っています」


 せっかくリズを受け入れてくれたこの地を離れようとは思えなかった。キアは言葉が通じるが、イナ国で暮らすということは、文化も言葉も、また一からになる。それに、2人で初めて家族となった地だ。離れることは出来なかった。


「そうか、お前がいない間に、俺は各関係者と既に信頼関係は築いている……聞いていると思うが、来年には産まれてくる子の為にも、王位継承の座を本気で取りに行くぞ?」


「分かっています。信頼関係ならこれからいくらでも取り返します」


「……そうか。では、また会おう」


 ロゼは少し驚いた。王位継承権など考えていないと返されると思っていただけに、セシルの返事は自分への挑戦にも受け取れた。





「お義兄様にお土産は渡してくださいましたか?」


 リズは、ニアに宝石の中から穏やかな気持ちになると言われている貴重なものをロゼから渡して欲しいと頼んでいた。イナ国の宝石は美しいだけではなく、黒ダイヤほどではないが、どれもなんらかの力を持っている。その為、他の宝石よりも高い価値があるのだ。


「しかし、本当に良かったのか? あれは……」


「はい、あれは絶対ニアさんお渡ししたかったんです」


 あれはキアがくれた宝石の中でも最も大きく、美しく輝いていた。売れば高値に、身につければ相当な華やかさを出すものだが、リズはその効果を聞いた時からニアに渡そうと決めていたのだ。



「私にはこれがありますから」


 そう言って、リズはセシルが綺麗だなと手に取った色のない、透明なダイヤを大切そうにさわる。


「めったに市場に出ることはないと言っていたが、その、控えめ過ぎたか……」


 この国では色のある宝石こそ求められることが多い。セシルが手に取ったそれは、キア曰く、想いを伝える効果があるのだとか。


「ふふ、目立たなくても悪いことではないですよ。ほら、ここに」


 そう言って指を出す。


「ずっとつけていられますでしょう?」


 通常、ドレスに合わせて宝石を選ぶが、色のないダイヤは目立たない分いつでも身につけられる。



「ありがとうございます」


「〜〜〜〜っ!! 」







いつもお読みいただきありがとうございます!

評価、コメント、ブクマ、非常に励みになっています。最終話まで残りわずかです。

評価宜しくお願い致します。

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