100年ぶりの再会
「着きましたわね」
「そうだな……」
新婚旅行も兼ねた旅路は、しっかりと堪能してしまった。イナ国への旅路で、しばらく留守を任せた執事たちや兄に申し訳なく思いながらも、リズのあまりの可愛さにまともに顔が見られない。
「セシル様? どこかお辛いところでも?」
「いや、だ、大丈夫だ……それより、イナ国の上官が自ら招くとはな」
広間に通され、手紙で書かれた通り、リズはあの日のパーティと同じ格好で挨拶をする。
「このたびは……」
「堅苦しい挨拶は良い……あの水場で舞いとやらをしてもらえるか?」
上官の男はパーティの時挨拶を交わしただけだった。歳はセシルと変わらないくらいだが、既にイナ国では父である王と直接やり取りするほどの立場になる。だが、リズへの対応に黙ってはいられなかった。
「失礼、イナ国では挨拶はされないので? 妻は貴方様とは初対面ですので……」
「……私はキアだ。イナ国の上官をしている。失礼な態度を許して欲しい、つい……急いでしまったようだ」
「いえ、セシル様の妻で、リズと申します。この度はご招待ありがとうございます」
少し緊張がとれたのか、先ほど指をさされた場所へと移動する。室内だというのに、水場が設けられている。
「では……」
リズは事前に用意していた鈴で、前回見せた舞いとはまた違う、なぜか神秘的な雰囲気をまとった動きだ。それもまた見事なもので、セシルは付き添いであることを忘れてしまう。
「っ!?」
水場から噴水のように水が動く。一瞬驚いた表情を出すが、そのまま水の動きに合わせ見事な踊りを披露する。舞いが終わり、じっと見ていただけのキアは、しばらく固まった後、リズに近づく。
「……やはり、そうなのだな」
「あの…?」
困るリズに、セシルは彼の腕をつかむ。
「少し近づきすぎているのでは?」
「……あぁ、いや。すまない、あまりの感動に……きちんと説明しよう……いえ、説明いたします姉さん……」
「姉さん!?」
リズはセシルに見られ、慌てて首をふる。まったく身に覚えはないようだ。
「いいえ、その黒ダイヤが白いダイヤに変わっているのがその証です」
そう言って、リズの着物の帯留めに使われているダイヤを指さす。それは、セシルがリズに渡したあのダイヤだ。
「私の曽祖父には、姉がいたようなのですが、ロザード国との友好関係を築くため、嫁いでいったと聞いています。その時、この国のダイヤを持って行ったと……いつか、故郷に戻れることがあれば、帰ってきた証として我が一族と分かるようにと。だが、とうとう彼女が戻ってくることはなかったようです。そこから、いつか彼女の子孫が戻ってきたとき、曽祖父の意向で渡して欲しいと預かっているものがあるのです……長く渡せないままでいましたが、先日のパーティであなたのそのダイヤを見かけた時、もしやと思ったのです」
「それで、妻宛てに手紙を送ってきたのか」
「えぇ、私が用があるのは彼女だけでしたから……」
そう言って、ちらりとセシルの方を見る。まるで邪魔だと言わんばかりの目をしている。
――この男、リズのダイヤを確認したとたん態度を変えてきたが、僕のことはまるで無視だな?
「長い時間がかかってしまいましたが、間違いありません。おそらく身分の高い者とつながっているはずだからと、たいして利益の出ないロザード国とこうしてつながりを持っていたのも、全てはあなたを見つける為でしたから!! 曽祖父の姉はとても美しいと聞いていましたが、やはり姉さんもお美しい。両親が他界し、もう今では姉さんだけが唯一の家族です」
「あ……あの」
「だから!! 姉さん、どうかこのままこの国に残ってはくれませんか? 曽祖父は、あなたに……この城があるこの地を残したのです。もちろん、今まで通り私が運営のお手伝いをします」
「ちょっと待ってくれ!!」」
「なんですか? 100年ぶりの家族の再会に水をささないでくれます?」
「おい、まず大きな誤解がある」
「誤解などありえません。このダイヤは必ず家族にだけ受け継ぐようにと守り抜かれた特別な宝石です。この国でも、このダイヤを所有するのは一部の王族と我が家門だけですから」
「だから、これは僕が彼女に渡したものだ」
「?」
リズはいつのまにか握られた両手をそっと離すと、固まるキアにゆっくりと話しかける。
「このダイヤは、夫から……セシル様から頂いたものです」
「え……」
「だから、これは元々僕の母からゆずり受けた品だ」
「それは、つまり……」
「100年ぶりの再会だな、弟」
「~~~~っ!!??」