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兄弟の距離感


 セシルはリズの選択に驚いた。まさか、兄を誘うとは……


「見事な踊りですね、これは?」


 ナダヤタ国の使者も2人の息のあった音楽と舞に目を奪われている。


「和の国の踊りのようです。僕も初めて見ました」


「我々はこのような場では自国らしさは抑えます。相手の文化に寄せる方が親密さを分かりやすく表現できますから……しかし、2人の考えは違うようですね、自国のスタイルに自信を持っている。それでいてロザード国の文化にも合っている。あなた方との新しい取り引きを楽しみにしていますよ」



 おそらく周りも、皆、本気でリズの舞いに見惚れ、兄の奏でる笛の音に耳を傾けている。曲が終わるとともに大きな拍手がなりやまない。


「兄様、私はこの地で自分を失うことなくやってこれています」


「そのようだな……」


 妹の堂々とした演舞に、これ以上ここに引き止められる理由もない。


「すぐに和の国へ戻ろう、我の仕事をきちんとやり遂げてくる」


「はい、お気をつけて」






「見送りは良かったのだろうか?」


 帰りの馬車で、リズに確認をとる。今後会えるか分からない兄弟の別れ。あのようにあっさりとした最後で良かったのだろうか。


「問題ありません……最後にいい思い出も出来ましたし、兄にはきちんと、いきなり連れ帰ろうとしたツケも払ってもらいましたから」


 あの演舞のあと、リズが他の者とダンスを踊ることは避けられた。だが、和の国の伝統文化の披露に他国がこぞって興奮し、是非また見たいと要望が殺到したのだ。そのため、セシル達の領地への寄附や投資の話が更に増えた。


「そっ、そうだな……」


――まさか、お兄さんとの共演はそこまで計算して?いや、まさかな……



 少しだけ、リズを今後、絶対に怒らせないようにと誓うセシルであった。









「さて、困りましたわね」


 リズはあのパーティの後、完全に出遅れてしまった他兄弟の妻達からお茶の誘いが届いた。王位継承として、他国との貿易は必須。セシルを落としめるつもりが、逆に自分たちの評価を落とす結果となってしまった。更に、ナダヤタ国や和の国だけにとどまらず多くの国との繋がりが出来たセシル達は、今や王位継承に王手をかけている状態だ。


「ええと、第2王子から第6王子の夫人まで見事に同じ時期にお茶会と来ましたわね。あら、こちらはイナ国からの招待状? あの時、パーティでセシル様と挨拶を交わしていたお国の方ですわね。私にわざわざお手紙を?」


 イナ国は、ロザード国と陸でつながっており、今までも国として繋がりはあったはずだ。わざわざ新たな港開拓をしている発展途上のこの領地と繋がらなくとも十分なコネクトがあるはずだ。


「セシル様とご相談した方が良さそうですわね」




「イナ国から?」


「はい、それも是非イナ国に来て欲しいとのお誘いでして……あの時の舞をもう一度とも書かれておりますわ」


「それは……だが、それだけで?」


 イナ国には、馬車でも1週間はかかる。舞いを見せて欲しいというだけでわざわざ呼びよせるような深い関係でもない。


「それに……もし来てくれればイナ国との優先取引権を渡すとも書かれておりますの」


「はっ!? 優先権を?」


 イナ国はロザード国と長い付き合いの割には、滅多にその貴重な塩や胡椒を出回らせないことでも有名だった。その貴重な取引の優先権をもらえたとなれば、王都よりも豊かな国脈を手に入れることになる。


「舞いで?」


「あの時と同じ衣装で、必ず来るようにと……」


「…………これは、素直に受け入れられないな」



――まさか、リズに一目惚れしたとか? あの時の彼女は女神のごとく麗しかった……となれば、リズ1人だけで行かせるわけには……しかし、往復でも半月は領地をあけることになる……それは、このタイミングでは……だが、1人は危険だ。ここは、諦めて……


「行ってみたいと思っていますの……」


「なっ!! なぜ……」


「もし、この話が本当ならセシル様にとっても、この地にとっても良い話でしょう? それに、1週間程の移動など全く問題ございませんわ」



 リズはこの国に来るための過酷な船旅に比べれば、休憩も取れる馬車移動など余裕とでも言いたそうな自信をみせる。



「……分かった。僕も行こう」


「えっ、でもそれでは……」


 シチの時のように、早馬で後から合流出来るような距離ではない。同行だけは、セシルは譲れなかった。


「君を何よりも優先すると約束した。それに、君の舞いを評価するところ、イナ国とは仲良くなれそうだ」


「それでは、この地の運営は……」


「問題ない、ロゼ兄さんに頼む」


 留守の間、他国とのやり取りを任せるということは、領地の内部情報を把握されるだけではない。セシルの地ではあるが、使者たちとの信頼関係をロゼ自身が築けば、今後実質的な権利は兄が持つことになる。


「ロゼ兄さんならば安心して任せられるし、この地に恩恵が来ることには変わらない。僕は、領主ではあるが、君の夫だろう?」


「でも、あの……ニアさんが……」


 妊娠のことはセシルにも話してはいない。彼女が公表するまではするべきではないと思っているからだ。


「? もし、心配ならば、先に相談してくれて良い」







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