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披露


 今後の詳しい話し合いについては、後日セシルの領地で行われることになった。あくまでも今夜はパーティ、仕事の話はこのくらいにして、そろそろパートナーのエスコートも紳士の役目だ。


「それで、妹のことはどう思っている?」


 リズのもとへ行こうとしたセシルに、兄は引き止める。和の国から政治の話をするだけならば、語学の堪能な使者を送るだけで良い。彼の目的は、自分の目で、妹をここに残して良いか判断するためであった。


「……返答によっては、全て白紙に戻しても構わない所存だ」


 その発言自体、誰かに聞かれてしまえば外交問題となる。通訳をためらう付き人に、セシルは手で止める。


「ワノコトバ デ ハナシマス」


 リズと2人で話していた時よりも、ゆっくりと、はっきりとした口調で話していた。つまり、自国のトップとして、リズの兄として、これから付き合うにふさわしい相手なのか、見定めているようにも思えた。だからこそ、セシルは和の言葉で返す。


「リズサン カゾク デス ヒトリダケノ ツマ カナラズ ダイジ デス スベテヨリ リズサン マモリマス ヤクソク」


 セシルの言葉に、兄は黙ってうなずいた。おそらく、このパーティ会場で、難易度の高く、ニーズの低い和の言葉を理解している者はいないだろう。そのような状況で、リズの夫は妹を一人置いていくだけの十分な言葉を話せた。咄嗟に出来るものではない。


「…………感謝する」


「ハイ」


 



 



「リズ……ここにいたか」


 テラスでは、リズが1人休んでいた。先にロゼがニアを迎え、帰ってしまったようだった。


「ロゼ兄が? 先に帰るとは珍しいな……」


「ニアさんの体調を優先させたのだと思います」


「そうか、リズは疲れたか? もしそうなら僕達も抜けて……」


「いいえ、せっかく練習してきたんですから……」


 そう言って、セシルのエスコートでホールに戻る。音楽とともに、それぞれがダンスを踊っている。完全に他国との交流に出遅れてしまった他の兄達は、せめてダンスで一目をおかれようとその腕前を披露する。


「ドレスではありませので、ゆっくりとした動きにはなりますが……」


「問題ないだろう、僕も皆の前で踊るのは慣れていない。そのくらいの方が助かる」




 セシルとリズだけは、その場の音楽を楽しむように、ゆっくりと動く。周りの高度なステップを取り入れた兄達に比べれば、ただ身体を揺らしている程度にしか見えないが、なぜか美しく引き立っている。思わず、リズに見惚れてしまいステップを崩す者も出るほどだ。



「……良ければお次は一緒に踊ってはいただけないでしょうか?」


 曲が終わり、相手を変えて踊るターンになる。リズをダンスへと誘う者が押し寄せる。


「あの……」


 夫とだけのダンスで終わっても構わないと、ニアには教えてもらっている。だが、その誘いが目上の者だったりする場合は無礼にもなる。その見極めをする為、パーティの参加車リストは頭にたたきこんでいる。今回の場合は、今後の貿易関係でお世話になる客人たちがそれに当てはまるのだろう。だが、その中でも誰の手をとるか……ナダヤタ国とは既に船の協力や貿易が決まっている中であり、他国と比べても1番のご贔屓(ひいき)先だ。だが、今日話に乗ってきた相手国の中には、大国の使者や、位の高い客人も多い。今の段階で優劣をつけることは避けたい。



 リズは頭を深く一度下げると、にっこりと微笑む。そして、男性方の前を通り過ぎると、自ら手を差し出す。


「一緒に踊っていただけますか? 兄様(あにさま)



 リズと同じく和の国の衣装に身を包み、先ほどのやりとりで2人が兄弟であることはその場にいた誰もが知っている。


 ファーストダンスは配偶者、もしくはパートナーと決まっている為、夫の次に踊る相手、それは自ずと1番に選ばれたという名誉を与えられる。その為、リズは遠い地から来てくれた、そして今後会えるか分からない兄を選んだのだ。だれもが潔く身を引いてくれるだろう。だが、1つ問題が残る。


「……踊り、とは?」


 外国の文化や言語を学んできたわけでもない兄にとって、踊るなど不可能に近い。そもそも、ダンスなど先ほど初めて見たくらいなのだ。


「大丈夫ですわ。兄様、笛を持ってこられているのでしょう?」


「あぁ……」


 長い船旅では、気を紛らわせるものが必要不可欠となる。さらに、重荷にならず携帯できるものとなれば、すぐに兄の趣味である笛を持ってきていると思ったのだ。更に、リズと同じであれば、ろくに休憩することなくここに来ているはずだ。そのまま貴重品を手元に置いているだろうと考えた。


「兄様、音楽に合わせた即興……得意ですわね?」


「いや、そうだが……ここの音楽は初めて聞くものばかり……」


「舞います」


「っ!?」




 リズは兄の腰にさしていた扇子を取ると、すっと姿勢をとる。兄は船旅の間肌身離さず持ち歩いていた小型サイズの笛を取り出すと、始まる音楽に耳を傾ける。


 すぐに笛音が奏でる音が同調するように響き渡ると、リズは即興の舞を踊る。兄弟で魅せる見事なコンビネーションに、思わず周りの足が止まっていた。

 

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