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小さな変化

「お久しぶりです、主君殿……まさか、お助け頂いた恩人があなた様の妹だったとは」


 当然通訳を介してだが、一部始終を見ていたナダヤタ国の使者が声をかける。


「こちらこそ、妹がお世話になったようで」


「お兄様? 彼らをご存知なのですか?」


「和の国でも、他国との交流を盛んにしようとしててな、お前が出た後、比較的距離の近いこちらとも親交を深めていたところだ」


 2人は固い握手を交わす。ナダヤタ国は、セシル達との一連の出来事を話す。


「……そうか。セシル殿、先程は大変失礼した。妹と長く連絡が取れず、思慮に欠けた行動をしてしまったようだ」


「いえっ、こちらこそ失礼な態度でした」


 セシルの対応に、少し驚きながらも初めてニッと笑う。どことなくリズに似た顔だ。


「リズ……良い夫のもとへ嫁げたようだな」


「私も、ご心配をおかけてしてすみませんでした」


「良い。単身で嫁いで筆をとる時間もなかったのだろう、それに、距離が離れていては手紙を出すのも大変だろう……それで、セシル殿、先ほど船を停める港を作っているとか?」


「まだ1カ国とのやり取りだけですが、遠方から来る使者や旅行客のための設備も同時に整えているところなので、今後は御国とも是非行き来をと思っております」


「ほぅ、それは光栄だが……同時にそれだけの投資とはずいぶん強気なのだな?」


「今回の建設は、彼女の為を思って作りましたので。長旅でこの国へ訪れてきた時、身体を休ませる暇などなかった、今後、貴方様や彼女がいつ出入りしても良いようにと願い建てたものです」



「それは立派な心意気だが……私情が強すぎないか?」


「彼女のことが第一ですので」


「ふむ……」


 国のためにと、リズを1人で旅立たせた身としては、これほど妹を大事に思ってくれる夫に何も問うことは出来なかった。領主としては、まだ利用国も限られている状況でここまでの投資は費用がかかり過ぎているようにも見える。だが、全く現実が見えていないわけでもないのだ。実際、貿易や使者の負担は強く、優秀な人材がすぐにリタイヤするほどの過酷さが問題となっている。また、港だけでなく宿場としてもお金が落ちるシステムは悪くない。


「ふむ、ナダヤタ国とは航路が途中から一緒だな、先ほどの話ではそちらの港を利用すれば日数は短くなるというし、我が国としても利点が多い。だが、特産品が魚となると、こちらの仕入れしたいものとは異なるな」


「もし、宜しければ、我が地でとれる宝石を港までお運び致しましょう」


 ロゼが名乗り出る。ナダヤタ国と先に品物について意見を交わしていたのだ。和の国が今宝石を細工しその加工品が高値になることに目をつけた。港で勝つことは出来ないが、資源はロゼが治める地の方が豊富にある。ちらりとセシルを見て賛同を問う。


「はっはい、わざわざ出向かなくても、先に希望の品をご用意しておきます」


「それは、手間が省けて良いな」




「港で品物が受け取れるとか……我が国も話を聞かせてもらえませんか?」



 そこから話はまとまり、完全に目の敵にされてしまった他の兄弟たちは話に入る隙もなく、ロゼとセシルの連携した貿易の新しい形に興味を示した他の国も参加することになったのだ。





「ふぅ」


 リズはテラス席に移った。もう自分の出番はないだろうと、休みにきた。いつもと違って、今日は外国の人がたくさん来ており、自分が浮くこともない。


「お疲れ様、リズさん」


 ニアも一緒に入ってくる。


「ニアさん、疲れましたか?」


「ふふっ、そうね。今日はいつもと違うパーティだから余計に緊張しちゃったわね」


「……今日は低いヒールなのですね、それに、あまり食事も召し上がっていなかったですわ。どこか、お身体の具合でも悪いのですか?」


「あら、ふふっ。皆さんリズさんに注目してしているから気づかれないと思っていたんですけど。やっぱりリズさんには隠せませんわね」


 ニアは、椅子に座り身体をゆっくりもたれかけ、お腹をさする。


「ふふ、まだどうなるか分かりませんが、授かったようなんです」


「っ!!」


「ですから、パーティに参加するのはしばらくお休みの予定ですの。お茶会、お約束しましたのに誘えなくてごめんなさい」


「そんなっ!! 気にされないでください。えっと、つまり、赤ちゃん?」


「えぇ」


「わぁ……さ、触ってもいいですか?」


「まだ何も変わっていませんが……ふふ、どうぞ」


 そっと触るお腹は、ニアの言うとおりまだあまり変化は分からないが、どことなく温かい気がした。


「元気な子どもが生まれますように……私の国では……お腹をたくさんの人に触られると、それだけ安産になるという地方もあるんです」


「まぁ、それは縁起が良いわね。でも、このタイミングで私が動かないのはやはり旦那様にとっては不利になってしまうのよ……」


 ニアは真面目な顔でリズの肩をつかむ。


「リズさん……本当はこんなこと、頼んではいけないのかもしれないわ……もし、もし余裕があれば、旦那様のことも支えてもらえないかしら……もちろん、お礼はちゃんとするわ」


 リズは首を横にふる。


「……そうね、ごめんなさい。王位継承のライバルにこんなことお願いしてはいけなかったわね」


「違います。お礼はいりませんって意味ですわ。お2人には、これまでずっと支えてもらってきて、ようやく恩返しができます」


「リズさん……ありがとう」


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