勘違いと仲直り
――何が起こった!? かつてないほどの早口でリズが和の国の使者と話している……いや、母国語だから当たり前なのかもしれないけと……でも、え?なんか強気な感じでいってない? え、え、え!?
知り合い? なんか、アニサマ? なんて意味だっけ……あっ、名前? アニサマさんか。ということは、やはり知り合い? それにしては……距離が近すぎではないか?
勘違いしたセシルは、なぜだか目の前の使者に自分が夫だということを言わずにはいられなくなる。
「アニサマサン、ハジメマシテ リズのオットデス セシルデス」
「何? 貴様がリズの夫だと? おい、リズは連れて帰らせてもらうと、この夫とやらに伝えろ」
すぐに通訳がセシルへ訳そうとするが、慌ててリズが制止する。
「兄様!! 旦那様に何を言うつもりですか!! やめてください!!」
「何を言う。先ほどから通訳から聞くこの男の評判は一体どうなっている。城から出ないだ、交流がまともないないだの……お前を任せられる男とは思えないな」
兄がリズを自分のもとへと手をつかもうとしたその時、セシルはそれより先にリズの手を引き寄せ自分の胸に引き寄せる。
「っ!?」
「っ!!??」
「失礼、彼女は私の妻だ。これ以上の接触は控えていただきたい。なにか、僕に不満があることは見て分かるが、夫に断りもなく女性の手を強引に掴もうとするのはいかがなものかと?」
通訳の言葉に兄は少し黙ったあと、リズの方を向く。
「リズ、この国では兄の前で妹を抱きしめるものなのか?」
「……お2人とも誤解です。兄様!! セシル様は領地を立派に盛り上げ、ナダヤタ国とも貿易を開通するほどの信頼ある方です。それと、セシル様、こちらは和の国の使者というよりその大本……主君で私の兄です……」
「何? ナダヤタ国と?」
「おっ兄さん……」
2人の間に無言の時間が流れる。
――お兄さん〜〜〜〜っ!? 主君って、つまりは主君ってことで!? えぇっ!? リズのお兄さんで主君、ってことは、お義兄さんで!? 主要な来賓というより、超重要人物クラスっ!!?? 先ほどから威圧的な感じで対応してしまっていた、よな……まさか、これが原因で全て白紙に……それよりリズを連れて帰るとか言い出すのでは!? いや
先ほどからやりとりしていたのは、その話では!?
思いっきり最悪のシナリオが頭をかけめぐる。その横で、リズは涙目で兄に訴える。
「兄様は……私と旦那様を引きさくおつもりなのですか? もし、旦那様との仲を邪魔するつもりなら……私、一生口を聞きません」
「っ!?」
リズの言葉に、今度は兄の方が真っ白になる。妹が異国の地に嫁ぐことを自ら名乗り出た時、国の為にと腹を切る思いで送り出した。それから半年以上何の音沙汰もない状況にしびれを切らし、自らロザード国へとやってきた。ひどい船旅をひと月以上かけ、ようやく会えたと思えば、うるさいお貴族様とやらに囲まれ身動きがとれなくなった。そして彼らの口から出てきたのは、妹の夫となった者のひどい言われようだ。手紙の1つもよこせないほどのひどい待遇を受けているのかとつい血の気がのぼってしまったが、妹は母国にいた時よりも元気に、そして認めたくないが夫である彼を大事に思っているようではないか。
「…………」
「弟が失礼いたしました。なにぶん、こういった場は不慣れなものでして……」
第2王子である兄たちがチャンスとばかりに話しかけてくる。早口で分からなかったが、リズの先ほどの紹介で、使者だと思っていた相手はその格上、決定権を持つ張本人でどうやらセシルを良く思っていないような雰囲気を出していたとなれば、自分たちに勝算があると判断したのだろう。
「……なんだ? 我が妹の夫を侮辱するつもりか」
その重い口は、先ほどとは異なり、今度はなぜか自分たちに敵意が向けられる。
「いっ、いえ……決してそのようなわけでは……」
リズに嫌われたくない。兄はすぐに態度を翻す。