パーティのはじまり
領地での慌ただしい日を送り、いよいよ和の国の使者や各国々の主要な来客、そしてセシルの兄たち全員が出揃うパーティの日がきた。セシルとリズは、馬車で城へと向かうと既に事前に宿泊していたロゼや他の兄弟たちがそろっていた。
「お久しぶりです。ロゼ兄さん」
セシルは一番に長男である兄に声をかける。ロゼと目が合ったこともそうだが、現場に何度も足を運ぶようにと言われたアドバイスが適当な言葉ではなく、領主として本当に必要な助言だったと感謝しているからである。なにより、ロゼの妻、ニアと近くにいた方がリズの不安もやわらげられるだろうとねらってのことだが。
ーーリズの為とはいえ、これも戦法の1つになるだろうな。リズを好奇な目で見る他の兄さんたちの夫人の中にいきなり飛び込ませるのは不安だ。
「あぁ、久しぶりだな」
「シチ兄さんは来られていないのですね」
「今回のパーティには当然、ナダヤタ国の主賓もいる。当然、シチは辞退しているだろう。それに、あいつは王位継承権を正式に失ったからな」
前回の失態で、王はシチの王位継承権を取り上げ、爵位も今後期待できない状況となった。カラ侯爵夫人は、すぐに離縁はせず、正式に爵位が決まり次第、侯爵家の婿養子にし、おそらく領地を家紋のものにする考えなのだろう。そうなれば、今度、シチはカラ夫人に頭が上がらなくなる。可哀想だが、自業自得だ。
「それよりも、今回は自分の足場をかためるんだな。義妹のおかげで和の国との取引は有利でも、とって食われないように気をつけろ?」
「もちろんです」
他国の主賓の前で、セシルの過去をついてくる者もいるだろう。弱点のある者と関係を持つほど、優しくはない。どう乗り切るか、セシル自身にかかっているのだ。ロゼと離れた瞬間、他の兄たちの視線が露骨に集まる。
セシルの不安とは別に、リズは堂々とした立ち振る舞いを見せる。特に、ニアとの再会に自然と笑顔になる。
「ニア様、お久しぶりです。お元気でしたか?」
「ふふ、挨拶の角度も完璧よ。それにそのドレスも似合っていてとても素敵だわ。なんていうのかしら、和の国の装いよね?」
「はい、今日はセシル様の後押しもあって久しぶりに着物を着てまいりましたの」
リズはここに来た時の一張羅である着物を自分で定期的に風通しを行い、まめに管理してきた。一般的には、侍女の仕事であるが、この着物の扱い方は和の国で手ほどきを受けてきたリズが自ら自分でするとゆずらなかった。そして、帯留めとして、セシルからもらった黒ダイヤを使っている。あのあと、宝石職人にオーダーし、リズの言うとおりに加工してもらったのだ。
「その腰につけたダイヤも綺麗ね。黒ダイヤかしら、直接見たのは初めてだわ。ふふふ、ドレスやアクセサリーは女性の戦闘服って教えはしっかり身についているのね」
リズは着物と帯留めこそ目立っているが、それ以外のアクセサリーは身に着けていなかった。だが、それが余計に気品を感じさせていた。
「今日は、各主要国の方々が集まるのですよね。私も旦那様の為にできるだけのことは致しますわよ」
2人の挨拶が終わるのを待ち構えたように、他の夫人たちが集まってくる。和の国出身のリズと仲良くなることは、和の国との親交にも強く影響が出る。第1夫人たちの目的は、その華やかさで夫を引き立てる以外にも、他国の主人たちのパートナーとお近づきになることだ。その中の一人に、当然義姉妹のリズも含まれる。
「お久しぶりですわ、聞きましてよ。カラ侯爵夫人のパーティでは大活躍されたとか。私のお茶会にも是非いらしてください」
「まぁ、私の城では、珍しい花を育てていますの、良ければ一度ご覧になってくださいませ。かわいい義妹ができてとても嬉しいですのよ」
「その装いとても素敵ですのね、私にも良ければ生地を見せていただけないかしら?」
義姉たちの対応に返そうとしたタイミングで、王の登場の合図が響く。夫人たちはすぐに夫のもとへ戻り、静かになる。
「王のご登場です」
声とともに、今回のパーティの開催者である王が入ってくる。
「皆、よく集まってくれた。今日は各国の来賓も多く集まる、是非パーティを楽しんでくれ」
それだけ伝えると、会場に設けられた別室へと入っていく。今日は、父としてではなく、王として過ごすということなのだろう。
パーティが始まると同時に、各国の主要客が会場へと入ってくる。おそらく先に王との挨拶をすませたのだろう。皆一仕事終わったような表情をしている。それぞれの兄弟たちが通訳を連れ、動く。当然、セシルもリズをエスコートし和の国の使者のもとへと向かう。




