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船酔いは慣れるものです

 料理長にゆっくり帰ると言った手前、少し寄り道をしながら帰り、久しぶりに2人の時間を過ごせた。さすがにお忍びで外出とは行かなかった為、馬車を近くの海辺に止める。



「こちらの海もきれいですね」


「そういえば、リズの住んでいたところでも海は見えたのか?」


「そうですね、海に囲まれた国ですので、近くにはありましたが……日に焼けてはいけないからと、ほとんど出かけたことはありませんでしたわ」


「そんな理由で!? いやっ、リズがきれいなのはその努力あってこそなのだろうが……」


 男兄弟しかいないセシルには、女性の生活に縁がなかった。紳士としての振る舞いについては習うことはあったが、実際にはリズと暮らして驚くことが多い。


――まさか、日焼けにも気を遣わなければならないとは……どうりで日傘をよく持ち歩いている女性が多いわけだ。



 だが、リズは日に焼けることを楽しんでいるようにも見える。一応、侍女たちが持ち物として用意してくれているものの、使っているようには見えない。



「海は見飽きません。船の生活でも、船酔いをのぞけば楽しかったですわ」


「船酔いな……あれは、ひどいものだ」


 船に試乗した時、1時間ずっとひどい酔いに襲われた。リズはどうだったのだろうかとずっと気になっていたが、やはり酔っていたのかと改めて彼女が命がけでこちらに来てくれたことを実感する。


「……何か、欲しいものはないか?」


「いきなりどうしたんですか? お土産ならほら……たくさん買ってくださいましたから」



 馬車に積まれたツケモノを指差す。


「そうだな……それではなくて、何か……そうだ、これを受け取ってくれないか?」


 父に会うからと、胸ポケットにとめていた黒ダイヤを外す。リズにひざまずき、ダイヤを渡す。


「これは?」


「母から譲り受けたものだ。母から子へと引き継がれるものらしい。君は僕の大事な家族だ、どうか受け取ってほしい」


「そんな大切なもの……」


「結婚式で伝えただろう、リズだけを妻にすると、もし、将来僕たちの子が生まれた時、君からまた渡して欲しい」


「子どもへですか……」


「そうだ、たくさん生まれたなら君が持っていてくれても良い。1人だけなら女の子に渡しても良いし、跡を継ぐ子に渡してもいい。ただ……今は君に持っていて欲しいんだ」


「分かりました、大切にしますね」




 リズが大切そうに受け取り、2人で照れ笑う。海を見ていると、自分たちで再開させた港と比べてしまう。


「ナダヤタ国の船も停まるとなれば、港はもっと大きく、そして彼らの休憩できる宿場もあった方が良いだろうな」


 港からリズが到着した時、比較的近い城へ案内出来たが、行商人となると今回のナダヤタの彼らのように、すぐに馬車で移動することになる。長い船旅を休めるよう近くに宿を作れば、領地にとっても仕事場を増やせると考えたのだ。



「そうですね、特に私はタタミが嬉しかったですわ」


 異国の地で足を伸ばせた時、安堵した。全ての国とまではいかなくても、主要な国の文化を配慮する宿は他にない。


「モアイの店は色々な国の料理を研究していたようだったな。コカラが協力してくれると助かるのだがな」


「ふふ、それは大丈夫だと思います」


「どうしてそう思う?」


「もちろん、コカラさんの了承は必要ですが、料理長にコカラさんの料理を学んできてもらえれば、こちらの地でも提供出来ると思いますわ」


「そ、そうか。そうだな」









 漁港は順調に収益を上げ、クロダイは幻の名魚として高値で取引されるようになった。以前の過ちを防ぐため、一定の大きさ以上からの取引きのみを許可する制限を設け、乱獲を防ぐ。骨せんべいやダシは話題を呼び、町の食堂は観光客が訪れにぎわいをみせる。更に貿易船を受け入れる為の拡張工事や新たな建築物が建ち、活気が出てくるようになってきた。


 新聞には連日のようにセシルとリズを賞賛する記事がのり、町へ出るたびに歓声をあびることが増えてきた。


「なんだか、外へ出るたびに注目を集めるようにらなったな……」


「良いことです。領主様達を歓迎している証でございます」


 執事が嬉しそうに返す。領地の経営はロゼの言う通り、何度も現地へ足を運び、実際に働く彼らの話を聞きながら都度改善や対策を練っていた。そのおかげか、大きなトラブルなく順調に事が進んでいる。


――話していくうちに慣れるものだな……


 社交界のようなかけひきのないやりとりはずっと気が楽だった。初めこそかしこまっていた彼らだが、顔を出すたびに領収様!と返してくれるようになっていた。



――あとは……兄たちとの会う日だな。




 和の国の使者が来る日まで残りわずかとなる。



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