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秘密を教えましょう


 貿易関係のつながりが出来れば、王位継承の株が一段と上がる。


 今まで、シチがカラ侯爵夫人のツテを使っていたこともあり、ナダヤタ国の航路を多く握っていたが、今やその権利はセシルに移った。そこに和の国の姫であるリズを妻として迎えているのであれば、当然、今後のやり取りはセシルに……と思っていたが、まさか他の兄弟にもそのチャンスの場を与えるとは……



――なるほど、僕がリズの恩恵だけで貿易関係を有利にしても実力ではない、と言いたいのだな。



「皆で歓迎のパーティーを開こう、もちろん、ナダヤタ国の関係者も呼ぶつもりだ。家族が集まる場などなかなかないからな……」


 王として、セシルを試しているのだ。そして、父として他の兄弟にもチャンスを与えようと思っているのだろう。


「結婚式はゆっくり話す機会がなかったからな。実力の発揮どころだぞ……」



――僕が1番苦手なかけひきだ……別に無理に参加する必要はないが……だめだ!! リズにとっても母国の人間と会えるせっかくの機会のはずだ。もしかしたら知り合いかもしれない。だが……いやいやリズだって会いたいだろう!!



「もちろん、参加は任意だがな」


 王は試すように言う。セシルは覚悟を決める。


「もちろん、楽しみにしております」






 帰りの馬車で、考えこむセシルにリズはそっと声をかける。


「……セシル様、参加は無理しなくても良いのですよね?」


「……他の兄たちとは、ほとんど関わりがなかったんだ。シチ兄は……悪い意味でよく絡んできたが、幼い頃からライバルとして意識されていたからな」


「では……」


「だが行く」


「え、でも……」


「君の……和の国の使者が来るのだろう? 是非会いたい、それに君にも会ってほしい」


「セシル様……ふふっ、ロゼ様、ニイ様、サンタ様、ヨン様、ゴフ様、ムロ様、シチ様」


「ちょっ、ちょっと待ってくれ。兄さん達の名前を順番に覚えているのか!? 結婚式で一度会っただけだろう!?」


「ふふふ、ロゼ様とセシル様は別ですが……他のお義兄様方はすぐに覚えられる秘密があるんです」


「これといって特徴のない兄さん達だぞ?」


「皆さん、和の国の言葉の数にちなんだ名前なので、驚きました」


「確か、いち、にぃ、さん……おぉ!! 本当だな!! 偶然でも凄いな。面白い」

 

 少し元気のなかったセシルが元気になり、リズも安心する。おそらく、自分のために無理をしているのだろうと分かる。言葉が通じなかった頃の習慣で、話さなくてもお互いの振る舞いで何を思っているか、自然と読み取れるようになっていた。もちろん、リズが励まそうとしてこの話題にふれたこともセシルは分かっていた。


「リズ……君が僕の妻で良かったと思っているよ」


「……っ!? まっすぐに言われるのも、恥ずかしですわね」


「ハハハ、そうか? 食事は済ませているが、モアイの店に寄っていくか?」


「お願いします」




 しばらく休んでいたこともあり、店の経営に影響がないか気になっていた。だが、閉店していたことが逆に大混雑につながっているようで、お昼時を過ぎているというのに行列が並んでいる。


「あれは……」


 料理長が花を持って並んでいるのに気づく。


「あっ、領主様……と奥様まで!? こっ、これは違うんです……2人で完成させたせんべいを彼女が花入りのデザインにしてお土産用にしたことが話題になっているみたいなので……その、戦友にお祝いをしに来ただけでして……」


「わざわざ列に並んでいるのか? お祝いなら裏口から行けば……」


「いえ、突然きたので彼女は私が来ていることは知らないので……花だけ渡したらすぐに城へ戻る予定だったのですが……もしや、もう城へお帰りに?」



 セシル達が予定より早く帰れば、当然料理長も早く城へ戻らねばならない。


「いいえ、私がここでお茶を飲みたいといって寄っただけですわ、そのあとはまた別のところへ行くので、帰りは予定より遅れるとちょうど城へ連絡をお願いするところでしたの、ね?」


「あっ、あぁ。そうだ、だからせっかくとった休みならあと1日くらいゆっくりしたらどうだ? 積もる話もあるだろう?」


 2人の機転に、目を輝かすが、すぐに仕事の顔に戻る。


「お気遣いありがとうございます。しかし、明日の仕込みもございますので、花を渡したら帰ります。明日はオコメを使った料理を用意しますので、お帰りお待ちしてます」


「あら、オコメで料理なんて、私のアドバイスが必要なんじゃないかしら?」


「なっ!?」


 気づけば店の外だというのに、コカラが出てきている。


「まぁ!! お2人も来てくれてるんですね!! 嬉しいわ」


「それより……君はここの店主だろう!! 厨房を離れるなんて!!」


「あら、大丈夫よ。ここの列はみんなお土産を買いに来ているだけだから、今は食事のお客様はいないわよ」


「え……」


 列の前には看板があり、お土産用の列と書いてある。そしてあの店員があわただしく働いていた。


「うふふ、お土産の販売ではチップがもらえないから不満を言っていたわ。あまりにも花入りのせんべいが好評でね……朝に仕込んでしまった分を売っているから、今とっても暇なのよ」


「そっ、そうなのか……」


「お茶を飲みに来てくれたんでしょう? 嬉しいわ、簡単な軽食も作っちゃう!! ほら、あなたもいらっしゃい」


 セシル達をもう一つの入り口から席へ招き入れると、料理長の手を引く。


「え、え?」


「オコメの料理を使うんでしょう? なら、コツを教えてあげるわ」


「あ、いや、その前に、これを……」


 コカラに花を渡す。


「まぁ!! 嬉しいわ」


「そ、そうか……」


「せんべい用の花はいくらあっても嬉しいもの、さすがね。私の1番ほしいものを持ってくるなんて」


「いや、確かに食用の花だが……これは……」


「早く厨房に入って、領主ご夫妻を待たせちゃうでしょ?」


「あ、あぁ……では」


「うふふ、でも、あなたとまたキッチンに立てる方が嬉しいわね」


「っ!?」



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