孫がほしい……
セシルはパンを詰まらせる。
「ううっ、ごほっごほっ」
リズが慌てて背中をたたき、なんとか息が出来るようになる。
「そんなに慌てることもなかろう、分かっておる。安定するまでは知らないフリを通せば良いのだろう?」
「いえっ、一体なぜそのような勘違いを……」
「彼女の飲み物から全てアルコールを外すように返事があったと聞いたのだ……子育てこそしてこなかったが、8人も息子がいればそれくらいのことは分かる」
「いえいえいえ!! 誤解です。彼女はただ……あまりお酒には強くないようなので、それだけです」
「そうなのか……?」
リズが頷くのを見て、少しだけ肩を落としたように見える。
「8人結婚して、誰も孫がいないというのは実に驚きだと思わないか?」
「それは、この国の王位継承制度にも問題があるのでは?」
実は、子が生まれた場合、その子どもの身分は王家ではなく、仮の身分、伯爵の地位が与えられるのだ。次期王が決まり次第、他の兄弟には、その実績に応じて新たに身分が与えられることになっている。王家として扱われるのはそれまでの期間であり、大抵、与えられる身分よりも格上が多い妻側の婿養子になる。妻としては、子どもが一瞬でも格下の身分を与えられることを良しとしないのが当然の反応だろう。ニアのように、あまり気にしていない例もいるが、王の座を得られるではそれどころではない、と夫婦の間にすれ違いが出来やすいのだ。
「王を決めるのは、王の子が全員成人後3年以内となっている。お前が離脱していれば、今年中には決めていたところなのだがな。早く次の王を決め、余生をゆっくり過ごしたいところだ」
父のように、妻が何人もいるこの国では、子どもが多く生まれる。絶対的な地位をもつ王家を増やさない為の決まりなのだろうが、子どもが多いほど成人を待つ期間が長くなり、負担も増える。先に領地を任される方が経験値を積めるため、有利にも思えるが、子どもが欲しい女性の立場としては、長子であるほど待つ時間が長く、嫁ぐことを敬遠する傾向もある。そのため、今回娘をセシルの妻にと狙っていた貴族も少なくなかった。
「とにかく、リズのことは誤解です」
「だが、すぐにと考えているのだろう?」
「ぐっ……」
どうやらリズの理解は正しかったようで、やはり父とリズの初めての食事の時に、孫が早く欲しいと言った発言に、セシルが同意したとなっているようだった。
――まずいな……シチ兄さんのことで厳しい処分を下すことになるから、落ち込んでいるところに更にがっかりもさせたくはないが……実際、今それどころではないし……もし、もう少し先なんて言ったら……すごく落ち込むだろうなぁ……
「……お義父様、私もまだまだこちらに不慣れなことが多いです。良ければ、先に皆さんとの親睦をもっと深めたいと思っています」
「おぉ!! おぉ!! そうだな。そう言えば、近々和の国より使者が来ると連絡があった。きっと、そなたの様子を心配しているのだろう。ちょうど新しい航路として領地も使えるのなら、心強くなるだろうな」
リズの機転で話題が変わる。和の国の使者が来るということは、貿易関係の話しと今後の親睦を深める場なのだろう。これまで以上に取引が増えれば、ロバード国にとっての利益は大きい。セシルの地にも海外の船が増えれば、これまでいくつもの国を経由していた負担を減らせ、遠い和の国とのやりとりがスムーズにいくかもしれない。
「和の国の……ですか。思ったよりも早いのですね……」
リズはぼそっと呟く。おそらく、2-3年は様子見でそのままだろうと思っていたため、兄が動いたのだろう?
「それで、そのもてなしの場に他の兄弟達も招待しようと思うのだが、どうだろうか?」




