ひとりじめしたいです
「あの……昨夜は何かあったのでしょうか?」
「えっ!?」
重い沈黙の朝食後、帰宅準備の為荷物をまとめるニアにリズはそっと聞きに入る。
「何も、覚えておりませんの?」
「いえ、馬車でニアさんの悩みを途中まで聞いていたのは分かるのですが……そこから記憶はなくて、気づいたら朝自分の布団で寝ておりましたの……セシル様はなぜか目を合わせてくれなくて……執事のハミルさんは朝から上機嫌でなぜか応援の声をかけてくださったり……」
「あぁ……そうね、子どものくだりは……覚えているかしら?」
「子ども……っ!?」
そこで思い出したのか、リズは恥ずかしさで真っ赤になる。
「大丈夫よ、私も消えてしまいたい気持ちですわ……とはいえ、ごめんなさい。私のせいで巻き込んでしまって……」
「あの、ニアさんは……」
あのあと、話が出来たのか、そう聞こうとしてやめる。ニアはただ恥ずかしいというリズとは違い、悟ったようなもの悲しい表情をしているのだ。
「大丈夫よ、政略結婚だもの。当たり前だわ、2人の取り決めに、子どものことを決めていなかったもの」
「どうしてですか?」
リズはニアから婚前契約の説明を受けていた。結婚してしまった後だが、それほど淑女教育には必要不可欠な項目だ。当然、後継ぎとなる子どものことも決めるはずだ。
「……私はずっと慕っていたんです、だから、第1夫人とそれ以後の夫人との間に絶対的な差を設けましたの。他の夫人との子作りはしないと。そうすれば、私が旦那様とだけ愛し会えると……若気の至りですわ」
「ニアさん、和の国では、妻は1人だけなのです。どうしてか分かりますか?」
「いいえ……でも跡継ぎは必要なのでしょう?」
「そうですね、色々問題はありますが、和の国でもロザード国と同じで、男性は何人も妻がいたんです。結婚できない男性を減らす為、子どもを守る為、色々言われていますが、私は……約束したからだと思っています」
「婚前契約のことかしら?」
「そうですね……どちらかというと、誓いの方ですわ……ずっと一緒にいようと約束したから、その約束を守るために、1人になったと思うようにしているんです」
「ずっと、一緒?」
「だから、ニアさんも、一緒にいたいと伝えてください、自然と2人の時間を作ってくれるはずです」
「リズさん、ありがとう。昨日よりずっと素敵なアドバイスですわ」
2人が話をしていると、部屋をノックする音がして、ロゼが入ってくる。
「旦那様!?」
「今、良いだろうか?」
「私はもう出るところです、では」
リズが出て行ったあと、ロゼは水を一気に飲み干す。
「昨夜の話だが……」
「はっ……はい!?」
「ちゃんと返事をすると言っただろう?」
「えと、返事とは……」
「すまなかった。君の立場のことも考えていなかったな……肩身の狭い思いをさせていたのだろう」
「それは……でも、すみません。私、本当はただ、もっと一緒にいたいと伝えたかっただけなんです」
「?」
「政略結婚なのは知っています、でも、私の気持ちはそうではないと伝えてるんです」
「それは……」
「だから、後継ぎよりも、旦那様と一緒に過ごせる時間が欲しいというおねだりです」
「…………」
「…………」
「分かった……」
「え?」
「他の妻たちは、それぞれの家がもつ専門機関の役割を提供してもらっている代わりに、十分な資産と自由を約束している。彼女たちの愛人についても認めている。だから、俺が君との家に帰っても、誰も文句は言わないはずだ。まぁ、領地の運営に関してはまだフォローが必要そうだが、そろそろ部下に任せてもいい頃合いだろう」
「それは、つまり……」
「一緒に帰ろうか」
「っ!! ……はい」
見送りの時、リズにニアはそっと抱きしめる。ありがとうと笑顔で別れていった。
「…………良かったですわ」
「昨夜から、一体なにごとなんだ?」
セシルが距離をつめて隣に立つ。
「いえ、えっと……気にされないでくださ……」
再び抱えられる。
「セシル様、降ろして……」
「それは出来ない相談だな。しばらくはゆっくり探すのもいいだろう?」
王都から招集の手紙が送られるまで、セシルはじっくり、リズと話し合いの時間を作った。




