夫婦の義務
「ねぇ、リズさん……旦那様とはどのように……」
「えっ?」
セレモニーが無事に終わり、ロゼとセシルで話があるからと、城への帰りの馬車はリズとニアの組み合わせになった。お酒が入り、ほろ酔い気分で楽しく話していると、突然ニアが話題を変える。
「夫婦の義務について……ですわ」
「ぎむ……あぁ、義務ですね!!」
「そっ、そんな大きな声ではダメですわ」
「えっと、はい……」
「私、ロゼ様の第1夫人ですが、旦那様には他にも建前上ですが妻がいますの……管理する領地が大きいので、それは仕方ありませんことですが、旦那様がわたしのいる地に滞在するのは本当に短いんです……それだけ、私がしっかり管理しているからこそなのですけどね!!」
領主は当然、管轄地の管理を行うが、安定している場合、日常の管理はその妻が代わりに担うことも多い。妻が管理している報告書に目を通し、確認をする。逆に、外交や防衛、決済処理といった職務には対応するが、管轄地が大規模な場合、不安定な拠点に長くいることが多くなる。その為、ニアは優秀な分ロゼと過ごす時間が少なくなってしまうのだ。
「………でも、今まで正式な参列がない限りは2人で過ごすことなんてほとんどなかったんですの。旦那様は当然、王位継承を目指していますから、それを支えるのが妻の役目ですけど……とても、1人の夜は長いんですの……」
「…………」
「今日、リズさんとセシル様の2人があまりにも仲睦まじくて、私ったらいつもよりも悲観的になってしまいましたわ……忘れてください」
ニアは無理して笑っているように見える。
「……私はセシル様はよく散歩します。手を繋いでもらって、たまに夜食も食べます」
「っ!?」
「最初は……何を言っているのか、考えているのか分かりませんでした。怖かったです、だから話すってとても大事だと思います」
「……そうね、怖いって、そうかもしれないわ。旦那様が私をどう思っているか……政略結婚ですものね。気持ちを求めるのは間違っていますわ、でも、旦那様は世継ぎのことも考えていないようで……私の歳で子どもがいないのは……公爵家の名誉にも関わるのです」
「あとつぎ……?」
「赤ちゃん、ですわ」
「!! あかちゃん……」
「立ち入ったことばかりで、ごめんなさい。こんな話リズさんとしか出来ないわ……」
ニアは嫁いで5年を超えている。この時代、こんなに長く授かれないのは社交界では悪い噂をされるのだ。公爵家であるニアには、名誉にも関わる為、両親からも催促の手紙ばかりなのだ。
「ゆるせません」
「え?」
「お義兄さん!! ニアさんのこと悲しませるなんて!! ゆるしぇません!!」
「リズさんっ? 酔って……あ、それお水ではなく果実酒なんですのよ!? まさか全部お飲みになって……」
このタイミングで、城へとたどり着く、出迎えにきた執事の手を引き寄せると
「旦那様たちはどこれすの!?」
「奥様? 酔って……」
「探しますわ……」
凄い勢いで屋敷に入ると、真っ先に応接間に入る。だが、まだ帰ってきてないようだった。
「遅れて着きますのね……」
再び玄関に戻ると、セシル達の到着を待つ。
「リズさん、あの、先ほどのことはお忘れに……」
「ラメです、話しましょう!! 私も、悲しいです」
「リズさん……」
慌てて引きとめていたニアだが、自分のことをこんなにも思って怒ってくれた人はいなかった。一気に残っていた果実酒をニアも飲み干す。
「っ!?」
執事は状況についていけない。他の従者に慌てて水を持ってくるように指示し、とりあえず2人を中へと案内しようとする。
「ハミルさん!! あかちゃんの問題なんです、大切な話しなんです!!」
「赤……ちゃん!?」
後継ぎの話となれば別だ。すぐに他の使用人たちを下がらせる。セシル達の馬車がつくと、2人は妻が外で待ち構えていることに気づく。
「どうしっ!?」
慌てて降りるセシルに、リズは抱きつく。
「あかちゃんの話しですわ」
「っ!?」
「私たちのこと、どう思って……」
「まっ!! 待ってくれ!? ここでそんな話は……ちょっ、酔って!? とりあえず部屋へ」
慌てて抱え、部屋へ連れて行く。
――なぜ誰もいないんだ!? なぜ、こんなに飲んで!? え? え?
「旦那様……」
リズとセシルが勢いよく去った後、ロゼは顔を真っ赤にさせるニアに気づく。
「どうした? 一体今のは……それにここにいたら身体を冷やす。早く休んで……」
「嫌ですわ……」
「?」
「私も、先ほどの2人のように抱き抱えて欲しいと、申していますの……」
「っ!?」
「旦那様は、私のこと……私たちのことどう考えていらっしゃいます、の?」
「どうとは……今はそんな話は……」
「ではいつしますの?」
「え……」
「1人で寝るのは寂しいですわ……」
「っ!?」
「私、旦那様のこと……」
「待て!! 待ってくれ……酔って……酔って言うことではないだろう」
「…………」
「すまない、君のことを考えてないわけではなかったが、年齢的にもまだ猶予があるからと後回しにしてしまっていた……」
「…………」
「身体を冷やす、中へ入ろう?」
「はい……」
やはり勢いで言えなかったと、落ち込むニアに、ロゼは少し顔を赤くすると、ふっと抱きかかえる。
「!?」
「ちゃんとする……だけど酔いが冷めてから、ちゃんと君に伝える、それで良いだろうか?」
「はっ、はい……」
セシルは、リズが部屋に入るなりそのまま寝てしまった為、いったい何が起こったのかわからないまま一夜を過ごすことになったという。




