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深まる2人


「それでは、行こうか」


「はい」


 リズの手を取り、新しく開設された港へと向かう。あれから、コカラと料理長は2人でクロダイの料理開発にこもっていた。そして、今日はそのお披露目実食会も兼ねているのだ。


「これがうまくいけば、忘れられたクロダイの知名度をあげられるはずだ」


「大丈夫です。今日はお義兄様達も来られるのでしょう?」


「あぁ、なぜか速達で行くと返事があった」


「そくたつですか?」


「早馬を使って……緊急性が高いような時に使う早い返事だな」


「きんきゅうせい……」


「君にとてつもなく早く会いたいということなのだろう」


 食い気味に『参加』と書かれた返事に、予定より早く来たらどうしようかと思っていたが、さすがに兄もそこまで時間を割くことは出来なかったようだ。そもそも、本来多忙な身のはずだ。漁港のセレモニー程度の小さなイベントにわざわざ顔を出すのは、当然、義妹に会いたいためだろう。






 セレモニーの為に用意したリボンを切り、きれいに整備された港でお披露目会を行う。港ということもあり、行商人や民も多く集まっている。



 以前に話を聞いた元漁師の家族の協力を得て、同じように漁師や船を任されていた家系の住民たちとともにクロダイを捕獲してもらった。船があれば、もっと効率良く捕獲できたのだろうが、今回はその投資者を募ることも目的にしている。



「久しぶりだな」


 お忍びの格好でロゼ、ニア夫人も来ている。


「リズさん!! お久しぶりですね……聞きましたわ。カラ夫人との件、ふふっ、さすが私の教えですわね、社交界では和の国の姫君の博識さで話題ですのよ」


 ニアはリズの手を握ると嬉しそうに話しかける。


「これもニア夫人のおかげです」


「もう私のこともニアとお呼びになって。お伝えしましたでしょう? 親しい間柄は簡単に呼んで良いと」


「ニアさんの……おかげです」


「うふふ、教えた発声練習も欠かさずされているようですわね! もう完璧なレディですわ……それと、今日はご招待ありがとう。お忍びでなんて、おかげでまた旦那様と2人で出かけられましたよ」


「良かったです。今日は美味しい料理を用意したんです。お口に合うといいのですが」



 2人が仲良く話している横で、ロゼはセシルを呼ぶ。


「兄さん、来てくれたんですね」


「あぁ、それより……シチの件だが……」


「ナダヤタ国の方の件ですね」


 ロゼは頷く。


「話は聞いた。回復したあと、お前たちが助けた女性が全てを主人に伝え、そこから訴えがあったようなんだ」


「訴え……ですか?」


「シチの方にだ。話も聞かずに一方的に鞭打ちをしようとした振る舞いもそうだが、ナダヤタ国の使者があの時領地に来ていたことを知らなかったことに疑問をていしたようでな」


 ナダヤタ国はロザード国とは友好関係を結んでいる。使者への待遇は他国よりも優遇されるよう国王含め、各地の領主は相応のもてなしをするよう手配しなければならない。シチの場合、実業務は妻の実家に頼っていた為、どうせ不要だろうとほぼ毎回耳には入っていなかったのだ。



「しかもその使者、ナダヤタ国の上流階級から勅令で王都に向かっている道中だったらしいんだ」


「え……ということは……」


「当然、父上の耳にも入っている。シチは……今頃調査を受けているだろうな。もし、父からの、いや王から任せられた領地運営を怠っていて、それが外交問題に絡んだとなれば、王位継承者としての資格剥奪も考えられる」


 基本、セシル以外にも甘い父ではあるが、国政が絡めば王として手厳しい判断をするだろう。溺愛されていたセシルですら、今回、和の国との今後がかかっているリズとの結婚話を断っていれば、完全に資格剥奪されていたと誰もが思っていた。それくらい、ロザード国にとって他国との関係性は絶対的なものなのである。


「……そうですか」


「お前にも関係のある話なのだ?」


「えっ? 僕にもですか?」


「全部報告されていると言っただろう、当然彼女たちの鞭打ちを止め、彼らを救助するよう指示し救護施設まで対応したんだ。夫婦そろって、あとでお呼びがかかるだろうな」


「それは……」


――それは、第1有力王位継承権を持つ兄さんからすれば、心地良い話題ではないな……


「俺は誇らしいことだと思うぞ」


 ロゼはセシルの頭に軽く手を乗せる。


――っ!? 


 まだ城に引きこもる前、幼い頃こうしてロゼはセシルが神童と絶賛されるたびによくやったなと言って頭を軽くタッチしてくれていた。


――そういえば、ロゼ兄さんだけは僕にもちゃんと話をしてくれていたな。他の兄さん達はライバルなのだからと距離を置いていたが……


「ロゼ兄さ……」


「さすがは義妹だな」


「あぁ……はい」




 コカラと料理長がタッグを組み、骨を粉砕し見た目にもこどわった骨せんべいは大好評だった。日持ちするだけでなく、そのまま食べても良し、味変するも良しといった自由な食べ方がウケたようだった。ダシにおいても、あっさりしていて食欲をそそる味だと良い反応が得られた。


 

「まったく、あなたがいなければ完成は無理だったわね。残念だけどお店で出すのは無理そうだわ。これは、この土地のレシピね」


「何を言う……こんなにも料理に熱くなれたのは久しぶりだ。お礼を言いたい」


「だったら、たまには私のお店にいらっしゃい。また色んなレシピ作りましょうよ」


「是非、行かさせてもらおう」


 料理長とコカラはかたい握手を交わす。



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