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帰りの誘惑


「2人とも!! そのダシについて、もう少し話を聞かせてもらえないだろうか?」


「?」


「なにぃ〜?? 企業秘密を聞きたいだって〜!? それはどうしようかな〜!!」


「セシル様、ダシ……なら色々あります。どうしたのですか?」


「漁港を再開しようと……また始めようと思っているのだが、そこで獲れる魚は……味は絶品だが、見た目に反して食べられるところが少ない……その為たくさん獲りすぎて魚が一時いなくなってしまったらしいんだ。もし、骨が使えるのなら1匹あたりの利用価値が上がって、たくさん捕まえなくても漁港の人たちの生活を保てるんだ」



 セシルはなるべく分かりやすく説明したつもりだが、日常会話を中心に学んだリズには全て伝わったか自信がなかった。


「……えっと、サカナの中身と骨、2つを使えたら嬉しい、ということですか?」


「あっ、あぁ。そうだ!! 出来るだけ使えるところを増やしたいんだ」


 政治的話もすぐに理解したリズに驚いていると、コカラが固まっていることに気づく。


「……………………」


「コカラさん?」


「絶品ってなんですかっ!? その魚、私も食べたい!! 料理したい!!」


 セシルの話に目を輝かせる。


「それはこちらもしても助かる。君の料理はどれも美味しいからっ、て、ちょっ!! なにを!?」


 コカラはすぐにでも出発する勢いだ。


「待て待て待て!! まだ早い!! 君の店だろう、どうするんだ!?」


「う〜っ、早く行きたいところだけどっ、確かに、店……大事、離れる、ダメ……」


「カタコトになるんじゃない。こちらも準備がある、そうだな、1カ月後に迎えを送らせるから、その時に来てくれたらどうだ?」


「分かったわ……」



――まったく、すごい勢いだな。行動力として見れば凄いのだろうが……


「……サカナのホネなら、もっと使い道あるかもしれません。実際に見てみないと分かりませんが……」



 リズの言葉に驚く。ダシだけでも驚きだというのに、他にも用途があるかもしれないという。それは、まさに行き詰まっていた漁港復興の突破口になるかもしれないのだ。



「リズ、もう少し2人でゆっくり出来たらと思っていたのだが……君の意見を是非聞かせて欲しくて……」


「はい、分かってますよ。ふふっ、食べたら帰りましょう」


「すまないな……」


 リズはセシルの言葉に少し考えると、指でバツを作る。


「ありがとう、ですね?」


「そうだな、ありがとう」


 セシルのびっくりした顔に、余計に嬉しそうに笑っている。つられてセシルも笑い、2人の雰囲気を邪魔してはならないと、コカラはそっとその場を離れ厨房に戻っていた。







 帰りの馬車では、何重にも包まれたお土産のソレと、領地でクロダイを好きに料理していいという約束付きでオコメの買い付け先を教えてもらえた。



「美味しかったですね」


「そうだな、リズの大好物のツケモノと、オコメも分けてもらえたしな」


「ふふふ、帰ってから食べるのが楽しみです」



――しかし、リズの言語習得の速さにも驚くが、その博識さにも驚かされるな……僕も幼少の頃から教育を受けてきたが、この国の女性の教育以上に、彼女の知識は実生活に根づいたものが多い気がする……この優秀さなら、リズだけでもすぐに領地の経営者として手腕を発揮させるのでは!? 既に僕が行き詰まっていた難問の突破口を開いているし……もしやっ!? 僕はいらない!? まずい、このままでは用無しになってしまう……既に通訳はいらないし……僕の彼女に対する役割って果たせているのか!?



 真剣に考え込むセシルにリズは袖をそっと引っ張る。



「ん?」


「……セシル様、私頑張りましたでしょう? 言葉も、お茶も、ダンスも、この靴も……」


 ドレスの裾を少し上げ、高いヒールを見せる。短期間で履きこなすため、何度も足に薬を塗り、靴擦れを起こした両足には包帯を巻いている。


「あぁ、頑張ったな。すごく……」


「ふふふ、はい。だから、領地に着くまで、ご褒美を頂きたいです」


「ご褒美?」


「はい。隣に座ってください」


「あっ、あぁ」


「ふふふ、ありがとうございます」


「っ!?」


 リズは膝に頭を乗せるように横になる。


「……落ち着きます」


――こちらはまったくもって、落ち着かないのだが!?


 すぐに寝息をたてるリズに、そっと髪をなでる。


――疲れている……よな……


 リズを労うようにそっと上着をかけ、馬車の揺れで落ちないよう、身体を支えるように手を握る。


――これは……僕は眠れそうにないな……


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