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美味しいスープをいただいたら


 そこからセシル達は瀕死の状態になっているナダヤタ国の行商人たちの療養先まで通訳も兼ねて同行した。リズは女性たちにもう大丈夫だということを伝え、あたたかい食べ物と着替えを配る。


 シチはそのまま城に療養という形で連れていかれ、代わりに実際に領地をまとめるカラ侯爵夫人の部下が対応する。



「リズ、彼らの容体も落ち着いたようだ。救助が遅れれば危なかったようだが、君のおかげで助かった。ありがとう」


 リズは首をふる。あの時、ムチを止めてと叫んで止めても聞いてもらえるか分からなかった。彼女たちの身なりから状況を読み取り、シチの怒りを抑えたのはセシルだ。


「セシル様が来てくれたおかげです」


「…………そう、か」


 幼い頃の記憶がよみがえる。あの時、震えて何も出来なかったが、リズの真っ青な顔を見た時、夢中でシチを止めようと動いていた。



――そうか……今回は救えたのか。良かった……



「やはり、リズのおかげだ。疲れただろう? もう少し休んで……」


「帰りたいです」


 彼女たちの主人は落ち着いており、しばらくすれば会話も可能と聞いている。もうリズがいなくても大丈夫なはずだ。ならば、一刻も早くここから離れたい。


「……あぁ、分かったよ。でも早馬はやめよう」


 リズも思わず2度うなずく。早馬は乗り心地が悪く、酔いとの闘いだ。帰りはゆっくりとした馬車で帰りたい。



「そうだ、少し遠回りになるが、モアイの店に寄って行くか? 」


「えっ、宜しいのですか!? でも、お仕事は……」


「君を送り出してから、寝ずに働いてきた。もう1日帰りが遅れても問題ないよ、ハハ」


――むしろ、帰りたくない。帰ったらまた山のようにやることがあるからな……


「行きたいです、それともう1つお願いが……」






「いらっしゃいませ……あぁ、あいにく席がいっぱいでして……」



 前回対応した店員は、高貴な格好姿の2人を見ると、まだ空いているはずの席があるにも関わらず満席と伝えてくる。さすがにチップの相場は前回学習済みのため、セシルは苦笑いだ。


「あら!! あの時の2人ね、本当に来てくれたのね!! さっさとご案内してくれる?」


 店主のコカラは2人を見つけると嬉しそうに挨拶をし、チップをねだろうとした店員にめっとする。


「……こちらでございます」


 店員は少しうしろめたそうに案内すると、さっさと消えようと逃げる。


「あぁ、待ってくれ。チップを渡そう、その代わり、お土産に漬物を用意してほしいと店主に伝えてくれるか?」


 前回よりは少ないが、それでも十分なコインを渡す、店員は少し間をおいたあと、分かりましたと伝え嬉しそうに厨房にとんでいった。


「うふふ、また来てくれて嬉しいわ。特にお土産の選択がいいわね……さっきはごめんなさい。あの子、悪い子ではないんだけど、お客様で態度を変えるところがあるのよね……まったく、困ったものだわ」



「大丈夫です」


「ありがとう。私の漬物客第一号のお客様には特別に腕をふるうから楽しみにしていてね」


 そう言うと、宣言通り豪華な食事のおまかせセットが並べられる。



「前にオコメをリクエストしてくれていたでしょう? 今回も同じテイストで、ダシをすごく意識してみたの」


 厨房から出てきて大丈夫なのだろうかと心配になったが、夕食の時間にしてはまだ早いからか、余裕はあるのだろう。



「美味しいです!!」


「そうだな、美味しい」


「うふふ、良かったわ……前も思ったのだけど、もしかして和の国から来たのかしら? 私のお師匠様と同じ瞳に見えるわ」


「はい、そうです」


「そうなのっ!! やっぱりね!! どうかしら、私のダシ 合ってるかしら? 一度お師匠さまにはOKもらえないまま旅立たれてしまったから、結局そのあとは自分で何度も練習して作ってみたの……」


 いつもは陽気そうなコカラだが、初めて心配そうに話す。


「はい、ええと……サカナ と カイ のダシですね? すごく美味しいですわ」


 リズの返事にコカラはガッツポーズで喜ぶ。



「リズ……魚でこんな美味しいスープが出来るのか?」


 セシルは黄金色のスープで作られたお粥をつかむと、2人の会話に割って入る。


「はい、ホネ についた少しの ミ でダシがとれます」



――こんな、美味しいスープが骨と身でとれるのか!? それが本当なら、ぶつかっていた問題を解決できるかもしれない。



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