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白馬の王子様


 朝、いつもと違う寝室で目を覚ます。一瞬、セシルが隣にいないことに驚いたが、すぐにここがあのシチ達の屋敷だと思い出す。


 本来、来客であるリズには妻が付き人をつけるよう手配するものだが、当然そのような配慮はない。だが、長い船旅で1人で身支度をしてきたリズにとっては、些細な嫌がらせに過ぎない。他の令嬢ならば、涙の1つでも流していたかもしれないが……



 誰も来ない方が都合が良い。いつもの発語練習を行う。特にこの数ヶ月は、ニアから教えてもらった貴人の言い回しを書き留め、何度も何度も繰り返し練習したのだ。


 

 お茶会に誘われてからは、あらゆる嫌がらせを侍女たちと想定し、返しを練習してきた。今回のお茶の葉の中に、予想していたクカラ茶が入っていて密かに安堵していたのだ。


「大変 喜ばしいことですわ」

「お見苦しいところ 失礼 いたしました」

「旦那様……だ……セシル様……」



 あらかじめ、昨夜の帰りに水をもらっていた為、それで顔を洗う。この国では、やたらと大きなヘアブラシを使うようだが、リズはいつでも手元に手の平ほどのクシを用意していた。これだけは、幼い頃からの習慣だ。手放すことは出来ない。慣れた手つきで長い黒髪を少しずつとき、編み込みをしていく。これは、侍女に教えてもらった髪型だ。セシルが可愛いと褒めてくれたので、自分でも出来るようにしておいたのだ。手先が器用なこともあり、思ったよりもすぐに出来るようになった。




「おおっ、今日もお美しい」


「ずいぶん、支度に時間がかかったのですわね」



 やはり、食事の場では顔を合わすことになるのか……あえて時間をずらそうと遅く降りてきたというのに……


「はい」


 返事だけし、相変わらず料理だけは素晴らしい朝食を頂く。



「今日の午後は、領地を案内しようも思うのだがどうだろう?」


「いえっ、今日はせっかくですから、この国の上流階級がいかに素晴らしいかを教えてさしあげるつもりですのよ」



 どちらも嫌だ……だが、まだカラ侯爵夫人の方が有意義な気もする。なにせ、また髪をなでられたらと思うとゾッとする。



「カラ侯爵夫人の……」


「僕が案内する、これは決定事項だ!!」


 リズの言葉を遮られてしまう。夫人は、またかといった様子でため息をつくと、さっさと席をあとにしてしまった。


「あ………………」


「ったく、ようやく邪魔な者が消えたな。今日は2人でゆっくりと過ごせそうだな」


「………………はい」


「それにしても、昨夜の装いとは違うようだが」


 昨夜短い時間とはいえ、袖は通した。礼は通したのだから、無礼ではないはずだ。


「他にも用意したドレスは、侍女が持ってくるはずだと思うのだが、どうしてだ?」


「?」


 ここは、分からないフリを通すしかない。侍女など来なかったと言えば、リズに非はないが、あまり夫人の逆鱗にふれたくない。


「まぁ、まだ時間はある……帰ってからゆっくりでも……」



 恐ろしいことを言っている気がしたが、反応しないに徹するしかない。馬車に乗り、わざわざリズの隣に座ってくる。





「やはり、若い女性のエスコートほど、意味のあるものはないな。本当は他の夫人を招き入れたいところなのだがな、あの女が裏で邪魔をしているようで……彼女の実家の力を考えれば、皆萎縮してしまってな。あーあ、人選ハズレ引いたなぁ」



 密かにカラ侯爵夫人に同情してしまう。思い返せば、この男は彼女の前で平気でさげすむ発言ばかりだ。リズが何か一言言ってやろうかと思ったタイミングで馬車が大きく揺れる。


「きゃあっ!?」


「なんだっ!!??」


 不本意ながら、肩を抱かれるように支えられる。そろそろ離してもらいたいものだが、助けてもらった手前言いにくい。


「状況を報告しろ」


「申し訳ありません、子どもが飛び出してきたようでして……」


 結婚式でのパレードの日を思い出す。あの時も子どもが飛び出してきた。


「おいっ、この馬車の印が見えないのかっ!? 親はどこだ!!?? 紋章が見えないのかっ!?」


 怒ったシチは怒りのままに馬車から飛び出す。


「っ!?」


 謝る親子に鞭を出し、叩きつけようとしているのだ。


「やめっ!!」


「シチ兄さん、落ち着いて下さいっ!!」


「っ!?」


 リズはその声に手が震える。予定よりもずっと早い到着だ。この声は……


「セシル様っ!!」


「ああっ、待たせてすまない……それより、シチ兄さん、罰を与える前に、事情は聞いたのですか?」



 肩で呼吸をし、馬車ではなく馬にまたがっている。白い毛並みの美しい馬は、筋肉のつき方がそこら辺の馬とは比べものにならない。1秒でも早く到着出来るように、途中から馬で走ってきたのだ。


「事情っ!? ここは俺の領地だぞ? お前に話す必要があるのか? 場をわきまえろ」


「……しかし、あの親子は服装が領民とは異なります。おそらく移動中の他国の方々では? 下手をすれば国際問題なります。内容によっては父の耳にも……」



「ぐっ……」


 親子はよく見れば、変わった服装を着ている。身なりもどことなくちゃんとしているようだ。


「……リズ、和の国とは違うようだが、言葉分かるか?」


 船の中で、色んな国の言葉を聞いたリズなら分かるかもしれないと、セシルがかけよってくる。





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