嫉妬と下心の食事会
「お茶会はさぞ居心地悪かっただろう?」
シチは、リズがあの場で見事やってのけたとは知らず、カラ侯爵夫人の最後のセリフから聞いていたようで、どうやらリズが泣く寸前のところを救ってやったと思い込んでいるようだった。
「…………」
「大丈夫、僕はあの女の夫だがそれはあくまでも書類上の関係だけだ。一度だって妻として見たことはない」
「…………」
「うーん、静かな女性とはまた奥ゆかしくいいものだな、セシルの妻なのが実に残念だ」
リズが喋らないのを良いことに、好き勝手話している。セシルであれば、まだ言葉が聞き取れない時でもリズの様子から察してくれていた。それがこの国の気遣いなのかといたく感動していたが、どうやら人によるらしい。
「そのドレスも良く似合っている」
シチの視線にゾワゾワと悪寒を感じる。
「長旅で疲れただろう、今日はもちろん、我が屋敷に泊まるだろう?」
まだ朝日が昇る前から早馬用の馬車で休むことなく来ており、そのまま吊るされるようなお茶会の参加で、確かに心身ともに疲れ切っていた。だが、出来るのであれば別の宿で休みたいというのが本音だ。
「君のために、部屋の飾りつけをさせたんだ……気に入ってもらえるかな?」
そう言って案内された部屋には、ベッドにはバラの花びらがまかれており、リズの部屋着まで用意されている。なんというか、独特の趣味を思わせる。
「…………はい」
「そうか! そうだよな、気に入ってくれたか。やはりセシルにはもったいない……もし君が一夫多妻を受け入れられる国の姫君なら、僕は第1夫人の座を交代させてでも君を迎え入れたというのに……」
そう言って、リズの髪を触る。
「っ!?」
「でも、仕方ない……ああ見えて、カラは政治界において力のある侯爵家の人間でな……ほかの兄たちに対抗するには、年増でもめとるしかなかったんだ。実際、領地の運営は彼女の優秀な一族の人間が代わりに運営しているおかげで、かなりの税収を回収できた」
「……疲れました」
「そうだな、少し休んでまた夕食を共にしよう」
そう言うとようやく解放してもらえた。1人になり、ベッドへと倒れ込む。疲れたというのは、シチの相手をするのが、という意味なのだが。うまく立ち回れただろうかと思いながら、いつのまにか眠りに落ちていた。
「やぁ、ようやくのお目覚めだね」
「………………」
当然、食事の場にはカラ侯爵夫人も揃っていた。
睨みをきかせ、リズのドレスに気がつく。
「シチ様、あのドレスは……」
「あぁ、やはりよく似合っているな。やはり、素晴らしいその肌は隠さない方が良い」
大胆にカットされたドレスは、着替えるのに抵抗があったが、用意してもらったドレスを断ることも出来ない。せめて持参してきたショールで胸元を隠す。
「……それは、私には肌を露出させるなという意味で?」
「なんだ、まさか若い娘と張り合っているのか?」
「ほほほ、ご冗談を。私には到底考えられないセンスですわと、伝えたかっただけですわ」
「君との会話はこれだから……さぁ、こちらへ。醜い嫉妬など気にするな、君はそれだけ美しいということだ」
「なっ!?」
食欲などわくはずもない食事会は、おそろしく長く感じた。スキあらば難癖つけようと監視される中、ワインを片手にセクハラまがいなやりとりをする酔っ払いの相手に、素晴らしいご馳走も味がよく分からないまま食べ終わった。
「それでは、寝室へ僕がエスコートを……」
「まさか、いくら義妹とはいえ、こんな時間に2人で寝室に行くのですか?」
こればかりはカラ侯爵夫人の嫉妬に感謝した。何か言い返そうとしていたが、あまり彼女を怒らせても得はない、と判断したのか、あっさりと諦めてくれた。寝室につくやすぐにドレスを脱ぎ捨て、ようやく息が出来る。
「セシル様……早く迎えに来てください……」




