恥をかくのはどなた?
「……いいですわ、今日はあなたの為のお茶会ですから、どうぞそのままおかけになって」
カラ侯爵夫人は怒りで手に持つ扇子を握りしめる。思いがけず、自分の失言で上座に座らせてしまったのだ。
「でも、まぁ。悪くはないですわね。上座に座った者が今日のお茶の葉を決めることになってましたの。いくつか上等ものをご用意したのですけど、あなたの口に合うものが分からずこのような形に致しましたのよ? ちょうど良かったですわ、さぁ、選んでくださる? 」
「…………」
「カラ侯爵夫人、それは無理ではなくて? 確か異国では緑の……苦味のあるお茶しかないと聞きましてよ」
「こちらの繊細な文化はまだ早いのではないかしら?」
「ご無理なら席を代わってもよろしくてよ?」
「……こちらをお願いします」
リズは選んだお茶の葉を使用人に渡す。周りがこれみよがしに野次をとばすなか、並べられた葉の香りや色味で選定していたのだ。
「まぁ、クカラを……確かに癖のないお茶で万人受けしますし、カラ侯爵夫人の名前が入った葉ですわね……でも少し季節はずれですわ。旬のものをなぜ選ばなかったのかしら?」
「……クカラは、春のお茶です。新しい息吹を感じさせるように、今日初めて皆様にお会いできた出会いが私にとって新たな交流となることを楽しみにしていると意味を込めさせていただきました」
「あら……こちらこそ……歓迎してますわ」
お茶の葉に意味を込めるのはかなりの上級者でなけれざ出来ない。それをなぜ来て間もないリズが即興でここまで出来るのか、カラ侯爵夫人は周りが感心してしまったことが許さないでいた。
「お茶は……このくらいにしましょう。リズさん、私たちにも何か和の国のことを教えてもらえませんこと? どうもパッとしたイメージがありませんの。せっかくあなたが優秀でも、所詮自国の資源もない周り頼みの貿易関係と思われては気の毒で」
「えっ……えぇ、そうですわね。なんでも野菜を腐らせて食べるとか聞いたことありますわ」
「調理文化がないとかで、生の魚をそのまま召し上がるとか?」
「いやですわ、リズ様もそのようなものを?」
リズがダメなら自国を罵ればいいと、取り巻き陣も便乗してあおってくる。
「……カラ侯爵夫人、扇子をお借りしても?」
「えっ、こちらを? お顔を隠したくなったのかしら」
周りがくすくすと笑う中、リズは扇子を持つと池の前へ移動し、舞いを披露する。ドレスはシンプルに作られており、和柄を思わせる色使いに和の国の舞いと違和感なくとけこんでいる。先日のダンスレッスンのおかげで、ヒールでも問題なく身体を動かすことができ、見事な舞いを踊り終わる。
1人が立ち上がり、拍手をする。
「素晴らしいですわ!! 私、和の国の踊りなど初めてですが、こんなに素晴らしい文化があっただなんて!!」
「えぇ、私も思わず見入ってしまいました」
「1人での踊りがこんなにも華やかだなんて!!」
取り巻きを除く他のメンバーは拍手と絶賛の言葉を贈る。
「えぇ、本当にそうですわね……いい余興でしたわ……その色香で男の方でも誘惑しているのかしら?」
「まぁ……」
カラ侯爵夫人の言葉に周りは鎮まりかえる。その時お茶会に割って入る者がきた。
「こら、夫人。義妹をそのように侮辱など……見苦しいぞ?」
「シチ様……」
シチがリズの手をとり、扇子を夫人に返す。
「あの……」
「歓迎会はもうお終いのようだな? せっかく遠くから来た義妹を休ませることなくお茶会とは……さぁ、こちらへ。僕の屋敷を案内しましょう」
「……………」
「あの、私たちもそろそろ失礼致しますわ」
「えぇ、私も。あの舞いは見事なものかと、今日はこれで……」
取り巻きとともに取り残された夫人は、皆の前で恥をかかせれた怒りでふるえが止まらない。扇子をへし折り、夫であるシチの歩いて行った方れ投げつける。
「あの……あの男が頼み込むから結婚してやったというのに……」
プライド高いカラは自分より格下とは結婚しないと婚期を逃していた。そこに、王族からの結婚話が来て喜んで受けてみれば、王の取り決めで一領主としての身分に格下げされ、王位継承の順位も低いとなれば我慢出来ないものだった。しかし、表向きは格下げされようと王族に変わりはなく、邪険にすることも出来ないでいた。更に順位が低い王子と結婚し、実家の後ろ盾もない若いだけが取り柄の第8王子の妻であれば、うっぷんを発散できると期待していたのに、なぜ……ただリズと和の国の株をあげてしまっただけでなく、カラ自身の評価を落とす結果となってしまった。