兄のたくらみ、義妹かわいい
「…………」
「…………」
リズを部屋に戻るように離した為、ロゼと2人きりとなる。
――やはり、僕だけだといつものロゼ兄さんだな。リズに対して何をたくらんでいるんだ……兄さん相手に僕が探りをいれられるだろうか……あのロゼ兄さんだぞ!? 絶対出来る気などしないが、仕方ない……これもリズのため……
「あの、ロゼ兄さん……」
「……なんだ?」
相変わらず隙のない雰囲気をかもしだしている。
「式のあともこの地にとどまったのですね」
「あぁ」
「何か予定でも?」
「…………いや」
「……そうですか」
――無理だあああ、ここから探りなど、入れられる気がしない。
ロゼは、セシルの飲むお茶に気がつく。
「緑のお茶か?」
「え? あぁ、はい。リズの……和の国の飲み物です。少々癖がありますので、兄さんには別のお茶を……」
「頂こう」
「それは……」
「義妹の故郷の味なのだろう、義兄として、是非その味を知っておかなくてはな」
「ですが……」
「問題ない」
「そこまでおっしゃるなら……」
ロゼにも同じお茶と、取り寄せものの菓子を出す。
「本当はもっと甘い菓子と合うようなのですが、用意が間に合わず……」
「いや、よい」
ロゼは一口飲むと、一瞬動きを止める。そのままゆっくりと出された菓子を食べると、一気に飲みほす。
「にっ……兄さん?」
「…………義妹はこれが好みなのか?」
「えっ、はい。そのようですが」
「取り寄せ先をあとで教えてくれるか?」
――リアクションからして好きそうではないように見えたのだが……まぁ、でもロゼ兄さんの好みなど知らないしな……
「わかりました」
「あぁ……」
――どちらにしろ、いいタイミングだ。兄さんの方から頼みごとをするとは……
セシルは、兄を呼んだ理由を話す。
「それで、今日お呼びさせてもらったのは、兄さんにご助言を頂きたいと思いまして……」
兄といえど、領地の弱みをさらけ出すことは出来ないが、漁獲の再開にあたって、どこから手をつければ良いか行き詰まっていることを相談する。
「……視察には何度行った?」
「現地には一度ですが……」
「ではあと50回は行け」
「50回ですか!? しかし他の仕事も……」
「俺から言えるのはそれだけだ」
「……わかりました」
セシルが望まなくても王位継承権を争う関係に変わりはない。アドバイスを聞こうなど、無理があったのかもしれない。セシルがお帰り頂くよう席を立とうとした時、ドアをノックする音がした。
「リズ!?」
またおでこを赤くしたリズが両手にトレーを持ち、そのお皿には見たこともない黒いかたまりをのせている。
――やっぱりおでこでドアを叩いているのか!? すぐに訂正を……って、この塊はなんだ!?
「オチャ イッショ ワタシ コレ モッテル」
「もしかして、和の国から持ってきたものなのか?」
リズは頷き、ロゼを見る。リズが入ってきたことが分かると、なぜか一緒に立ち上がっており、固まっている。
「もしや……これを俺に?」
「そのようです……おそらく、ロゼ兄さんが緑のお茶を飲むことを知って、その……合う菓子を持ってきてくれたのだと……」
「いいのか?」
ロゼはそっと近づくと自らトレーを受け取る。
「アッ……」
「重いだろう? ここまで俺の為に持ってきてくれただけで十分だ。あいにく、お茶を先ほど飲み干してしまった。良ければこの美味しいお茶のおかわりをいただけるだろうか? 」
「?」
「……セシル」
「あっ、はい。すぐにおかわりを……」
人払いしていた為、慌てて使用人を呼ぶ。
――えーーーーーっ、驚いた……一瞬夢を見ているのかと……ロゼ兄さんのあんなにこやかな表情初めてみるぞ……
「うん、うまいな。さすが、我が義妹が俺の為に選んでくれただけのことはある。実に絶品だ……和の国は加工だけではなく、食に関しても素晴らしい技術を持っているのだな」
黒い塊は見た目と異なり甘い砂糖の塊のようだった、保存食としての実用性があることにも驚く。
「確かに、これは凄いな」
リズは嬉しそうだ。
――うん、これは愛想笑いではないな。ロゼ兄さんのたくらみは分からないけど、とりあえず良しとするか。それにしても、やたらと義妹を強調するな……他にも義妹たちがいるというのに……いや、確か他の兄さんたちの第1夫人って確か皆んなひと回り以上年上だったような……
王位継承権を優位にさせる為、より力のある家系から多方面において経験、実績、実力のある相手を皆選んでいた。正式な夫人はメリットを重視した相手ばかりのため、世継ぎが生まれなければ、若い愛人でも問題はないという考えなのだろう。
「ロゼ兄さん……もしや、リズを可愛いがっているので?」
「ゴフゥッ!!? ……なにっ??」
こんなに動揺した兄を見たことがないと、セシルは衝撃を受ける。
「義妹を大切にするのは、義兄としての義務だ」
「……リズが作ったお菓子もありますが」
「是非っ、いただこうっ」
「…………」