表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/55

可愛いが過ぎる


 リズとランチを共にしたあと、午後はまた書斎にこもる。とにかく、財政状況やこの土地の経済の流れを少しでも把握したい……だが、実際に運用などしたことのないセシルにはどうしても決断できずにいた。


「ダメだ……すぐに港をどうにかしたいが、動かすにしても予算がかかりすぎてしまう……」




 地元をよく知る執事ですら手をつけてない案件だ。そもそも、修理したところで船の担い手はいるのかなど、考える課題が多すぎる。その時、書斎をノックする音が聞こえてきた。


「誰だ」


「…………」


「ハミルか?」


「…………」


「入って良いと言って……リッ……ズ!?」


 両手にお茶とお菓子を持ったリズがドアの前に立っているではないか。



――どうやってドアを叩いたんだ?


 見れば、リズのおでこは少しだけ赤くなっている。


――まさか頭突きでっ!?


 慌ててリズの持つトレイを代わりに持つ。


「オチャ……ヤスミ、イッショニ……ダメ?」


「っ!? ダメなわけないだろう!! 嬉しいに決まっている。中に入って、一緒に飲もう」


 リズは嬉しそうに笑う。彼女の用意してくれたお茶は、和の部屋で出してくれた時と同じ緑のお茶だ。


――ちょうど甘いものが欲しくなってきたところだ。それに、あの苦味は強烈だからな……行き詰まっているところに、ちょうどいい刺激だな。リズの言う通り、休憩した方が良いだろうな。



「お菓子は……何やらいびつな焼き菓子だな」


「ワタシ ツクッタ」



 顔を真っ赤に、恥ずかしそうにうつむいている。



――かっ!? 可愛すぎる…………いや、それよりリズが焼いてくれたお菓子だと!? もったいなさすぎて無理だ。なんとか永年保存する方法は……


 リズがじっと見ていることに気づく。不安そうな顔でこちらを見ているのが分かる。




 一口かじり、よく噛みしめる。焼き上がってすぐに持ってきてくれたのだろう、まだ温かい。お茶に合わせたのかやや甘めな気がするが、疲れた身体にちょうど良かった。少し焼きすぎた部分があるようだが、カリカリとしていてむしろ好きな硬さだ。


「おいしいよ、ありがとう」


 そう言って、残りを頬張る。


「フフっ。ヨカッタ……」


 あいかわらず、緑のお茶は強烈な苦味を感じさせるが、お菓子と食べるとやはりうまい。



「ゼンブ ダメ」


――なにっ? リズが僕の為に作ってくれたのだろう……もう少し食べたいのだが……


「タベル オオイ ネムイ」


「そうだな、食べすぎると眠くなるな。ありがとう、もう少ししたら終わるから、また一緒に食べよう」


 手でバツをするリズがうんうんと頷く。



――可愛い……


「やはり、もうおしまいだ」


「?」


 リズを抱え、そのまま部屋へと向かう。


「????」


「カラダ ダイジョウブ?」


 頷くのを確認し、セシルは安心したように笑うと、そのまま寝室の扉をしめた。










「セシル様、夕食はいかがいたしましょう?」


 夕方になり、執事は寝室にこもったままのセシルにドアから尋ねる。


「あぁ、今日は部屋で頂こう。リズの部屋に置いていてくれるか?」


 ドア越しからの返事に、執事は返事とともにそっと下がる。夫婦仲の良いことは喜ばしい。





「…………リズ……さん?」


「…………」


「その、カラダハ……」


 ぶんぶんと勢いよく首をふり、リズはセシルに背を向ける。


――しまった……可愛すぎてついがっつきすぎてしまったか!!?? 


「……ハズカシイ」


「え?」


「ミンナ ハズカシイ」



――皆んなとは、使用人たちのことか? 


「いや、夫婦だし……大丈夫かと……」


「だいじょうぶ ちがう!!」


 真っ赤な顔で見事にクリアな発音で一喝される。


「すみません……」







 部屋での食事中も、リズはセシルと顔をあわせようとしない。


「リズ……」


「………………」


「リズさん? このお肉も美味しいぞ? もっと食べるか?」


 ぶんぶんっ。顔を横にふり、よく見れば涙目だ。


「〜〜〜〜っ!? すまない……リズが可愛すぎて……我慢できなかった……」


「……ヒル だめ」


「分かった。リズが恥ずかしくなるようなことはもうしない……ようにする」


「ヤクソク」


「あぁ、約束する」



 ようやく顔をあげ、笑ってくれる。


――まさかここまで恥ずかしがるとは……もしや、痛みがあったのかっ!!??


「イタカッタ?」


 ブンブンと顔をふる。その顔はまた真っ赤になっえいる。



――とりあえず良かった……だが、あまり可愛い顔をされると困るな……



「あぁそうだ、明日ロゼ兄さんを招待している」


「?」


「アニ クル アシタ」


 今度は首を縦に頷き、分かったと伝えてくれる仕草に、またしても可愛いと思ってしまう。









 ロゼは、弟からの招待に約束通りの時間に到着する。


「ロゼ兄さん、ようこそ……あの、これは……」



 後ろには、大量のプレゼントが届けられている。


「結婚祝いだ……」


「それなら、先日の式の時に……」


「個人的な祝いの品だ……」


「なるほど? ありがとうございます」



――やはり、何か裏の意図があるのか? 賄賂を送るような人ではないと思っていたが……この地に留まっていたのも何か理由が?



 少し警戒してしまう。


「ようこそいらしてくださいました、ロゼ……オニイさま……」


 兄が来ると伝えたあの晩、リズの発音練習の一晩中付き合うこととなった。直前まで暴走してしまっていたこともあり、断れなかった。まだたどたどしい言い方ではあるが、かなり練習した。急な誘いをしてしまい、リズの負担にさせてしまっただろうかと反省する。



「…………あぁ、ありがとう」


「っ!?」


――ロゼ兄さんが笑っただと!? どうしたんだ、一体……もしやリズを通して異国交流の利益を兄さんも狙っているのか!?



「ロゼ兄さん……」


「なんだ?」


 リズの前に立ち、セシルはリズを遠ざける。


「今日は来て頂きありがとうございます。どうぞ、客間へ……執事が案内しますので」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ