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1日目は夢中


 髪を撫でる。ずっと近くで触りたいと思っていた。


――綺麗だな……


 ようやく夫婦となれた。政略結婚が破談にならなければ良いと思っていたが、今はそのことを抜きにしてもリズと一緒にいたいと思っている。



「んっ……」


 異国に嫁ぐと決まった日から、彼女はどれほどの不安と苦労をしてきたのだろう。馬車で1日ほどの距離を、部屋から出るだけで憂鬱になっていた自分を殴ってやりたい。


「もう少し寝ても大丈夫だ……今日はゆっくり休んでくれ」


 セシルの声を聞きながら、リズはまた眠ったようだ。初めこそあまり喋らなかったが、ここ最近は積極的に話すようになってきたように思う。セシルの仕草や単語から、訳さなくともなんとなく分かってきたようにも見える。おそらく、単語自体はたくさん覚えてきたのだろう。うまく発音できないことを気にしているようだったが、セシルの前では会話しようと頑張ってくれている。


――これは、好き、なのだろうか……


 自分の気持ちに確信が持てないが、リズを大事にしたいと思う気持ちの言い換えが他の言葉では不十分に思える。






「おはようございます、セシル様」


 使用人が起こしに来る前に、書斎へと向かう。


「あぁ、今日は彼女が起きたら、部屋で食事をとれるように用意してくれ」


「かしこまりました、セシル様もお休みにならなくて宜しいので?」


「結婚式が終わり次第、領地の問題にとりかかると言っただろう……君も手が空きしだい、そこの机に座ってくれるか?」


「承知しました。すぐに戻ってまいりますので」


 そう言って執事はリズの段取りを伝えたあと、すぐに戻ってきた。その間にセシルは書類を引っ張り出しており、何やら書き込んでいた。



「まずは、船場の復興だな……」





 元々、海、山、陸にはそれぞれ豊富な資源があった町だったが、前領主がおさめなくなってからは、災害への復興や港の維持のやりくりが困難となり、廃れてしまったようだ。そのせいで、多くの失職者を出すことになった。


「本来は、とれたての魚類が並ぶ市場があったほどです。しかし、荒れる海の補修は高い出費でして」


 執事も悔しそうだ。


「現地へ向かおう」



 港には、壊れかけた船らしきものがいくつか泊まっていたが、長いこと機能していない様子が見てとれる。


「……これは、思った以上にひどいな」


「港は塩害がありますので、その分傷みが早いのです」


 ここを復興すれば、貿易とまではいかなくても、交通手段や物資の調達にも役立ちそうだ。この地は山に囲まれている為、馬車がなければ移動は困難だ。



――船に一気に人が乗ることが出来ればと思っていたのだが……


 課題は多そうだ。


「それと、先ほど城より通達がきまして……ロゼ様よりお手紙が届いているとのことです」


「ロゼ兄さんが? 一度城に戻ろう」


 兄からの知らせなど今まで一度もない。セシルが領主になったことで、なんらかの利益を期待しているのだろうか、それとも他の兄たち同様に、リズが目的なのか……



「アッ……オカエリ ナサイ」


 城へ戻ると、リズが目を覚ましたようだった。


「アサゴハン……ありがとうございます」


 リズの為にと、お米を使った料理を頼んでいたのだ。モアイの店で美味しそうに食べていたので、執事に頼んでいた。


「あぁ、喜んでくれて嬉しいよ。それより、起きていて平気か? もう少し寝ていても……」


「ダイジョクブ……」


 恥ずかしそうに真っ赤になっている。胸がキュンとなる。


――これはやばいな……昨日よりも更に可愛く見える……



「ドレスも靴も、君に合うものを一から作るよう言っている。足の傷もひくといいんのだが……」


 どうしても足の傷は治らないようで、なんとか包帯を巻くことで痛みを和らげていた。医師にも、慣れるしかないと言われているが、彼女に痛いことはしたくない……肩をつかみ、愛しそうに抱きしめる。


「〜〜〜〜っ!!」


「セシル様、仲が良いのは大変喜ばしいことで……」


――しまった、ここはまだ部屋ではなかった。



 皆の前でおもわずリズを抱きしめてしまい、すぐに我にかえる。


「そうだな、場をわきまえる……ロゼ兄さんからの手紙を部屋に持ってきてくれるか?」


 指示だけすると、リズを抱える。


「っ!?」


「ほほうっ」


 リズと、執事がなぜか反応するが、そのまま寝室へと連れて行く。


「フトンで休んでいてくれ……今日は君を部屋から出したかない気分なんだ」



 そう言って髪にキスをする。


「〜〜〜〜っ!!」


 その反応が可愛くて、これ以上一緒にいるのは危険だと自身の部屋へ戻る。


「セシル様、お持ちしました」


 兄からの手紙には、『しばらく近くの村で滞在する、何かあればかけつける』と書かれていた。



――えっ!? ロゼ兄さん帰ってなかったのか? ここはまだ兄さんが興味を引くようなことはないはずだが……それに、滞在するならこちらへ泊まれば良いのになぜ……いや、だがロゼ兄さんが近くにいるならちょうどいい。



 すぐに使いの者に返事を依頼する。明日屋敷へと招待した。


「ハミル、客間の用意を頼む」






 




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