初夜、これは誤解ではない
馬車でのパレードは1日がかりで執り行われ、夜になってようやく城に帰ってきた。
「ご立派でございました」
式のあと、先に城へ戻っていた執事は感動で涙をぬぐっていた。おそらく、式のことを言っているのだろうと思っていると
「女神さまの祝福を頂くとは、さすが新領主様、そして女神のごとき奥方様も……おつかえできること、心より嬉しく思います」
「……なんのことだ?」
そう言うと、執事は速報と書かれた新聞を出す。
そこには、リズとセシルの結婚式の写真よりも大々的に、陽の光がふりそそぐように輝く馬車に乗る2人の姿が乗っていた。
『女神の祝福 新領主様と奥方様 民によりそうその姿に、多くの住民が歓迎』
「これは……良いこと、だな」
「はい、大変素晴らしいことでございます」
執事は鼻の荒い息が止まらない。
「領民だけではなく、女神さまがお2人を認められたのです。これでこの地は安泰というもの……明日の朝には領地全てに届けられているはずです」
「では、今日1日がかりで全てをまわったが、その新聞の一面の方が効果はあるかもしれないな……」
あのあとのパレードでは、どこへ行っても歓迎というよりも、どの面さげて今更来てるんだ的な空気感を否めない雰囲気だった。覚悟はしていたが、なんとも重い空気でお腹いっぱいだ。
「…………」
「…………」
「……うれ うれしカッタ です」
「そうだな。今日はもう休もう」
「失礼致しました、湯の準備が出来ております。どうぞお部屋へ」
執事の言葉でリズは専属の侍女たちに部屋へと案内される。
――そうだよな、慣れないドレスは疲れただろうな……しかし、写真とは便利な者だな、絵とは異なり、そのままの姿が一瞬で撮れるとは……リズのドレス姿、綺麗だったな……
「ところで、その新聞はまだあるのか?」
「10部ほど購入しております」
「……よくやった」
部屋へ戻り、セシルも正装から部屋着へと着替え、黒ダイヤを外す。
――母もみていてくれただろうか……
父がその飾りに気づいた時、嬉しそうにしていたことを思い出す。両親の為というよりも、なんとなく、リズの瞳と同じ輝きをしていたからつけたのだが、良かったと思う。
今回の政略結婚は、国の発展に重要な意味を成す。現に、今まで空気のようなら扱ってきた兄たちがセシルのご機嫌をとろうと並んだくらいなのだから。
――まぁ、シチ兄さんやロゼ兄さんはちがったようだが……
ロゼ兄さんのおかげで思ったよりも嫌な思いをせずにすんだなと感謝する。
――とりあえず疲れた……風呂に入るか……
2人の部屋とは別に入浴のスペースが設けられている。おそらく先に着替えにいったリズがそろそろ終わっている頃だろう。
ガチャリ
湯を大きくはったお風呂場は、和の国を意識して作ってもらった。床を石畳にし、取り寄せた木材でお湯を入れられる風呂を作ってある。お湯の流れを板で調整出来るようになっており、熱いお湯を注げば循環する仕組みのようだ。
――確かあちらの国では湯に入る前に身体を洗うのだったな……
お湯をすくい、身体にかける。
――これは良いな。もうそろそろ入っても良いのだろうか……
後ろからそっと触れる手に気づく。
「え………」
後ろにはタオルを巻いたリズがいた。
「りっ!?」
「セナカ ワタシ アラウ」
「せっ……背中を……洗ってくれるのか?」
顔を真っ赤にうなずいている。
――なぜだ……侍女の仕事ではないのか!? それとも、和の国ではそういう文化があるのか? なんと嬉しい文化が……いや、しかし、良いのか? 夫婦になったし良い、いやいやいや、いや? 良い?
悩む間にリズは背中を洗い始める。
「っ!?」
――ダメだ……彼女の方を見れない……
その手は柔らかく、まるでマッサージを受けているようだ。
「〜〜っ もっ、もう大丈夫だ、あとは自分で洗う」
――あれ、そういえば、次は僕がリズを洗うのか!?
「あの……リズ、洗おうか?」
人差し指で自分の方からリズを指差す。意味を理解しかのか、顔が一気に真っ赤に変わり、首を急いで横にふる。
「いや、それは不公平なのでは!? あっ!!」
逃げるように浴室場から出ていく。
「サッキ オフロ オシマイ」
――なるほど、リズはお風呂終わっていたのか……
自分のためにわざわざ来てくれたのかと、セシルの方が真っ赤になってしまった。
「リズ……入っていいか?」
お風呂から上がり、リズの部屋をノックする。
――まぁ、鍵はかかってないのだがな……
開くのを待っていると、リズから開けてくれた。手を取り、セシルの部屋へと案内する。
――本当はそういう共通の寝室があれば良かったのだが、なぜかこの城の造り上なかったんだよな……
元々大きな寝室1つがあり、リズの部屋は書斎として使っているような造りだった。
――前領主は夫婦の仲も良かったようだから、もしかすると寝室を共有していたのか……
そう思いながら、セシルも無理にリズの部屋を作らなくても良かったのになと一瞬思ってしまった。
――そうすれば、ずっと一緒にいれるのか……
「?」
「いや、なんでもない……今日は……目を閉じてくれるか?」
肩に手を置き、なるべく優しく話しかける。リズは出会った日の時のように目を閉じる。あの時はふるえていたが、今はむしろ、もっとくっつきたいとすら思っている。
「はい…………」
「〜〜〜〜っ」