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誓いのことば


 執事はずっと満面の笑顔だ。


「誤解だぞ?」


「分かっておりますとも」


――絶対に分かっていないだろう。


 今朝の騒動から報告を受けた執事は今日の予定を全てキャンセルしようとした。リズの身体を気遣ってのことだろうが、本当に何もなかったのだ。いやこの国で、あの状況で何もなかったはあり得ないということは分かっている。レディの部屋で寝ていたのであれば、それはリズが誘ったのだろうと受け取られかねない。


「何もない、式までは彼女の国の伝統を尊重しているからな、昨日は、僕も見慣れない畳と布団を見たいとつい夜遅くに訪れてしまった……そのままつい寝てしまった僕を気遣ってくれたのだろう」


 侍女たちにあえて聞こえるように大きめの声で言う。こういうことは、男の執事よりも女性陣の方が話を広げてくれるというものだ。


「……左様ですか……」


 少しだけ肩を落とすも、気持ちを切り替え今日の日程を決めていく。さすがは領主の代わりを勤めてくれていただけある、仕事のこととなるとスイッチが入るようだ。式の招待状は先に送ってある。だが、誰をどこの席に座らせるか、座席表と肝心の誓いの言葉が出来ていない。


「やはり、リズも連れて行こう」


 当日の予行練習もしておいた方がよい、なにせ先まであと数日、本来は何度も練習するこの過程を、

さすがにぶっつけ本番でするわけにはいかない。


「そのように……」


「あぁ、それからもう1つ……」





早朝から馬車に揺られ、式の予定地に到着する。リズ側の参列者がいないこと、王子といえど8番目ともなるとそこまで大きな結婚式はしなくても良いということになっている。


「ワァ……」


 昨日同様、リズは感嘆の声を出す。朝日がちょうど昇る時間に着き、日の出を拝めた。海を見られるその丘は花々で囲まれている。


「王都にいたセシル様に申し上げるのは迷ったのですが……」


 執事は少し迷っているようだ。


「なんだ?」


「この土地は、始まりの土地とも呼ばれているのです。日の出が1番に昇り、その光は他の土地を次々と照らしていく……かつては海からの恵みと、山の恵み、その土地は作物を豊かに実らせたと言われています。今となっては、残っているのは田畑くらいですが……」


「あぁ、昨日の資料で見た……野菜の収穫が豊かなようだな、気候に恵まれているのか?」


「はい、雨は必要な分だけで、ほとんどは晴れに恵まれます。1年に一度太陽の女神に感謝の踊りを捧げ、陽の光が送られていると伝えられています」


「それもいずれ見てみたいな」


 きっと、リズが踊れば美しいだろうなと想像する。領主不在でもやってこれたのは、作物が安定して獲れていたことが大きい。だが、それ以外に関しては問題は山積みだった。



――派手すぎても反感を買うが、領主の存在を知らしめる場でもあるからな……



「リズ、結婚式は外でするのはどうだろうか?」


「ソト?」


「ここでだ ココ」


 リズが立つ見晴らしの良い場所を指差す。


「ここでございますか?」


 執事が驚く、元々は近くの教会を貸し切って執り行う予定だったのだ。


「リズは異国から来た。ここの信仰はない、だが、この地で僕たちが夫婦となる以上、その誓いは太陽の女神にすべきだろう」


 外でなら音楽が下の町にも響くだろう、この土地の特性から、天気が崩れにくいことも分かった。先日雨が降ったとのことであれば、当分は晴れになるだろう。民が大事にしている女神へ誓いをすれば、印象も良くなるだろうと狙ってのことだ。



「そうですか……それは、良い考えですね」


 執事も驚いた様子だが、女神への敬意をすなおに喜ぶ。リズが少し考えたように黙ると、セシルの袖を引っ張った。




「ソト ウレシイ」


「〜〜っ!! そうか、良かった」



 そこから話は早く進み、結婚式の日を迎えることになる。




「綺麗だ……」


 リズは花の刺繍を施されたドレスに身をつつみ、黒髪には花々で作られた冠をかぶっている。花に囲まれた式場には、来賓席にこそ護衛の兵を配置しているが、セシルとリズの周りは自由にした。ここでは、第8王子ではなく、領主として来たのだ。


 盛大な音楽の演奏のもと、セシルが彼女の手を引きながらゆっくりとカーペットを歩く。リズは船からやってきており、彼女はすでに送り出されてきた身、その為、カーペットはこれからを共に歩いていく意をこめ、花婿が花嫁と歩む形にした。



「では、ロザード国の法にのっとり、この地の神々の許しをえて、2人を夫婦とみなします。誓いの言葉を……」


 セシルはそっと手紙をリズに渡す。そこには、和の国の言葉で書かれた誓いの言葉があった。彼女がそれを読むのを待ち、手を握る。


「……今日から君は僕の妻となり、僕は君の夫となる。今から僕たちは1つの家族で、この土地を支えるパートナーとなる。僕は君だけを妻とし一緒にいることを誓う。ここへ来てくれて感謝している。ありがとう」



 大きな拍手が送られる中、その言葉に、来賓で参加していた兄たちは内心驚く。異国の妻を迎え入れ、これまで王位継承権から離れていた末弟の急な登場に警戒していた。貿易の要となる強いカードを手にしたのだから。だが、彼女のみを妻とするならば、弟の手札は1つのみだ。他の後ろ盾もなく、ましてや後継ぎに恵まれなければ、大きな脅威となることはない……ここは、仲良くして己の手札にした方が有利になる。



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