一緒に寝ましょう
目前に迫る式の準備に加え、長ら放置していた領地の資料に目を通し、かなり疲れた。今日はこのくらいにして、寝なければならない。だが、セシルは部屋の真ん中をうろうろと歩く。
――いや、彼女には自室を与えていて侍女が助けてくれているはずだ、それに夜も遅いし、こんな時間にノックをしようものならまた誤解を与えてしまう。だが、今日は新しいところに来たばかりで、不便なことがあったかもしれない……
散々、悩んだ結果、少しだけ顔を出すことにした。夫婦の部屋をつなぐドアをノックする。もう寝たかもしれないと思ったが、ドアが開く。
にこりと愛想笑いではない笑みを浮かべてくれる。
――よ、喜んでくれている……
自分に会って喜ぶリズに思わずセシルも笑い返す。
「コマル アル?」
リズに手招きされ、迷ったものの和洋室へ入らせてもらう。実は、指示を出してはいたものの、和の文化を見たことはない。リズの部屋をよく見たいと思っていたが、レディの部屋に入りたいなど言うわけにはいかず、好奇心を抑えていた。
「おおっ、すごいな」
本物の畳は見たことがない、その手触りと新品の匂いに和を感じる。
「いい匂いだな」
リズは隣に座るように手招きしたため、お言葉に甘えて、靴を脱ぎ、座らせてもらう。
「かたいんだな!! だが、手触りが良いし、床の冷たさを感じないな」
床より高さを設けており、冷えがこないように工夫されている。あぐらをかいて座る。リズは陶器で出来たお茶碗に、あらかじめ取り寄せていたお茶を入れるとそっと出す。
――もしや、もてなしてくれている?
リズの心遣いに感謝して、緑の色をしたお茶をそっと飲む。
「苦いな……」
正直に言えば傷つけてしまうかもしれない、迷ったが彼女に嘘をつくわけにもいかない。
「オイシイ チガウ……」
がっかりするかと思ったが、リズはそのままにこりと笑い菓子を差し出す。一口かじりお茶を再度飲んでみると
「おぉっ、口の中がさっぱりとするな!! 」
セシルの表情で伝わったのだろう、リズは満足そうだ。
「ありがとう、ご馳走様」
ありがとうならリズもよく使う。2人にとって共通の言葉となる。
おもてなしのおかげで疲れもとれ、体調を聞こうと思いリズを見ると、なぜか急にしおらしく、もじもじとした様子をみせる。
――まさか、この展開は……
「イッショ ネマショウ」
セシルの袖をつかみ、布団の方へと誘うリズ。
――えぇっ!? 急に?? なぜだ……いや誘いは嬉しいが、でも……えぇっ!!?
結婚式までは貞淑を守る、それは和の国の大事な文化だと聞いていた。それに、セシルも待つつもりだった。しかし、この国において、レディの誘いを断ることは出来ない。悩むセシルはハッとする。
「テツダイ ヒト イウ? ナニカ」
執事が跡継ぎの話をしていたことを思い出す。まさか、侍女たちが彼女に何か言ったのか……だが、リズは首をふり否定する。
――えっ、違うなら……じゃあ……
「ワタシ セシルサマ イッショ イタイ」
顔を真っ赤に言うリズに、もはや何も考えられない。彼女の手をとり、敷いてある布団へと連れて行く。
「……いいのか?」
リズはセシルの手を取り、布団に横になるようにポンポンとたたく。
「えっと、先に横になってほしいのか?」
指示されたとおり、横になると、布団をそっとかけてくれた。
――え?
「オヤスミナサイ」
そう言うと、隣にちょこんと布団に入り、恥ずかしそうに照れている。
――あぁ、一緒に寝たいって、本当にそのままの意味……まぁ、嫌がられてなくて良かった…
慣れない布団と、隣ですぐに寝息をたてるリズに、明日は起きれるだろうかとなかなか寝付けない夜となった。
ドアをノックされる。気づけば隣にいたはずのリズはもう起きていて、侍女たちが入ってきた。
「はっ!! 失礼致しました」
まだ布団にいるセシルに慌てて侍女たちは退散する。
「あっ、ちがっ!!」