本気を出せば凄いんです
「…………」
自分が姫にと段取りした部屋に、ここまで喜んでもらえるとはと、畳の上に座りリラックスした姿に思わず可愛いと思ってしまう。
――綺麗だとは思っていたが、なんというか、かわいいぞ……これは、結婚式まで待てるだろうか……
執事がいることも忘れ、思わず赤面し見惚れてしまう。
「あの、領主様?」
執事の言葉に我に返る。
「いや……大丈夫だ、ちゃんと待つ」
「待つとは、一体?」
「あっ、いや……部屋の準備ご苦労様だった。書面での指示で想像以上の仕上がりだ。彼女はしばらくここで休ませて、領地のことについて簡単に確認したい」
リズに後で来ることを伝え、執事とともに書斎へと移動する。ただでさえハードなスケジュールの中、1日遅れた分要領よくこなしていかなければいけない。
「まずは、昨日ご指示があったこの土地の財源と出費、特産品の資料がこちらに……」
「あぁ、そのテーブルに並べて置いてくれ」
セシルは書斎には自席以外の机と椅子を用意しておくよう指示していた。
「その机で今から言うことを書き留め、計算して出来次第報告してくれるか?」
「こちらの席でですか?」
執事は驚いた。領主様と同じ部屋で作業をするなど、聞いたことがない。使用人は必要な書類を探し、それを書き留め、領主へと報告するのが一般的だ。
「あぁ、その方が早いだろう? 時間があまりないんだ。領地に関する重要な書類はこの部屋にまとめてくれているのだろう?」
その通りだった。報告の手間を省いた分、その場で必要なことを即座に調べ伝える。そして、新たに指示を言われ書きとめる。分からないことは執事に確認しながら、セシルはこの土地の大まかな特徴を把握していった。わずか数時間の間に、1週間分に相当する報告をしたのではないかと、その理解力の速さに執事は驚いた。もっと早く、この方が来ていただいていればと、悔しくも思う。
「おおよその理解は出来たな。予算の使い方が旧統治時代のままだから、穴も多いが、基本はしっかりされた領主だったのだろうな。なんとか持ちこたえられてきたのは、前領主のおかげだな」
「えぇ、当時はもう少し活気のある町だったのですが、残念ながら前領主様はお身体の具合が悪く、養子を取る前に……」
「そうか……」
「ですので、領主様たちにはたくさんのお子を授かれるよう、使用人一同できる限りのことを全身全霊で努めさせていただく所存であります」
「なっ!? お子をっ!? えっ!?」
執事はいたって真剣に、同じ過ちを繰り返さないようにと強い心意気を感じさせる。
――外交問題に、後継ぎ問題……全てリズ姫に受け入れられるかどうかにかかっているではないか……ダメだ。吐きそう……
「領主様っ!? 顔色が悪いようですが……本日はもう休まれた方が……」
「いや、大丈夫だ……そういえば、彼女の従者はどうなっている?」
初日の失敗を繰り返さないよう、念のため確認しておく。
「そちらも昨日のご指示通り、観察力に優れた者を数人、専属の侍女として担当させております……しかし、もっと大人数でなくて良かったので?」
「あぁ、人数を増やした方がいい時はまた頼む」
リズ姫は言葉での指示は慣れないだろうから、気を利かせられる者を厳選してもらった。人数が少ない方が、彼女も打ち解けやすいと考えたのだ。
「明日は結婚式の招待客の確認と実際に式の現場に行く。地図では城からそこまで離れていなそうだが、問題ないか?」
「はい、海の見える高台で、山の上にありますが馬車でならそこまでお時間はかからないかと。リズ様はヴェールと裾上げ、装飾品の合わせを行う予定です。既にデザイン案の8割は出来ていますので、間に合うかと……」
「……段取りがいいな、では明日は日が出たら外に出れるよう手配を頼む」
「承知致しました」
執事が退室し、ずっと張り詰めていたセシルは両手を机にもたれかかる。
――だぁ〜〜〜〜っ、疲れた……領主っぽく出来ただろうか……あぁ〜〜〜〜〜〜、前領主様へのリスペクトが皆高すぎる……無理だろ、コレ。受け入れられなくない!? 子どもとか!! つい最近まで父親に養ってもらってた身なのですがっ!? まずは結婚式では??? えっ、何人くらいが普通なの??????
そういえば、自身も8人兄弟だったなと振り返る。お子が多くてこその繁栄、その為の一夫多妻制なのだ……
――和の国は1人の妻と生涯連れ添うというが、何人くらいが平均なのだろうか……