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8,明かされた宣伝一課の秘密と暴君の野望

 何も知らないのに、英美里から会社に関する情報を漏洩した疑いを掛けられた久晴。

 当然、近衛真理香に関してロンドン支社へ配属中以外は何も知らないと主張する久晴。

 だが、建也の提出した偽の証拠が原因で久晴を犯人扱いする英美里。

 一応、琴音の仲裁で騒動は一端収まったが不穏の空気が今も残る宣伝一課。

 しかし、建也が用意した偽の証拠は冬コミで邪魔された久晴への復讐と真理香に近寄るために仕組んだ罠。

 真理香は、罠である事を見抜いたのは家族間でのお見合い。

 建也は真理香の両親と談笑しながら、中学の頃まで同じ学校に通っていたことや真理香について深く知っていると自信満々に話してくる。

 その時、久晴の疑惑が濡れ衣である事を見抜くと同時に罠である事も見破ったが、お見合いの席で建也は真理香を追い込むようにデートを申し込んできた。

 しかも、デートの日取りは夏コミ初日と重なり丁重に断る真理香。

 ところが、建也に対して好印象を持った真理香の両親が私情を無視して推し薦められ渋々デートを受理せざるを得ない状態に。

 同じ頃、濡れ衣を着せられた久晴は首の皮一枚の状態だと思い込み下手すればクビになるのではと恐怖に震え夜も寝付けない状態。

 何とかして身の潔白を証明しようと模索するが、完全に容疑者扱いする英美里が最大の壁として立ちはだかり説得するチャンスすら与えてくれない。

 お見合いが終わり、気落ちしている真理香を見て気になった遼太郎は琴音を呼び出し秘書達と共に建也について素性を調べる指示を与える。

 そんな、疑惑の渦が蠢く状況に謎の女性の来訪で状況が一変することに……。




 未だに身に覚えのない罪を着せられ、未だに険悪な状況は改善されず、休みたくても出社しなければならない会社員の辛さを痛感する久晴。

 それでも、重い足取りで出社する久晴は肩を落としため息を吐く。

(何も、身に覚えがないのに……。今日も、疑われたままか……)

 と思って、自分の席に向かう久晴。

 隣には、真理香が深刻な表情で俯いている。

 真理香の表情を見た久晴は、席に座ることすら躊躇っていた。

 まだ、誤解が解けていないのではと脳裏に嫌なことが過っている。

 そんな中、真理香は細々とした声で久晴に話し掛けてくる。

「ご、ごめんなさい、冷たくしちゃって……。貴方の疑い、デマだと知っているから……」

 まさか、疑いが晴れているなんて想定しなかった久晴。

 今も険悪な状況は続いていると思っていたので、まさか建也のもたらした情報がデマと見抜いていた真理香に何を言えばいいのか思いつかない久晴。

 そこへ、後から出社した英美里が久晴の肩を掴んで後ろへ払い除ける。

 払い除けられた久晴は、尻餅をついて倒れてしまい睨み付ける英美里の顔を思わず見て恐怖に震える。

 英美里は、久晴を今でも犯罪扱いしており、

「真理香、全ての元凶はコイツだから」

 と言って、尻餅をつく久晴を睨み付け真理香を寄せ付けようとしない。

 その時、久晴は怒りに満ちた顔の英美里に恐れ戦き言葉を失う。

 当然、後から出社した琴音が英美里に注意して仲裁に入って命拾い。

 そのとき、同じ事がこの先も続くのではと思いやられる久晴。

 同じ頃、会社に訪問してくる若い女性が受付嬢に門前払いされ困り果てている。

 まさか、訪問してきた若い女性が事件のゲームチェンジャーになるなんて……。


 昼休み時間、英美里の殺気に満ちた雰囲気に耐えかねなくなった久晴は張り詰めた状況を何とかして逃れようとエレベーターがある正面ロビーに向かう。

 会社の玄関ロビーで、久晴は礼儀正しい若い女性と偶然にも鉢合わせ。

「失礼致しますが、ここの会社の人でしょうか?」

 と若い女性は、偶然に鉢合わせをした久晴に尋ねてくる。

 久晴は、何も知らないまま若い女性の容姿を見る。

 髪型はショートのボブカットで、他の若い女性と違い服装は大人しめで夏なのにロングスカートで露出度は控えで礼儀正しい。

 真理香とは違い、眼鏡を縁が細く遠くで見たら掛けているのか否か分からない。

 これまで見た女性とは違いタイプに、何を言えばいいのか分からず何も言えない久晴。

「すいません、ここの会社の人でしょうか?」

 と若い女性に再び尋ねられ、思わず頷いて社員である事を主張してしまった久晴。

 すると、若い女性は礼儀正しく会釈して久晴にお願い事を話す。

「わたくしは、戸渡家の当主から命を受け参りました。お願いです、お伝えしたいことがあり近衛真理香様に合わせていただけませんでしょうか?」

 その時、久晴は頭の上にハテナマークが浮かび上がりそうな表情で若い女性に、

「失礼ですが、お嬢様は現在ロンドンに赴任中の筈ですが? 自分は、出向で来たばかりで何も……」

 と言って、若い女性のお願いをやんわりと断ろうとする。

 それでも、若い女性は諦めることなく久晴に懇願。

 久晴は、本当のことを言ったのに若い女性の懇願にすっかり困り果てる。

 そこへ、英美里が姿を現し久晴の胸ぐらを掴むと、

「あんた、真理香に相手にされないからって別の女の子に手を出すなんてサイッテー。 貴女、大丈夫? あたしが、コイツを締めますので」

 と言って、すっかり久晴を犯人扱いしている。

「西堂さん、誤解だって。彼女、人捜しをしていてっ!」

 と久晴は、必死に自分の無実を訴える。

 しかし、英美里は久晴の主張を全く受け入れず掴んだ胸ぐらを離そうとせず鋭い目で睨み付ける。

 その時、若い女性は英美里の暴挙を制止しようと証言する。

「彼の仰る通り、私には何も危害を加えてません。それに、お目に掛かりたい人に用件を伝えたく彼に頼み込んでいました」

 若い女性の証言で英美里は目で真意を聞くと、久晴は必死に縦に振って本当だと主張。

 すると、英美里は久晴の胸ぐらを急に離して毒のある事を言ってしまう。

「なーんだ、そうだったんだ。コイツ、女を襲いそうな顔じゃないと思ったのよねー」

 少し心にダメージを受けたが、誤解が解けて一安心する久晴。

「ところで、誰なの貴女っ? 人を訪ねるのに、自分の方から名乗ったら」

 と言って、若い女性に目を向ける英美里。

 すると、若い女性は会釈して自分の名を名乗る。

「申し遅れました。わたくし、戸渡家の使用人であります倉野くらの梨乃りのと申します」

 久晴は、彼女が何故礼儀正しいのか言わなくても納得する。

 英美里は、誰に会いたいのか英美里に聞こうとする。

「わたくし、当主の命により近衛真理香に面会をお願いしたのですが……」

 と梨乃の一言で、久晴は何かを思い出して英美里に聞いてみる。

「あれっ、西堂さんっ? 近衛真理香さんって、ロンドン支社に在籍している筈ではっ?」

 すると、久晴が会社の情報を漏洩した犯人と思って英美里が目を疑い質問する。

「えっ、もしかしてお嬢の事知らないの?」

 すると、久晴は何度も頷いて近衛真理香について何も知らないと主張する。

 英美里は、近衛真理香について何も知らない事実に鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして久晴を見ることしか出来ない。

「あの……、近衛真理香様に……」

 と言って、久晴と英美里との会話に割って入る梨乃。

 英美里は、何を思ったのか梨乃をオフィスビルの商業エリアがある下の階へ案内する。

「では、俺はこれで……」

 と言い残し去ろうとする久晴だが、英美里は後ろ襟を掴んで逃がそうとしない。

「ほらっ、聞きたいことがあるから一緒に来るっ!」

 と言って、久晴の後ろ襟を掴んだまま連行する英美里。

 久晴は誰かに助けを求めようとしたが、強制連行する英美里に恐れて男性社員は誰一人助けようとしない。

 久晴は、抵抗する術はなく英美里に強制連行されるしかなかった。


 こうして、英美里に強制連行された場所はレトロな雰囲気のある喫茶店。

 まさか、SF感満載のオフィスビル内にこのような喫茶店があるなんて全く知らず目を丸くして驚く久晴。

 三人は、テーブル席を囲んで一人ずつ座っている。

 久晴にとって最悪なことに、天敵でもある英美里と向かい合わせで座っている。

「アンタ、真理香について知っていることがありそうだけど話なさい。今、ここで」

 と言って、睨み付ける英美里は取り調べの刑事みたいに久晴を問い詰める。

 久晴は、真理香との約束を破ることが出来ず俯いて黙ることしか出来ない。

 それでも、英美里は容赦なくテーブルを両手で叩いて久晴を必要以上に問い詰める。

「正直に話しなさい! 言っとくけど、隠しても無駄だから諦めなっ!」

 すると、久晴は英美里に迫力に負けてしまい自供するしかなかった。

「転勤して一ヶ月満たない頃、偶然にも向かい側の部屋が見てしまって……。まさか、北欧まりんの正体が朝川さんだったことだけ……。それ以外、何も知らないけど……」

 久晴の自供に、拍子抜けした英美里は衝撃の事実を久晴に伝える。

「なーんだ、真理香の公式情報じゃん」

 英美里の一言で、ショックを受けた久晴は目を疑いながら英美里に質問する。

「もしかして、朝川さんがコスプレイヤーだと会社の人達は知ってるの?」

「そうよ、会社のみーんな知ってます! 知らない人、ほとんどいませんっ!」

 と言って呆れた表情の英美里に、ガックリと肩を落としてショックを受ける久晴。

 必死に秘密を守ったというのに、会社の皆知っている事に今までの苦労が無駄だと分かってショックを受ける久晴。

 そんな中、英美里は訪問してきた梨乃に近衛真理香に面会したい理由を聞く。

 すると、梨乃は面会の理由を久晴と英美里の二人に話した。

「当主の奥様から、今回のデートの件に関してキャンセルするよう伝えに参りました」

「デートの件って、お嬢と戸渡のヤツの事っ?」

 と言って、気になって梨乃に問い掛ける英美里。

 梨乃は、静かに頷いて続きを話す。

「現在、戸渡家の当主は奥様が務めております。旦那様は、家系を守るために入籍した入り婿で」

「倉田さん、今回の件に関してどのような……?」

「アンタは、黙ってなさいっ! ここは、あたしが仕切るから!」

 と言って、久晴を黙らせる英美里は梨乃の話を聞き出す。

「奥様が、後継人候補の建也様の女癖を気にしてまして、お見合いの件も難色を示してました。しかし、旦那様は建也様に逸早く結婚相手を先に決めた方がいいと勧めていました」

 久晴は、戸渡家の入り婿について気になっていた思わず梨乃に質問する。

「もしかして、戸渡家の入り婿って戸渡修蔵ではっ?」

 すると、梨乃は静かに頷いて本当だと主張する。

 まさか、かつての上司が戸渡家の入り婿と知って驚く久晴は過去を振り返り拳を握って悔しがる。

(あの人って、会社では傲慢で名家を鼻に掛けて……。まさか、入り婿だなんて……)

 そんな中、英美里は建也が来社したとき受け取った証拠の写真をテーブルに出し、再び久晴を睨み付けて問い詰める。

「アンタ、真理香を襲ったでしょ? ここに、決定的な証拠があるからっ!」

「だから、プラカードを持った男は俺じゃなっ! それに、同じ髪型でも染めたとこ一度もないって何度もっ!」

 と言って、必死に無実を主張する久晴。

 だが、英美里の耳には言い訳だと思い自分の主張が通るまで容赦なく追い詰める。

 その時、梨乃は証拠の写真を見てプラカードを持った男に見覚えがあり、

「プラカードで襲った人、建也様に間違いありませんっ! わたくし、この衣装を用意したことを今でも覚えています」

 と二人の間を割って梨乃が証言すると、英美里は拍子抜けとなり久晴に問い詰めるのを止めた。

 同時に、建也と遭った記憶がうろ覚えから確信へと変わり、

「この写真は、去年の年末に俺が襲われてる朝川さんを庇っているところっ! そして、前髪の長いヲタクが俺っ! 神田明神での二年参り後、西堂さんが俺の胸ぐらを掴み脅迫したことを昨日のように覚えてますっ!」

 と言って、写真にいる前髪の長い男に指を差して自分だと主張する久晴。

 さらに、年末の事件後は建也に会ったことは一度もないと念を押して主張。

 只でさえ、目付きが悪いのに怒り出すと余計怖く見える久晴。

 目を丸くする英美里は、久晴に当時のことや髪型が変わったことを久晴から聞き出す。

 すると、久晴は助けた当時のエピソードや真理香のプロデュースにより髪型を変えられたことを包み隠すことなく正直に話す。

 話を全て聞いた英美里は、建也に騙された事にようやく知り真理香を助けた久晴に悪態や濡れ衣を着せた事に気がつき体を震わせて頭を抱えながら自分を責める。

「まっ、まさか、恩人に対して何て悪態を……」

 それに対して久晴は、梨乃の証言で潔白が証明され怒りが宿った目で英美里を睨み付ける。

 怒っている久晴を見て、凶暴なドーベルマンから愛嬌があるチワワのように怯え、

「ごっ、ごごごっ、ゴメンナサイっ! そっ、そんなに怒らないでタダノッチ……」

 と言って手を合わせてかわいく謝り、急に咲良の呼び方を真似て「タダノッチ」と呼んで必死に場を濁そうとする英美里。

 当然、濡れ衣を着せられた久晴は飼い主に尻尾を踏まれた猫みたいに激怒し、

「西堂さん、都合がいいですね……」

 と淡々とした一言だけで、怒っていることがハッキリと伝わる。

 まさか、梨乃の証言で立場が逆転するなんて想定すらしていなかった英美里。

 そんな中、昼休み五分前に気がついた英美里は梨乃と連絡先を交換した後、

「そっ、その用件は、あたしが代わってお嬢様に伝えますのでっ!」

 と言い残し、脱兎の如く去って行った。

 久晴は、脱兎の如く去って行く英美里の背中を見て何か隠していると察する久晴。

 その後、喫茶店を後にする際にお金を支払う羽目になった久晴であった。


 昼休みが終わり、職場に戻ると状況が変わっていることに気がつく琴音。

 一番目立つのは、女ケルベロスの異名を持つ英美里が異常に大人しくなっていた。

「どうしたのっ? 今の英美里さん、チワワみたいに大人しいけどっ?」

 と言って、異常に大人しい英美里に気になる琴音。

「琴音さんの言う通り、完璧なシロでしたタダノッチ……」

 とボソッと言った英美里を見て、久晴の無実を身をもって知ったと気付く琴音。

 それに対して久晴は、背中から近寄りにくいオーラを放ち静かな怒りを表している。

 琴音は、久晴の機嫌が悪いことに気がつき話し掛けてみる。

「多田野さん、飼い主に尻尾を踏まれた飼い猫みたいに怖いわよ? 今の貴方……」

 すると、久晴は淡々とした一言だけで怒りを表す。

「難波さん、気にしないで下さい……。今は、怒ってませんから……」

 久晴の一言で、英美里が何かやらかした事を悟り気にする琴音。

 久晴は、真理香が昼休みが終わったというのに席に戻っていないことに気付かず仕事をしながら英美里が何か隠していると察する。

 今度は、こっちから英美里に尋問を仕掛ける番だと思う久晴だった。




 翌日、昼休み時間を迎え英美里は周囲を見渡し何者から逃げようとしていた。

 昨日まで犯人扱いした久晴が無実だと知り忍者のように避けている英美里は気まずい表情を見せる。

 そこへ、英美里を発見する久晴は獲物を狙う猫のように足音を立てず殺気を殺して背後に近づき肩を鷲掴み。

 肩を掴まれた英美里は、無意識に後ろを振り向き怒っている久晴を見て震える。

「始めようか、第二ラウンド……」

 と言って、英美里を昨日と同じ場所へ強制連行する久晴。

 普段は女性に対して奥手な久晴だが、怒りで苦手意識が何処かへ飛んでいる。

 立場が逆転し、連れ回される英美里の姿を見た周囲の社員は驚き皆沈黙する。

 まさか、女ケルベロスと恐れられている英美里が一目見た瞬間に気弱な久晴に連れ回される光景を見るなんて思いもしなかったに違いない。

 その光景を偶然にも見掛けた琴音は、何かを察知し静かに後を付ける。

 まさか、琴音が後を付けていることを久晴は知る由もなかった……。


 こうして、昨日の昼休みで訪れたレトロ感満載の喫茶店のテーブル席で向かい合わせに座る久晴と英美里の二人。

 だが、今回は立場が完全に逆転し久晴が英美里を追い詰めている。

 英美里は、険しい表情で未だに口を堅く閉じた久晴に戦々恐々。

 数分後、久晴は重い口を開き英美里に問い質す。

「西堂さん、昨日の行動を見て何か隠しているのでは?」

 すると、英美里は見透かされていると察し目を笑って場を濁す。

「アッ、アハハハ……。何も、隠してないから……。本当よ、タダノッチ信じて」

 だが、久晴は英美里が何か隠していると推測し質問を続ける。

「もし、言ったことが間違えだったら謝るけど……。西堂さん、必要以上に朝川さんを守っていたけど何か隠してない? 確か、朝川さんと近衛お嬢様の名前同じだけど?」

「きっ、気のせい、気のせいだよ。ほら、真理香って狙われやすい体質であたしが守ってあげないと……。それに、名前だって被ることあるじゃん」

 と言って、必死になって平静を装う英美里。

 だが、誰が見ても目が泳いでいるのがハッキリと目に映り隠し事があると察する久晴。

 そこで、追い詰めようとはせず心理戦の得意な刑事のような口調で英美里に尋問する。

「約束する、絶対に誰にも話さないから正直に答えてくれる」

 おそらく、感情剥き出しで脅し続けたら正直に話さないと思って自分の怒りを押し殺したに違いない。

 すると、英美里は急に平静に戻った久晴を異常に警戒する。

 そんな中、琴音が割って入り英美里を擁護しながらも、

「やっぱり、多田野さんは勘がいいようね。ここからは、私が説明します」

 と言って、久晴の疑問に答える。

 まさかの琴音の乱入に最初は驚くが、真理香の事情を聞くことが出来るとは想定外。

「多田野さん、朝川さんの正体は会長の孫娘である真理香お嬢様に間違いありません」

「えっ、近衛お嬢様ってロンドン支社に?」

 と言って驚きながらも、真理香が会社のご令嬢と同一人物でだと知ってしまう久晴。

 それでも、久晴には疑問が残っていた。

「そう言えば、ロンドンにいる近衛お嬢様は? もしかして、存在しないとでも?」

「ロンドンにいるのは、真理香お嬢様の影武者です」

 と琴音の即答で、驚きの余り言葉を失う久晴。

 そして、真理香が朝川の姓の名乗っているのも一般人に変装するための偽名。

 朝川の姓も、母方の旧姓である事を琴音から話してくれた。

 しかも、同年で朝川真理香と同じ名前の女性が影武者を担当していると琴音が話す。

「……多田野さん、私が代わって謝ります。お嬢様に関して、色々と隠していたことを」

 と言って深々と頭を下げる琴音を見て、何をどう言えばいいのか分からなくなる久晴。

 そんな中、琴音は久晴にお願いする。

「多田野さん、例えお嬢様であっても朝川の姓を名乗っている間は普通に接して下さい。真理香お嬢様も、普通の生活に憧れを抱いていますので」

 琴音のお願いに、思わず頷いて承諾する久晴。

 まさか、自分の隣の席にいる真理香がご令嬢とは知りもしなかった事実に頭の整理が追いつけない状態の久晴。

 久晴は、驚きで何も言えない状態で今出来ることは頷いて承諾すること。

 そして、真理香の事情を誰にも言わないことのみ。

 久晴の承諾に、胸を撫で下ろした琴音と英美里の二人。

 昼休みが終わり、職場に戻る久晴と英美里と琴音の三人。

 そんな中、何を思ったのか琴音は久晴と英美里の二人に耳打ちで指示を出す。

「多田野さん、英美里さん、これまで通り言い争って下さい。今回の件、外部に情報を漏らした犯人を炙り出したいので」

 すると、何を考えたのか英美里が久晴に口喧嘩を仕掛けてきた。

「アンタ、真理香の事を外部に漏らしたでしょ! 異常に真理香と馴れ馴れしいのが外部に漏らした決定的の証拠よっ!」

 まさか、英美里が仕掛けたことに驚きながらも必死に反論する久晴。

「だから、何も知らないって! 何がどうなのか、こっちが聞きたいくらいだ!」

 すると、職場での言い争いを繰り広げる久晴と英美里の二人。

 一応、二人の口喧嘩は演技だが本物と見間違えるほど迫力がある。

 琴音は演技と知りながらも、普段通りに二人の口喧嘩の仲裁するよう割って入る。

 それでも、久晴と英美里は本気に見せようと言い争いを止めようとしない。

 十数分後、咲良と優菜の二人が琴音に何か合図を出して呼び寄せる。

 合図を見た琴音は、久晴と英美里に言い争いをストップさせて同行させる。

 咲良と優菜は、物陰に隠れていた受付嬢二人を捕まえていた。

「やっぱり、琴音さんの思った通り情報漏洩の真犯人はこの受付嬢の二人っ!」

 と言って、咲良は受付嬢から強引に取り上げたスマホからチャットの履歴を見せる。

 受付嬢から押収したスマホには、チャットの履歴に建也の名がバッチリ残っている。

 久晴は、朝入社したとき受付嬢の一人が仕事中にスマホを操作する仕草を思い出す。

 英美里も、押収したスマホのチャットを見て無言で怒りのスイッチが入る。

 あの、女ケルベロスの異名が復活したように英美里が怒りに震えて目で威圧。

 当然、久晴も受付嬢の二人に背後から怒りのオーラを放ち表情一つ変えず淡々とした口調で怒りを露わにする。

「濡れ衣を着せられ……、朝川さんにシカトされて……、どう責任取ってくれますか……」

 今の久晴は、尻尾を踏まれた飼い猫のような気分で受付嬢二人に目で怒りをぶつける。

 番犬ように唸りながら怒る英美里と、尻尾を踏まれた飼い猫のように激怒する久晴、一人でも怖いというのに二人が共闘すれば倍以上の恐怖と化す。

 二人の受付嬢は、想像以上の恐怖に腰が抜けて立ち上がれずパクパクと口を開けるだけで声を発することすら出来ない状態。

 それだけ、怒った久晴と英美里の二人が相当怖かったに違いない。

 そこへ、秘書二人が姿を現し腰が抜けた受付嬢の二人を連行するのであった。

「後は、私の後輩に任せるとしましょ」

 と言って、何を考えたのか久晴の肩を掴む琴音。

 久晴は、抵抗する余裕すら与えられないまま琴音達と共に強引に連れて行かれた。


 久晴が連れて行かれた場所は、外部から声が漏れることのないミーティングルール。

 久晴の目の前には、真理香を除く宣伝一課の女子メンバー全員が座っている。

 特に、主任の琴音が普段は穏やかな表情なのに真理香の素性を知ってからは表情一つも変えず真顔のままでいるのが異様に怖く感じる久晴は思わず唾を呑む。

 そんな中、咲良が受付嬢二人の尋問を報告する。

「どうやら、人事部の隙を突いて社外秘のパソコンを操作していたようね。しかも、パスワード解除ツールを使って。あの二人、建也から借りた金を返済するために」

 その話を聞いて、驚くと同時に別の意味で恐怖を覚える久晴は思う。

(借金返済のためなら、危険を犯すようなことはしないはずでは……。そもそも、他人から金を借りるなんて何らかのリスクが……)

 さらに、優菜の口から驚くべき情報が舞い込んできた。

「二人の所属する派遣会社、戸渡修蔵が買い占めて経営を握っていることが取り調べで分かりました。多分、真理香お嬢様の情報を集めるために経営権を獲得したと思われます」

 まさか、元上司の修蔵が派遣会社の経営権を握ってまで情報を掴もうとするなんて想像すら出来ない久晴。

 やはり、戸渡家のような資産のある名家でなければ出来ない芸当なのかもしれない。

 そこまでして真理香を狙っていると思うと、建也の執念の凄まじさを感じる久晴。

 しかし、琴音達がミーティングルームに集まる理由が未だに分からない。

(まさか、次回のプロジェクトに関する社内コンペのミーティングルーム……? それなら、朝川さんも同席しているはずでは?)

 だが、琴音達が集まった理由は社内コンペのミーティングではなかった。

「英美里ちんのせいだよーっ。いくら、相手は男だからって必要以上に疑ったら。それに、前に別の男性が配属されたとき英美里ちんが怖い顔したから移動しちゃったというのに」

 と言って、肩を落とす英美里に咲良は彼女独自の口調で説教する。

 英美里も、咲良に反論しようとしたとき琴音が制止する。

「英美里さん、今回は咲良さんの言うとおり。過去に実父から虐待を受けたとは故、男みんなを目の敵にするのは余計疑われるって何度も注意を」

 ため息交じりの琴音の説教に、英美里は拗ねる子供のように主張しようとする。

 それでも、琴音は悪戯っ子を叱る母親のように目で注意する。

 久晴は、琴音の姿を見て改めて彼女が女子メンバーのまとめていることを実感する。

 そんな中、琴音は真理香の正体を知ってしまった久晴に自分達の素性を明かす。

「バレてしまったら、仕方がないわね……。表向きは問題を起こして秘書室から左遷になっているけど、本当は真理香お嬢様のお目付で配属されたのよね。私っ」

 と琴音の発言を聞いて、驚きの余りに何を言えばいいのか分からなくなる久晴。

 同時に、琴音の礼儀正しさが何処からか何となく分かってきた久晴。

 だが、久晴に隠していたことは琴音だけではない。

「私、神童と呼ばれた頃があって学校に通うのが嫌気が差した時期が合った。高校の頃、息抜きで和み系ギャルサーに入ったら楽しくなってどハマり。その結果、周囲に色々迷惑掛けちゃって……。その時、偶然にも自分より若い真理香ちんに勝負で負けて……」

「しょ、勝負って、何の勝負っ?」

 と思わず言って久晴は、どのような勝負をしたのか咲良に質問する。

 すると、咲良は当時のことを振り返って久晴に話す。

「IQテスト、普通の人ではギブアップする超難問なヤツ。IQテストでは負け知らずの私だったけど、初めて負けた相手が自分より若い真理香ちん……」

 咲良の話を聞いて、改めて真理香の頭の回転力の凄さを思い知る久晴。

 そんな中、咲良がSE関係に強いのは何故か理由を話してくれた。

「真理香ちんから、「不貞腐れる暇があるなら、自分の才能を人のために役立てたら」と注意されて……。なら、専門的に絶対負けない何かを手に入れようとSEの分野に……」

 咲良の話で、SE関係が男性顔負けの強さの理由が何となく分かってきた久晴。

 もしかしたら、真理香へのリベンジで入社したのだと思ったとき咲良の口から意外な事を聞くことになる。

「最初は、リベンジしようと考えて入社したよ。でも、ひねくれた自分を修正してくれたのは彼女だと後から思えると手を貸したくなっちゃって」

 なんと、真理香と関わったことで自分を見つめ直したと語った咲良を見て驚く久晴。

 だが、優菜の衝撃的な過去を聞いて別の意味で言葉を失う久晴。

「わたくし、真理香さんと同じ高校に通っていました。今も良き親友として付き合いを続けていますし、強姦から助けてくれた恩人の一人でもあります」

「えっ、恩人の一人って他にいると? 植松さんっ?」

「はい、もう一人は英美里さんに助けて貰いました……」

 と優菜の返答に、別に意味で驚くと同時に英美里を見直す久晴。

 それでも、優菜が強姦の被害を受けたのか静かに聞くことにした。

「その日は、高校二年生の夏休み手前。わたくしは、用事があって下校したのが日がすっかり落ちて辺りは真っ暗。寮へ帰宅途中、公園の入り口付近で見知らぬ男の人が待ち構えていました」

 話を聞いた瞬間、言わなくても何となく危険な臭いを感じた久晴は静かに続きを聞く。

「わたしは、何事もなかったように通り過ぎようとしたとき見知らぬ男はわたくしの前に立ちはだかり行く手を遮られ身の危険を感じて走って学校へ引き返しました。それでも、見知らぬ男はわたくしを捕まえようと追い掛けてきました」

 久晴は、「見知らぬ男」や「追い掛ける」のパワーワードに固唾を呑んで何も言わず耳を傾けることしか出来ない久晴。

 勿論、居合わせた女子メンバーも静かに耳を傾ける。

「走っている最中、何かに躓いて転んでしまい追い着かれ逃げようと尻をつきながらも後退り。その時、後から来た真理香さんと英美里さんが姿を現し見知らぬ男を捕まえ助かりました。その日を皮切りに、男の人が怖くなって……」

 話を聞き終えた久晴は、優菜が男性を恐れて黙っている理由が何か分かってきた。

 同時に、高校で受けた痴漢えん罪で女性に近寄らない自分と同じだと気付く。

 だが、久晴と違うところは考えたかの違いだった。

「ここに入社したのは、咲良さんと同様に真理香さんへの恩を返すためとは他に男性恐怖症を克服する目的でもあります」

 理由を聞き、驚いた久晴は優菜のおしとやかな中にも気丈なところがあると気付か心の中で自分と比べる久晴。

(女って、メンタル的に強いな……。俺なんか、今もトラウマを引きずって自分から近づくことすら出来ないというのに……)

 そんな中、取りまとめ役の琴音が久晴に質問をしてくる。

「多田野さん、私達の話を聞いて共通する点は何か気付きましたでしょうか?」

 琴音の質問に、今まで聞いた話を思い浮かべながら共通点を探し出すと疑問に思いながらも何かが脳内に浮上してきた。

「もしかして、朝川さんと……。いや、近衛お嬢様と何らかの関係……?」

 と言って、自信なさそうに返答する久晴。

「多田野さんの言うとおり、私達の共通するのは真理香お嬢様と何らかの関係を持っています。そして、私達の目的は真理香お嬢様をサポートするために配属されました」

 と言って、真理香の事を知ってしまった久晴に琴音は自分達の正体を明かした。

 琴音達の正体を知ってしまった久晴は、まさか当たるとは思いにも寄らず驚愕することばかりで頭の中は混乱するばかり。

「多田野さん、当時は何も知らないのは仕方ありませんが……。年末、貴方は冬コミで真理香お嬢様を助けた経験がありますよね?」

 と言われ、久晴は年末で北欧まりんの名義の真理香を助けた記憶を思い出す。

「確かに、貴方の力は私達にとって必要なのは事実です。だが、それ以上に真理香お嬢様の正体を明かされる可能性があったためスカウトしました。出来れば、知らないままでいてくれたら助かるのですが……」

 琴音の発言を聞いて、後に何を言われるのか予測できた久晴は恐怖で顔が引き攣る。

 何故自分をミーティングルームに幽閉したのか、何故琴音達が過去のことを話してくれたのか何となく分かってきた。

 それは、真理香の秘密にしていた会長の孫娘である事を隠すための隔離である。

 例え、何も知らなくても可能性があれば有無を言わずに隔離するに違いない。

「今回の件、お見合いで相手側の罠だと真理香お嬢様は私に言いました。多分、多田野さんの疑惑は潔白であることは既に見破っていると思われます」

 と顔が強張っている久晴に、冷静に分析した自分の私見を話す琴音。

 恐らく、身の危険を察した久晴の緊張を少しでも緩和しようとした琴音の計らい。

 それでも、真理香の正体を知ってしまった上に琴音達に囲まれていては緊張するなと言われても無理な話。

 しかも、自分の苦手意識の強い女性に囲まれてもバレないよう隠すのに必死。

(素性を知らないとは故、去年の冬コミで真理香を助けた経験もあり関わりを持っているけど……。まさか、配属している部署自体にも隠し事があるなんて……)

 と久晴の頭の中は、知ることのない真実で満杯になり絶賛混乱中。

 この先、自分がどうなるのか心配で仕方なかった。


 久晴が、ミーティングルームに幽閉されてから三十分が経過したのだろう。

 琴音のスマホから着信音が聞こえると、

「もしもし、課長どのようなご用件で?」

 と言って、応対する琴音は常に平常心を保っている。

「はい、真理香お嬢様がイギリスから帰国したと? 分かりました、ただいまミーティングで集まっているので伝えておきます」

 と琴音は、切羽詰まった状況にも拘わらず平常心を保ったまま電話の応対する。

 他のメンバーは、電話応対する琴音の様子を何かを察して険しい表情となる。

「皆さん、課長からの電話を聞いたと思います。真理香お嬢様が、赴任先のイギリスから帰国したそうですので対応には細心の注意をお願いします」

 と琴音の指示で、集まった女子メンバーは重々しい表情を見せる。

 彼女達の表情の変化には、何がどうなっているのか分からず仕舞いで頭が混乱する久晴は恐る恐る琴音に質問してみる。

「あっ、あのっ……、近衛お嬢様が帰ってくるって……?」

 すると、琴音は険しい表情を見せ久晴に詰め寄り、

「今の貴方では、分からないのも無理はありません。しかし、現段階で貴方を解放するのは危険と判断するしかありません」

 と言って、口封じをするように圧力を掛ける。

 その時、監禁された状況が続き先行き不安な久晴。

 唯一の救いは、身の潔白が証明されたことだけ……。




 未だ、ミーティングルームで拘束された状況が続く久晴は状況を整理する。

 何とか、身の潔白は証明され英美里の態度が変わってくれた。

 だが、同時に知りたくない事実を知ってしまい今も絶賛混乱中。

 その結果、久晴は今もミーティングルームへ隔離され琴音達に囲まれる状況は今も続き逃げることは出来ない。

 その久晴に、琴音が逃がさないよう詰め寄り真顔で話し掛けてくる。

「多田野さん、改めて貴方が知ってしまったことに関して他言無用と誓約して下さい」

「えっ、誓約って……? それって、約束の言い違いでは……?」

 と思わず言って、耳を疑う久晴は怯えながらも首を傾げるばかり。

 それでも、琴音は『誓約』と強調し疑問に思う久晴に詰め寄ってくる。

「もし、誓約に応じないのであれば会長に報告し貴方を僻地に飛ばします」

 久晴は、『僻地』という強烈な言葉に葛谷と畠田が治安の悪いブラジルに飛ばされたことを一瞬で思い出し、

「わっ、分かりましたっ! します、誓約しますっ!」

 と言って、身の危険を感じて琴音に誓約する。

 すると、琴音の表情に険しさが消え久晴をミーティングルームから解放する。

 解放された久晴は、胸を撫で下ろし安堵の表情を見せる。

 そこへ、真理香がお嬢様らしい私服姿で表情を変えず真っ直ぐ廊下を歩き素通りする。

 しかも、秘書室の秘書二人が真理香の両サイドを挟んで同行している。

 琴音達は、普段の真理香とは違い深々とお辞儀をして去って行くのを待つ。

 久晴も、琴音達の行動に条件反射で深々とお辞儀をする。

 真理香が去ると、頭を上げ安堵する琴音達。

 それに対して、久晴は謎だらけで頭が混乱している。

「どうやら、ロンドン支社の真理香お嬢様が帰国したようね」

 と言って、険しい表情の琴音は何かが起きると察する。

 それに対して、久晴は困惑した表情で琴音に質問しようとする。

「真理香お嬢様が、イギリスから一時帰国しているから失礼のないように」

 と言って、真顔で久晴に詰め寄り威圧する琴音。

 琴音の威圧に、ただ頷いて言葉を失う久晴は今も恐怖に震えている。

(いつまで続くのだろう、こんな事……)

 と久晴は、心の中で今も思い悩んでいるであった……。

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