14,真理香が二人?
一ヶ月後、痴漢えん罪事件の初公判が陪審裁判で開廷したことを昼休みにスマホのネットニュースで知ることになる久晴。
母娘への賠償請求に関しては、若手で女性弁護士の丸富に変わってベテランの神初という珍しい苗字の男性弁護士が対応することになった。
判決が確定後、集団での民事訴訟に移ると神初から説明して、
「大丈夫、十分な証拠が揃ってます。これなら、ほぼ要求通りの賠償が請求できる筈です」
と言って終始落ち着きがあり、頼り甲斐のある弁護士の雰囲気が印象的だった。
母娘のように法に関する仕事をしている人達に嘘偽りを吐けば大変な目に遭うが、偽りのない真っ当な証拠を提出すれば心強い味方になると改めて実感する久晴。
後は、痴漢えん罪を起こした母娘の判決が確定するのを見守るのみ。
話は変わるが、真理香の影武者がロンドン支社にいることをご存じだろうか?
表向きは、朝川の姓を名乗って宣伝一課のメンバーとして働いているが、正体は会長である遼太郎の孫娘で社会勉強を理由に母方の姓である朝川を名乗っている。
偶然にも、同じ名前の影武者が現在ロンドン支社に配属中。
しかも、髪の色を除けば容姿が同じと真理香から口から説明された久晴。
実際、スマホの写真を見せて貰ったことがあり顔や容姿などは瓜二つ。
明らかに見分けられたのは、本物の真理香は金髪のストレートロングで影武者の真理香は黒髪を束ね眼鏡を掛けている。
そのため、真理香は朝川の姓を名乗るために髪を束ねて伊達眼鏡を掛けている。
だが、何故か髪を黒に染めてはいない。
(一体、何処で知り合いに……? ロンドンでは、影武者はどのような生活を……?)
と心の中で疑問に思う久晴は、目の前にいる真理香を観察する。
そんな久晴を見て、朝川の性の名乗る本物の真理香は気になって、
「どうしたの? 私の顔、何か着いているの?」
と話し掛けて、不思議そうな顔で見てくる。
真理香に話し掛けられ慌てふためいた久晴は、
「なっ、何でもない……。何でもないって……。ただ、考え事だから……」
と言って、苦笑いして場を濁すことに精一杯だった。
苦笑いする久晴に首を傾げる真理香だが、突然スマホからアラームが鳴り急ぐように喫茶店を出て行く。
真理香の行動を見て、スマホの時刻を見て昼休みが終わりそうだと知り後を追うように喫茶店を出る久晴。
この後、新たな事件に巻き込まれることを知る由もなく……。
昼休みが終わり、急いで職場に戻ると続きの図面制作に取り組む久晴。
既に、宣伝一課のメンバー全員が席について仕事を再開している。
どうやら、他のメンバーは久晴や真理香より先に席に戻って仕事を再開している。
だが、真理香だけ職場に戻っていないことに気がつく。
(あれっ、さっきまで一緒に喫茶店を出たのに……? そう言えば、エレベーターが満室で乗り遅れたのが原因かな……?)
と思った久晴は、空席の真理香のデスクを見て首を傾げることが出来ない。
その様子を見て主任の琴音が、久晴の肩をポンッと軽く叩き事情を説明する。
「真理香さん、何か用事を思い出したって私に連絡してきたから」
久晴は、深入りしたら大変な目に遭うと思い今ある仕事に集中する。
その時、周囲からざわつく声が久晴の耳に聞こえてくる。
(先日、あの男を思い出すから今は無視。絶対、巻き込まれるから……)
と自分に言い聞かせ、目の前の仕事に集中する久晴。
そんな久晴を見た琴音は、肩を必死に叩いて注意してきた。
「久晴さん、お嬢様が来たわよ! お嬢様が!」
琴音に肩を叩かれ顔を上げると、まさか束ねた髪を下ろした真理香が登場。
しかも、久晴の所属している宣伝一課に近づいていることに驚く久晴。
(まっ、真理香さん? なんで、お嬢様でこっちに?)
と思う久晴は、デスクから立ち上がり去って行くのを望むように頭を下げる。
しかし、久晴の願いは空しくも破られる。
「多田野さん、頭を上げてくれないかしら?」
と真理香に言われ、ゆっくり頭を上げる久晴の表情は絶望に満ち溢れていた。
「何、この世の終わりを見たような顔を? 話がありますので、私の後について」
と言って久晴を誘う真理香は、大会社のお嬢様の立ち振る舞いを見せる。
仕方なく、真理香の後をついて行く久晴は肩を落とす。
社員達のざわつく状況に、気にするあまり肩身の狭い久晴に対して気にすることなく凛とした立ち振る舞いで立ち去る真理香。
これが、この先待ち受ける地獄の始まりを告げる嫌の予感がしていた。
真理香について来た場所は、会長である遼太郎がいる会長室。
久晴は、真理香と公認の仲を認めたとき一度だけ入ったことを思い出す。
だが、遼太郎は会議に出席しているため今は不在である。
遼太郎が不在をいいことに、凛としたお嬢様から甘えん坊モードにチェンジした真理香は久晴の懐に飛び込んできた。
久晴は、困った表情で誰かに見られてないか周囲を見渡し真理香に訴える。
「まっ、真理香さん? もし、会長が来たら色々と不味いのでは……」
それに対して、真理香は周囲の状況を気にすることなく久晴の胸に指先でのの字を書いて拗ねてくる。
「折角、お爺ちゃんの公認だというのに最近ラブラブじゃない……」
まるで、女の子が自分の寂しさを訴えているみたいに主張してきた真理香。
これまで、年頃の女性と付き合ったことが無きに等しい久晴にとって経験したことがないシチュエーションで、対処する術がわからず何を言えばいいのか困惑する。
そこへ、遼太郎の声が聞こえてくる。
「大事な用事があるというのに、この場で熱烈な関係を見せつけるとは」
久晴と真理香は、恐る恐る声の聞こえる背後を振り向くと遼太郎が目に入る。
その瞬間、会長室の中央にある長机の前に横並びに整列する。
遼太郎は、中央の自分の席に着き話を始める。
「二人を呼んだのは他でもない。まずは、この手紙を見てもらいたい」
と言って、机の上に手紙を広げる遼太郎は深刻な表情をしている。
その手紙は、切り抜いた直筆の文章を繋ぎ合わせ一つの文章となっている。
また、手紙の内容は挑発的な内容である。
「えっと、『ロンドンのお嬢様は偽物であることは知っている。ゴシップ紙に流されたくなかったら本物を連れて来い』って間違いなく脅迫状じゃ……」
と言って、顔が青ざめる恐怖に震える久晴。
久晴が言うように、この手紙は明らかに犯人からの挑発的な脅迫状である。
「そんな事って……。確か、内部からの告発がない限り外に漏れることは絶対にありえないはずなのに……。一体、だれが何のために……」
と言って、普段の笑顔が消え恐怖に震える真理香。
何故、久晴と真理香が遼太郎に呼ばれたのか何となく分かってきた。
遼太郎は、深刻な表情で説明するように話し出す。
「実をいうと、この手紙はロンドン支部の朝川君から届けられたものだ。英語圏の手紙で日本語というのは、ロンドン支社内で事情を知っている何者かの仕業としか考えられない」
遼太郎の話を聞いた久晴は、再確認するように真理香と遼太郎に質問する。
「実際に会っていないから実感がわかないけど……。確か、朝川さんって真理香さんの影武者をしている人では……?」
「そうよ、私の影武者……。もし、私達の秘密が外部に漏れたら……」
と返答した真理香は、不安そうな表情で最悪な状況を想像していた。
さらに、遼太郎が顔を曇らせて久晴に説明する。
「もし、真理香の秘密が部外に公表されたらロンドンに戻ることになる。例え、人事異動で日本に戻ったとしても様々な理由で人目を気にして生活を強いられる事は間違いない。そうなったら、真理香を自由にさせることは難しくなる」
真理香と遼太郎の話を聞いて、最悪な状況が脳裏に浮かび上がる久晴。
悩みを親身に聞いてくれた真理香、遼太郎の公認で恋人同士となった真理香。
そして、様々のイベントに自分を巻き込んで参加して明るい笑顔を見せる真理香。
それが、真理香がいなくなると聞いただけで何処か心に大きな穴が開いたような喪失する恐怖に襲われる。
例え、真理香がいても自分の知らない女性に違いない。
これが、彼女に振られた恋人の喪失感なのかと思うと考えることができない。
当然、宣伝一課の仲間と離れ離れになることは考えたくないくらい嫌だった。
「お爺様、私は耐えられません。せっかく、心の通じ合う仲間や久晴さんと知り合ったというのに離れ離れは絶対に嫌です!」
と言って、遼太郎に涙目で訴える真理香。
当然、遼太郎は二人の気持ちを十分に理解して提案を持ち掛ける。
「そこで、多田野君は真理香と一緒にロンドンに出張してもらい事件の真相を究明してもらいたい。手続きは、こちらで準備するから心配は無用じゃ」
遼太郎の提案を聞いて久晴は、首を横に振り困った顔で拒否する。
「ムリムリムリ、絶対無理。英語だって話せない上に、海外に行ったこと一度も……。それに、この手は咲良さんが適任では……」
久晴の主張を見て、困った様子で説明する真理香。
「実は、私も咲良を同行させたいけど……。女子高生の時に、色々と問題を起こしたこと聞いたことはあるでしょう? その中に犯罪紛いの悪戯が原因で、十年間は入国審査に引っかかる可能性が……」
真理香の説明を聞いた久晴は、額に汗を流して困惑した顔で心の内で主張する。
(咲良さん、どれだけヤンチャなことを……。今も、ヤンチャだけど……)
さらに、頭を抱えた真理香の説明が続く。
「英美里は決めつけて暴走するから危なくてダメ、正体をバラしたくないから菜摘では同行はできない。それに、優菜は家柄の問題で出張は無理。琴音さんは、夫子持ちの上にホテルの経営で簡単に同行できない」
真理香が説明した上で、遼太郎が久晴を説得するように話しかける。
「真理香のために、会社の守るために、どうか一肌脱いでほしい」
まさか、会長である遼太郎が頼み込んでくるなんて想定外の久晴。
それでも、応えられる自信がなく断ろうとする久晴。
しかし、涙を潤ませた瞳で無言の懇願する真理香を見て心が傾いた。
「……わかりました。出張に行きます……」
と言って応じた久晴は、自分の気弱さを呪った。
その返事に、遼太郎は大喜びで久晴の肩を何度も叩き励ますように話してくる。
「改めて、パスポートなどの手続きは会社で行うから心配は無用じゃ。それに、真理香が通訳をするから問題はない」
真理香は、涙目の表情から瞬時に笑顔へと変わり子供のように喜ぶ。
真理香の変わりように演技と分かった久晴は、昨年の冬コミを思い出し改めて自分の気の弱さを痛感する久晴であった。
一週間後、久晴のデスクから封筒が置かれ中身を開封するとパスポートとロンドン行きの往復航空券。
しかも、片道十四時間の直行便と知り本当に海外へ行くことを痛感する久晴。
隣にいる真理香は励ますが、久晴本人は真の前が真っ暗になっていた。
出発当日、宣伝一課のメンバー全員が見送りに集まって来た。
この日は、休日だけあって普段は来ることのない課長の高光も見送りに来ている。
明るい笑顔を見せる真理香は時間の許す限り談笑した後、浮かない表情で出張拒否と訴える久晴を強引に引き連れて搭乗ゲートへと消えていった。
飛行機に搭乗すると、広々と明日座席を見た瞬間言葉を失う久晴。
なんと、会社側が用意したのはビジネスクラス。
黒井製作所時代は、経費節減の名目でエコノミーの席で我慢を強いられていたが、平社員の身分である自分がビジネスクラスを支給されるなんて想定外。
「ここは、お爺ちゃんの好意に甘えましょう。ほら、シートベルトを締めて」
と言って真理香は、通路側の席に座りシートベルトを締める。
仕方なく窓側の席に座りシートベルトを締める久晴だが、緊張で顔は強張るだけで体が休まることはなく十四時間以上の長旅となった。
着いた先は、世界で二番目に旅客数を誇る巨大な規模のヒースロー空港。
ロンドンに一番近く、羽田や成田から直行便が数多く就航している。
当然、久晴の耳に馴染みのない言語が行き交い海外に来たことを痛感。
見知らぬ場所に、オドオドする久晴の頭の中はパニック状態。
対して、海外慣れした真理香は懐かしの我が家のような顔をして落ち着いている。
そこへ、真理香とそっくりな女性が二人の前にやって来た。
しかも、お嬢様の真理香の容姿に合わせて長い髪をなびかせている。
「あなた達が、東京から来た人達ですね?」
二人を見た瞬間、違った意味で頭がパニックになり思わず喋ってしまう久晴。
「あっ、あれっ、真理香さんが二人? でも、誰が誰で……?」
だが、動じることのない真理香は自分そっくりな女性に笑顔で話し掛ける。
「お久しぶり、ロンドンの生活は馴染めた?」
すると、真理香そっくりの女性は困った顔で言葉を返す。
「お久しぶりと言いたいですが、ここでは都合が悪いので今から案内致します」
真理香は、淡々とした返事に少し不満があったが話すことなく同行する。
混乱する久晴は、イギリスの風景を楽しむ余裕がなく同行するしかなかった。
一時間後、案内された場所はロンドン支社が管理している社員寮。
かつて貴族の別荘だった建物を買い取り、改装後は社員達に多く利用されている。
当然、出張で滞在する社員の宿泊先として利用されていることは言うまでもない。
隣には、運河として有名なテムズ川が流れている。
社員寮に入ると、案内された場所は応接室と思われる一室。
「真理香様、隣の部屋で支度が整っています」
と言って真理香に似た女性は、隣の部屋へと真理香を案内する。
真理香は、隣の部屋に入ろうとする前に久晴に怖い顔をして忠告する。
「言っとくけど、絶対に覗かないでね! もし、覗いたら警察を呼ぶから!」
真理香の忠告を聞いて、想像できた久晴はソファーに座って大人しく待つ。
二人の真理香は、隣の部屋へと行くのを見守るように。
三十分後、再び姿を現したのは髪を下ろした真理香と黒髪を束ねた真理香そっくりな女性。
「改めて、私が本当の近衛真理香よ」
と言って真理香は、眼鏡を外し長い金髪を耳にかける仕草をする。
「初めまして。私が、真理香様の影武者をしています朝川真理香と申します」
と言って、眼鏡を掛け黒髪を束ねた真理香のそっくりな女性が恥ずかしそうに挨拶。
二人の真理香を見た久晴は、驚きの余り言葉が出ずパクパクと口を開けたまま。
まさか、真理香とそっくりな女性が似せるために髪を金髪に染めていたことに驚く。
同時に、真理香は何故か髪を黒く染めないのか疑問に思った。
その疑問は、真理香の髪に特殊な事情が深く関わっていた。
「真理香様、私に似せようと髪を黒く染めようと何度も挑戦したのですが中々馴染めず。例え、染めたとしてもタオルで拭いたりシャンプーしたりすると簡単に流れて……」
と言って、決まった表情をする真理香のそっくりな女性。
「様々な染料を試したけど全く定着しなくて、仕方なく私のアドバイスで金髪に染めている設定で通しているわけ。何故か、今まで問題になっていないのよね」
と説明する真理香を見た久晴は、髪を染めることが出来ない事情があることを今知ることになり思いながら彼女たちの苦労を察する。
(まさか、真理香さんの髪に特殊な秘密があったなんて……)
そんな中、新たな悩みが発生し二人の真理香に提案を持ち掛ける久晴。
「あの……、苗字で呼びたいのですが……? 名前だと、違う人が来そうで……」
すると、真理香と真理香のそっくりな女性は久晴の提案に一度頷いて反論する。
「確かに、間違えて来てしまいそうね……。でも、前にも言ったけど苗字は絶対却下!」
「私も、名前で呼ばれたいです。だって、代役の堅苦しい日常から解放されたいから」
なんと、久晴に無茶ぶりに要求をしてきた二人の真理香。
自分の提案が却下されるなんて、何と呼べばいいのか困ってしまう久晴。
さらに、釘を刺すように真理香は久晴に注文を付ける。
「ついでに、私を「真理香様」で呼ぶのもNGにするわ」
まさか、真理香が久晴の考えを先読みして「真理香様」を禁じられ困り果てる久晴。
そんな中、横並びの二人を見て対戦格闘ゲームの同キャラを思い出し顔色を窺うように提案する久晴。
「じゃあ、金髪のストレートロングの方を普通に「真理香さん」で、髪を束ねた黒髪の方を「2P真理香さん」で呼びたいけど?」
すると、真理香とそっくりな女性は少し不満そうな顔をしながらも返答する。
「仕方ありません、その呼び方で了承しましょう……」
提案を受け入れ一安心の久晴は、やれやれとした表情で疲れていた。
(※注意、二人が同時に登場する場合に限り本編のヒロインである近衛真理香を「本物の真理香」と表記し、黒髪の朝川真理香を「影武者の真理香」と表記する)
「お二方、長旅で時差ボケがあると思います。今日は、体を休めてください」
と言って部屋を案内する影武者の真理香は、何故か安堵の笑顔を見せている。
その笑顔を見た久晴は、彼女の苦労や心配ごとがあったに違いないと察する。
だが、本物の真理香は疲れ知らずのような元気を見せ、
「二人とも、何か忘れてない? 私、ロンドン支社に滞在中の設定よ! だから、部屋の案内は明日からのミーティングが終わった後!」
と言って、応接室の出入り口の扉の前に立ちはだかった。
本物の真理香の発言で、久晴は思い出してローテーブルの席に腰を下ろす。
三人は、明日からのミーティングで三十分ほど話し合うことになった。
こうして、長いミーティングから解放され部屋に案内された頃には誰もが寝静まる時間帯で窓を開けたら暗闇の中にロンドンの町並みがライトアップ。
異国の地に、見慣れる景色に、パンフレットの写真を見ているような錯覚を覚える久晴は疲れたのか雪崩れ込むようにベッドの上へ倒れこむ。
(明日は、ロンドン支社の人達と初めて会う……。不安だな……)
と思った久晴は、長旅と時差ボケなどの疲れで即就寝。
こうして、慌ただしいロンドン出張一日目は終わりを告げようとしている。
そんな中、体を休める久晴と本物の真理香の知らないところで新たな動きが……。
影武者の真理香は、自分宛てに届けられた謎の手紙を見て思わず言葉を失う。
青ざめた彼女の顔を見るからに、何らかの脅迫文が再び送られたようだ。
当然、就寝したばかりの久晴と本物の真理香が見ることなく……。
翌日、ロンドン支社内で社員達に簡単な英語で挨拶する久晴。
自分でも何を言ってるのか忘れるくらい緊張していたが、本物の真理香がフォローしてくれて一安心するが緊張の糸が張ったまま会釈して自己紹介を終える。
隣には、影武者の真理香が自己紹介する。
一応、東京本社から訪英した設定で自己紹介する。
(本当は、真理香さんの代役でロンドンに在籍しているけど……)
と心の中で言って、心配そうな表情で影武者の真理香を見守る久晴。
自己紹介が終わると、大柄で筋肉質な黒人の支社長が代表して挨拶する。
大柄の黒人男性を見て、思わず動揺してしまう久晴。
「十年前、東京に在籍した経験がありますので日本語はダイジョウブ。私はネイサン・エドワード・スミス、ロンドン支社の支社長を務めてます」
と言って、手を差し伸べ握手を求めるネイサン。
まさか、外国人で日本語が話せる人に出会うなんて想定外の久晴は目を丸くする。
だが、ネイサンの手の平が自分と同じと同じ色だと安心し笑顔で握手に応じる。
すると、ネイサンの白い歯が見える笑顔を見て好印象を得たと安堵する。
こうして、久晴達の自己紹介は和やかに終わりを告げた。
自己紹介が終わった後、本物の真理香が案内した場所は自分のオフィスルーム。
(厳密には、影武者の真理香が代役で席にいるのだが……)
と思って、整理整頓されたオフィスルームを見渡す久晴。
本物の真理香は、自分のデスクに着いて神妙な面持ちを見せる。
「昨夜、彼女宛てに再び手紙が送られた。しかも、送り主は記載されていない」
と言って、影武者の真理香から受け取った手紙をデスクに広げて見やすくする。
久晴は、再び送られた手紙を読んで驚きながらも観察して読む久晴。
「何々、『お前は早く日本へ帰れ! 用事があるのは本物だ!』って何か脅迫のレベル上がっているような……。でも、筆圧が全くないからコピーしたのか?」
当然、本物の真理香も怒りを露わにして久晴と影武者の真理香に主張する。
「これは、完全な脅迫よ! 一体、誰がこんな性格の悪いイタズラを?」
影武者の真理香は、再び手紙を見て恐怖に震える今にも自信を失いそうだった。
そこへ、ウエーブのある赤茶の長い髪をなびかせる白人女性が姿を現す。
背丈は本物の真理香と同じか久晴と同じくらいの高さがあり、スタイルも良くタイトスカートのスーツ姿も相まって体のラインが強調されている。
「クリス、久しぶり! 相変わらず元気そうね」
と言って、白人女性が本物の真理香と軽く抱き合って再会を喜ぶ。
本物の真理香も、白人女性と軽く抱き合って再会を喜び合う。
「ゴメン、色々と話したいことがあるけど今は事件で時間がなくて……。ナタリー」
すると、白人女性との関係や本物の真理香のことを「クリス」と呼んでいることに疑問に思う久晴は首を傾げる。
その疑問に、本物の真理香は白人女性を紹介して説明する。
「彼女、秘書課のナタリー・グレース・テイラー。大学時代の親友よ」
「あなたが、多田野久晴さんね。私、大学で日本語を学んでいます」
と言って、久晴に握手を求めてくるナタリーは終始笑顔を見せる。
当然、握手に応じるが美人なナタリーを見て顔を赤くする久晴。
それ以上に、ネイサン以上に流暢に日本語を話すナタリーに思わず感想を言ってしまう久晴。
「ナタリーさん、日本語ペラペラですね……。随分……」
「ナタリー、大好きな漫画や小説のために日本語を学んできたの」
と説明する本物の真理香に、ナタリーが日本語は平然と話せるのか納得する久晴は何処かヲタクとしての親近感が沸いてくる。
同時に、本物の真理香のことを「クリス」と呼んでいるのか疑問に思う久晴。
以外にも、その答えは簡単だった。
「実を言うと、私の母方がキリスト教でミドルネームがあるの。本当の名は、近衛・クリスティーナ・真理香。でも、日本の法律上ミドルネームは基本NGだから」
と説明する真理香に、これまでの謎が明らかになった久晴。
何故、去年の二年参りで祈り方が自分と違うのか。
そして、ナタリーが「クリス」と呼ぶのか言わなくても何となく解明した。
「彼女が支社にいるときは、ミドルネームを略して「クリス」と呼んでいます」
と言って、本物の真理香に目を向け補足して説明するナタリー。
しかも、本物の真理香が自分を「クリス」と呼ぶのを許した女性は大学時代の親友であるナタリーと宣伝一課の菜摘を除いたメンバーのみ。
但し、宣伝一課のメンバーは暗黙のルールがあり社内ではお嬢様で通している。
そんな中、一人の白人男性が突然入ってくる。
「お嬢様、変な手紙が再び……」
「リチャード、部屋に入ってくるときはノックをしないと何度言ったら……」
と言って、頭を痛めたような溜息を吐いて注意する本物の真理香。
その手紙を見た瞬間、影武者の真理香が溜息を吐いて頭を抱える。
「なんで、変な写真ばかり……? 前は、手紙も同封していたというのに……」
影武者の真理香が構った様子を見た久晴は、気になってリチャードと名乗る男性から手紙を受け取って写真を見る。
写真は、南国の砂浜に打ち上げられたお尻の形状に似た黒い物体。
「これ、ココ・デ・メール……? 世界最大の種子で、形状が若い女性のお尻に似ていることから「お尻の種」って別名が……」
「久晴さん! これ以上言ったら怒るわよ!」
と言って怖い顔をした真理香を見た久晴は、身の危険を察して写真のことを必要以上に喋ることを止める。
そんな中、本物の真理香が突然現れたリチャードという男が気になった。
本物の真理香は、困った顔を見せながらも彼を紹介してくれた。
「彼、秘書課に配属されているリチャード・トム・ホワイト。前任の推薦で、私の秘書を担当するようになった人。一応、社員寮の管理人も兼任しているけど使用人達には厳しくて仕来りに従わせようとするの……」
すると、リチャードは際しい顔をして反論する。
「例え、社員寮のスタッフでも使用人である以上は空気のような存在に徹する必要があります。それに、使用人を管理するのも執事の義務があります」
本物の真理香は頭を悩ませる様子を見て、リチャードの古風なプライドに問題があると思った久晴は黙って様子を伺う。
その時、久晴の顔を見たリチャードは笑顔を見せると、
「貴方の噂を聞いてます。羨ましい、お嬢様の側にいられる男性の一人である事が」
と言って、笑顔を見せ握手を求める。
一応、握手に応じたが彼に潜む何かを感じ背筋に寒気を感じ容姿を観察する久晴。
背丈は久晴と同じくらいで、海外での一般男性の中では低い方と思われる。
髪型は古典的なセールスマン風で、白人らしく顔の彫りが深く久晴より若そうだ。
だが、金髪の中に根元が黒く明らかに染めている。
リチャードを観察していると、本物の真理香が背後から話し掛けられる。
「久晴さん、どう考えても内部の人間の仕業としか考えられないけど……」
すると、久晴は瞬時に反応し自分の意見や疑問を言い述べる。
「現状から察すると、真理香さんの意見が妥当かも。でも、誰か心当たりがあるように見えたけど……。2P真理香さん?」
影武者の真理香は、顔を曇らせて躊躇するように返事をする。
「ゴメン、私の勘違い……。皆様、心配させて申し訳ございません……」
影武者の真理香の躊躇に、この事件と関係があると感じた久晴と本物の真理香。
そんな中、支社長のネイサンが登場し問題となった件は一時中断。
久晴は、居合わせた人達の行動からしてネイサンが会社の秘密をしらないと判断して本物の真理香と相談する振りをして誤魔化す。
同時に、リチャードがネイサンを差別するような目で見ていた気がした久晴。
その後は、ネイサン自ら支社を案内して午前の業務は終了となった。
昼休み、昼食を取るためロンドン支社を出る久晴。
当然、土地勘がないため二人の真理香と同行なので何処か気まずい。
久晴の第一印象は、石畳の中世時代のような景観を想像していた。
しかし、流石に乗用車が行き交う現代社会の舗装は殆どアスファルトで一部の歩道は石畳が残っている程度。
それでも、現代的な建造物の中に石レンガなどの歴史的有名な建造物が入り交じりロンドンに来ていることを実感する。
二人の真理香の案内で有名な飲食店に案内される久晴は、ロンドンの街並みを確認するように歩きながら周囲を見渡す。
その久晴を見た本物の真理香は、何かを思い出したように久晴にアドバイスする。
「久晴さん、欧米での接待はフィットネスかジムがメイン。例外で、接待相手の趣味をリサーチすることが重要だと覚えといて」
アドバイスを聞いた久晴は、欧米の人がジムで汗を流す姿をテレビや映画で見たことを思い出し何処か納得するところがあった。
そんな中、見知らぬ若者が突進してくるのを目撃した久晴は条件反射で二人の真理香の前に立ち塞がる。
それでも、見知らぬ若者は立ち塞がる久晴を突破しようと突進する。
だが、本物の真理香と付き合って学んだ護身術で見知らぬ若者の腕を掴むと脇固めの要領で取り押さえる久晴。
本物の真理香は、久晴が取り押さえた見知らぬ若者の髪を掴んで頭を上げさせる。
「……しょ、将介……! 何で、こんな真似を……?」
と言って、目を丸くする影武者の真理香。
なんと、久晴が取り押さえた若者は影武者の真理香と知り合いだった。
「イテッ! イテテッ、離せってオッサン! 俺は、真理香姉に用があって!」
と将介と称する若者は、取り押さえる久晴に怒りを露わにして訴える。
だが、久晴は取り押さえる手を離すことなく猛反論する。
「お前、誘拐犯みたいなことをやって信用できるか! 普通、用があるなら事前にアポ取るのが常識だろう!」
本物の真理香は、影武者の真理香の知り合いと察して久晴に指示を出す。
「久晴さん、取り敢えず取り押さえた彼を解放してあげて。話は、近くのカフェで聞きましょう」
久晴は、取り押さえる手を離し将介と称する若者を解放する。
影武者の真理香は、怒った顔をして将介と称する若者のパーンと頬を引っ叩く。
「将介、私や周りの人にどれだけ迷惑を掛けていると思っているの!」
頬を叩かれた将介と称する男は、目を丸くして言葉を失い立ち尽くす。
本物の真理香は、不味い状況と察して近くのカフェに連れて行く。
久晴も、立ち尽くす二人を近くのカフェに連れて行く。
近くのカフェで、将介と称する若者を囲むように席に着く。
「彼、雛田将介。今は、イギリスの大学で留学中よ」
と言って、紹介する影武者の真理香は恥ずかしそうな顔をする。
紹介された将介は、久晴に取り押さえられムッスリと不貞腐れて顔を横に向ける。
まるで、取り調べで態度が悪い容疑者のようにも見える。
本物の真理香は、二枚の手紙を将介に差し出し問い詰める。
「これ、貴方の仕業? もし、貴方が犯人なら何でこんなイタズラを?」
将介は、差し出した手紙や写真を見て不満そうな顔で訴える。
「確かに、写真は俺ですけど手紙を同封したはず! それに、確かに俺の字ですけどコピーしたヤツじゃないですか? 第一、真理香姉を脅したりしません!」
影武者の真理香は、将介への疑いは解けず怒った顔で叱りつける。
「例え、将介が犯人ではないとしても写真だけはおかしいでしょう! お願い、私のことが好きだとしても性格の悪いイタズラはヤメテ!」
すると、テーブルをバンと叩いて怒りを露わにした将介は、
「いいよ、誰も信じないなら出てく!」
と言い残し、カフェを後にする。
当然、影武者の真理香の制止を振り切って去って行く将介。
そんな中、謎の手紙をじっくり観察する久晴は自分の意見を伝える。
「先に、俺の考えが間違っていたら誤るけど……。この手紙、元の手紙を切り抜いてコピー機で印刷した物では?」
すると、二人の真理香は手紙を観察して文字の間にかすかな線が発見し驚く。
「もし、あの若者が無実でなくても自分で加工すると考えにくい気が……」
と自分の推測を言う久晴に、影武者の真理香は黙ってカフェを後にする。
残されは久晴と本物の真理香は、その場で何も言えず時間だけが過ぎてしまう。
昼休みが終わる頃には、流石に姿を現す影武者の真理香だが表情は硬かった。
その日の夜、久晴は偶然にも社員寮の隣にある人気の少ないバーで影武者の真理香を発見する。
久晴は、何も言わず影武者の真理香の座る席の隣に座る。
影武者の真理香は、カクテルを飲んで酔っているのか顔が赤くなっている。
「ゴメン、今はそっとしてくれない……」
すると、久晴は心情派の名刑事モードで影武者の真理香に話し掛ける。
「何か、困ったことでも……。少し、言った方が楽なるぞ」
だが、久晴が優しく呼びかけても複雑な表情を崩すことない影武者の真理香。
それでも、久晴は粘り強く心を探るように影武者の真理香に話し掛ける。
「聞いた話だと、将介君がスケベなイタズラで困っていると噂で聞いている。でも、構って欲しいからイタズラすると思うけど」
すると、呆れた様子で久晴の話に応じる影武者の真理香。
「悪いけど、将介のイタズラは度が過ぎているのよ。現に、みんなに迷惑を」
「では、2P真理香さんが将介君と相手をしたのはいつ? ここ最近、仕事ばかりで相手にしてくれないからでは?」
と久晴が心を見透かすように話すと、影武者の真理香は心当たりがあるような思い悩む節を見せる。
それを見て、久晴は押しの一手を仕掛けるべく自分の過去を話し出す。
「正直言って、君達の家族環境が羨ましいと思っている。俺の家族は、隣近所が男ばかりで同世代の女の子に出会うなんて滅多になくて……。それに、小中学は最悪な事ばかりで逃げだそうと……。結果、年頃の女の子が苦手になって遠回り……」
すると、影武者の真理香は神妙な面持ちで重い口を開く。
「将介とは、隣近所の幼馴染みでお互い一人っ子。私を姉みたいに従って、子供の頃からいつも一緒で……。最近、冷たかったかな……。私……」
それは、影武者の真理香が語った過去と反省。
それを聞いた久晴は、心優しい名刑事のように影武者の真理香に尋ねる。
「自分が言いにくかったら代わり言ってやる……。連絡先、教えてくれるかな?」
すると、影武者の真理香は誰にも聞こえないように久晴に将介の連絡先を教えると、
「なんて言えばいいのかな……。女同士で相談したら、絶対に将介が犯人扱いされると思って……」
と言って、自分の悩みを打ち明ける。
だが、その様子を影から覗いていた者がいることを誰も知らない。
この後、新たな火種が降りかかることを久晴は知る由のなかった……。
翌朝、本物の真理香のところへスマホからリチャードからの電話が入る。
本物の真理香は、起きたばかりで寝ぼけ眼で応対する。
「真理香様、多田野さんと朝川さんが隣のバーで密会していたのを使用人の一人が見掛けたと報告がありました」
とリチャードの一言で、寝ぼけ眼が完全に目覚め苛立つ本物の真理香。
「連絡ありがとう。後で、久晴さんを問い詰めますので」
と言って、電話を切る本物の真理香の表情は穏やかだが心の中では怒りを必死に押さえている。
その後、何事もなく出張二日目の業務をそれぞれ熟す久晴と本物の真理香。
休憩時間、久晴は休憩で誰もいない部屋で誰かに電話を掛ける。
その様子を静かに見守る本物の真理香は、殺気に満ちた目で睨み付けている。
久晴は、本物の真理香が静観されていることを知らず影武者の真理香が教えてくれた将介に電話を掛けアポを取る。
この後、待合の場所に指定したバーで修羅場になることを今は誰も知る由もなかった……。
翌晩、久晴が指定した社員寮となりになるバーへ将介が姿を現す。
「言っとくけど、ここじゃ法律で飲酒はOKでも酒飲めねーから俺。まだ、俺のこと疑っているでしょう?」
と言って警戒する将介に対して、至って冷静で席に座る久晴。
「ここは、男同士の話に付き合うだけで呑み合うことはない。君が、真理香姉と言う人から言いたいことを預かっている。まずは、隣の席に座って話そうではないか」
と言って久晴が誘うと、警戒しながらも隣の席に座る将介はカバンから筆記用具を取り出す。
その時、何かないことに気がつき慌ててカバンの中を必死に探す将介。
「あれっ、ボールペンが? 一週間前、真理香姉の所へ会いに行くときカバンの中に……。万年筆風のボールペン、俺のイニシャル入りで真理香姉から貰ったヤツがない……?」
どうやら、将介の慌て振りからして大切な物だと察する久晴。
取り敢えず将介を落ち着かせると、久晴は自分が疑問を将介に尋ねる。
「ところで、連絡はどうして手紙? スマホなどでDMを送れば?」
すると、将介は年代物のガラケーを取り出して説明する。
「このガラケー、4Gすら未対応で……。仕方なく、手紙で連絡を取るようにしてるっす。でも、ちゃんと手紙送ったはずなのに……」
久晴は、年代物のガラケーを見て何か思い出があるのではと推測する。
そこへ、本物の真理香が場の雰囲気を壊すように突然入ってきた。
「久晴さん、今ここで説明して! 真理香と密会、この場所だとリチャードから聞いたけど。久晴さん、私抜きで何を話していたの!」
と言って、怖い顔で久晴に詰め寄る本物の真理香。
それに対して、久晴は困ったような顔をして何とか宥めようと正直に話す。
「2P真理香さん、このバーで思い悩んでいたから相談に乗っただけだって。断じて、何処かに行くわけもない。それに、土地勘全くないから俺っ……」
「これ以上、ウソ言わないで! 私より、真理香みたいな大人しいのが好みなの!」
と言って、怒りで我を忘れた本物の真理香は必要以上に久晴を詰め寄り目の前にあった将介のガラケーを取り上げる。
まるで、浮気が発覚した夫を容赦なく詰め寄る妻のようにも見える。
そんな中、遠くからガシャーンとガラスが割れるような大きな音が三人の耳に届く。
大きな音を聞いて、驚いた拍子に外に出て確認すると石畳の上に割れた花瓶の破片が散乱していた。
気になって久晴は、花瓶の破片が散乱する場所から見上げると窓が開いている部屋が一つ見つかる。
「あの部屋、真理香のいる部屋……。一体、何があったの?」
と言って、影武者の真理香がいる部屋だと気がつく本物の真理香。
久晴達三人は、急いで影武者の真理香の部屋に急行する。
部屋に到着すると、影武者の真理香の部屋は灯りが点いたまま誰もいない。
テーブルには、一枚の手紙と一本の万年室風のボールペン。
三人は、この光景を見て明らかに影武者の真理香の身に何かが起きている事をすることになる。
本物の真理香が手紙を読んだ瞬間、背筋が凍り付く恐怖を感じる。
「探さないでください。私、お嬢様に変装する自信がありません」