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悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う  作者: 千秋 颯
第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
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第91話 四大陸

 好奇心を擽られるような雑学から始まり、信憑性の薄いような話に至るまで、ノアは様々な話をクリスティーナ達へ繰り広げた。

 その殆どは有益な情報とは言い難かったが、楽しそうに話す彼の声に耳を傾けるのは悪くない心地がした。


 そして気が付けば、彼の話題は魔法史から地理的なものへと移り変わっていた。


「魔族と言えば。諸島を国土とする海洋国家は魔王軍の幹部であった『強欲』が治めていることで有名だよね」

「ええ」


 一般人でも多少の教養がある者であれば知っているほど有名な話だ。

 魔王軍が敗北した後、唯一所在がはっきりしている魔族。それが『強欲』の魔族マモン。

 どういう風の吹き回しかはわからないが、マモンは終戦間際で魔王軍を裏切り、代わりに魔王軍の侵攻を許していたとある国の防衛へ手を貸したという。


 それが四大陸の間に位置する島国を統括した海洋国家。終戦後、間もなくして国の長として降臨したマモンは以降一度も世代交代することなく国を統治し続けているという。


「魔族でありながら長年人を裏切ることなく国を治め続けるマモンは魔族の中で一番話が通じる相手かもしれないね。それにかの国は独特な文化も発展しているという。もし立ち寄ることがあればいつか話を聞かせてくれよ」


 『強欲』の魔族マモン。人の国を治めるかの魔族であれば遭遇早々に攻撃してくることもなさそうだ。それに、初代聖女を知っている数少ない存在。

 もしかしたらマモンを通じて何か知ることが出来るかもしれない。


 機会があれば足を運んでみるのも良いかもしれない、とクリスティーナは考えた。


「南大陸は多種多様な亜人族が住まう地とされているが、残念ながら自由に行き来することが出来ない。亜人族は現在人族との接触を断っているし、移動経路である海上のルートは霧で覆われていて渡来を試みた者は誰一人として南大陸へ辿り着けなかったそうだ」


 南大陸の入り口を覆う霧。その発生源は人族の侵入を防ぐために亜人種が行使している魔術とも言われている。

 魔王軍との戦争で一度は協力し合った人族と亜人族。しかしその友好関係も長くは続かず、今となっては繋がりすら完全に途絶えている状態だ。


 クリスティーナ達はノアの説明を聞きつつ自分の知識を振り返る。

 東大陸にも亜人族と言われる種族は存在する。クリスティーナ自身も実際に目にしたことはあるが、人族と亜人族は備え持つ特徴に齟齬がある。

 そして人族の多い大陸に住まう亜人族は多くないことなどから、その珍しさ故に人の目を良く惹く存在であったとクリスティーナは記憶していた。


「まあ、魔法を学ぶ者として着目せずにいられないのは北大陸だけどもね。今や世界の殆どで消えた瘴気も、北大陸上では濃く、根強く残っている。現在の北大陸はとても人類が住めるような場所ではない。それを改善する為の方法を探すのは勿論、魔導士の仕事という訳だ」


 魔王が退いた後も人が住まうこともできず荒廃した地、北大陸。

 長時間滞在すれば辺りを満たす瘴気に影響を受けてしまうことから、詳しいことはまだわかっておらず、研究も思うように進んではいない。


  しかし今後の魔法の発展によっては将来、北大陸に人が住まうこともあるかもしれない。その命運を背負っているのは魔法を研究している魔導師達と言えるだろう。


「西大陸はここと同じく人族が住まう地だけど、正直現在の西に良い印象はあまり抱けないというのが東側の人間の総意だろうね。例えば……おっと」


 ノアは途中で話を止める。

 彼の隣で居眠りをしていたレミがゆっくりと顔を上げたからだ。


「お目覚めかな」

「ん……」


 寝ぼけ眼で呆ける彼は二度、三度とゆっくり瞬きをしてから我に返り、ガタンと大きく椅子を揺らした。


「悪い、寝落ちてたみたいで」

「熟睡だったねぇ」

「来てたなら起こしてくれてもよかっただろ……!」


 クリスティーナ達へ頭を下げるレミの傍らでノアが愉快そうに笑う。

 それをレミは恨めしそうに睨みつけた。


「別に困るようなこともなかったし、気にしなくていいわ」


 レミの謝罪に対してクリスティーナは首を横に振りながら、机に広げられていた本を纏め始める。

 気が付けば窓の外では日が傾き始めており、西の空は橙に染まっていた。

 そろそろ切り上げるにも良い頃合いだろう。


 クリスティーナが片付けを始めたのを横目に捉えたリオも同様に荷物を纏め始め、更に遅れてレミも離席の支度を始める。

 そんな三人の様子を机に片肘をつきながらノアは眺める。


「そういえば、今日は本当に宿で泊まるのかい?」


 ノアが確認したのはクリスティーナ達が移動中に彼へ伝えておいた今日の予定についてだ。


「ええ」

「昨日は致し方なかったとはいえ、あそこは元々お二人のお部屋ですし、余所者が出入りしているところを目撃されると説明も面倒でしょうしね」

「俺達は別に構わないんだけどなぁ。……まあ、君達がそう言うなら仕方ないか」


 勝手に承諾しているものとして頭数に入れられているレミだが、彼が不服を唱える様子はない。そのことから彼自身も部屋を貸すことに否定的ではないのだろう。


 しかしリオの言う通り学生寮には多くの目があるだろうし、本人たちの言葉に甘えて更にもう一日部屋を陣取るという選択は流石に罪悪感の一つも覚える。

 現状は金銭面に困っている訳でもないし、ならば宿で休むことにしようというのがクリスティーナ達の総意であった。


「なら宿探しを手伝うよ。ついでに一緒に食事でもしよう。次にいつゆっくりと話し合えるかもわからないからね」

「そういう事ならお願いしましょうか」


 手伝いが目的というよりは共にいられる時間を惜しんでの提案だろう。

 彼の案にリオが頷きを返しながらクリスティーナの顔を覗き込む。

 リオが浮かべる微笑にはここは素直に頷いておいてはどうかと諭すような空気を感じる。

 恐らくはクリスティーナが素直になれない性格であることを理解した上での先回りだろう。


 変なところにまで気を利かせられるのは主人をよく理解している彼だからこそだ。

 クリスティーナは息を一つ吐き、積み上げられた本へ視線を落としたまま呟いた。


「どちらでも構わないわ」


 その口から漏れたのはやはり可愛げの一つもない言葉。

 その場にいた彼女以外の三人はその声を聞き届けると、顔を見合わせて笑いを零すのだった。


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