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悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う  作者: 千秋 颯
第七章―芸術の国・ルーディック――エンフェスト山脈 『蟲の集落』
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第813話

 クロードの目は男性へ向けられる。

 彼は雪山での襲撃の際に弓を構えていた一人だ。

 集落へ向かう際も共に同行しており、クリスティーナ達の様子を慎重に観察していた事をクロードは覚えていた。


「君、僕が受けた毒をローブの女の子が治していたところを見ていたよね」


 インセニクト族にとって不吉の象徴――異端である金色の瞳に見つめられ、男は顔を強張らせながら身構える。

 怯んだ事で彼の返答は遅れたが、投げられた問いに一切答える気がない訳ではないようだ。その顔には何故そんなことを問うのかという疑問と、何か裏があるのではないかという疑念が浮かんでいる。


「……それが何だというんだ」

「まるで大した事ではないとでも言いたげな事だけど……いくら辺境の地の閉鎖的な集落であっても聖女の存在を知らない訳じゃないよね?」

「ハッ、あの女が聖女を騙る事など、こちらは既に把握済みだ。自分の仲間が聖女であるなどと騙す事はできないものと思え」

「なるほど、彼女の『予言』だね」

(クリスが魔法を使った時の周りの驚きがやけに小さかったのはそういう事か)


 どうやらルネは『予言』と称したクリスティーナの誘拐や殺人の計画を民へ伝える際、彼女が聖女を騙る存在という事も吹聴したらしかった。

 彼らにとってルネの予言は絶対。ならばここでクロードが何を言おうとも彼らは聞く耳を持たないだろう。


「まあ、何を言っても信じては貰えないだろうけど。もし君達が信じるように彼女が偽物なのだとしたら……詳細を知りもしない毒を僕から取り除いたという事実はどのように説明するのかな」

「聖女という存在……そしてその立場が持つ権威を欲する者など世界中に山程いるだろう。その中には手段を選ばない悪趣味な連中らが聖女を造ろうと目論んでいる……お前らのようにな」

(随分ペラペラと話してくれるのは、余程ルネ様を信頼し、自分達の正しさを確信してるからなんだろうな)


 勝ち誇ったように笑みを深める男。

 女性も男の言葉に同意するように口を閉ざし、傍観している。


「聖女を造る……ね。随分滅茶苦茶な話のように思えるんだけど、その情報の出所ってどこ? ルネ様なのだとすればそれは流石に予言の範疇を越えてるとは思わない?」

「生憎とルネ様ではない。ルネ様の研究の為、外部から定期的に訪れる協力者殿らの話だ」

「…………なるほどね」


 昨日の探索の際、ルネから協力者の存在については聞かされていたが、その者達も聖女について言及しているのだとすれば、ただ研究の為の物資や知識を与えるだけの存在ではないのだろう、とクロードは判断する。

 そして協力者が本当に信用に足る人物であるのか、と問えばまず間違いなくルネの予言と答えが返されるはずだ。


「聖女を造るという話もそんな事を可能にする技術も聞いた事はないんだけど。君達はもうそれが存在すると思ってるの?」

「白々しい奴だな。あの女こそがそうなんだろう。……こちらは全てわかってるんだ。まどろっこしい嘘で話を掻き乱すのはやめろ」

「本当に心当たりがないんだけどな……。君達の言う『聖女を造る』って言うのは製造技術が失われた古代の人型兵器――ホムンクルスのように人間そっくりの、それも聖女の力を保有したものを生み出すって事? それとも……生きてる人に聖女の力を植え付けるって事?」


 クロードの問いの後半で男性の眉間の皺が僅かに深まる。

 心当たりがあるのは後者――生きている人間を利用しているという点なのだろう。


「……本当に悪趣味な話だ。反吐が出るな」


 クロードの言葉に男が機嫌悪そうに何か返したが、その声は既に彼の耳には届いていない。

 恐らくはまた白々しいと言った話か、仲間や自分を罵倒するような類のものだと、聞くに値しないものとしてクロードは片付けた。

 代わりに彼は自身の思考に集中する。


(人工的に聖女を造る……そんな馬鹿らしい考えが実現する事なんて今までは考えられなかった。けど、そんな可能性を提示した上で彼らにそれを真実として刷り込ませる事ができたのはきっとルネ様の『予言』としての言葉だけじゃない……『協力者』は彼らを丸め込むだけの何かしらの具体的な説明を用意できたんじゃないかな。……そして、こんな突拍子もない話に矛盾なく具体性を持たせ、他人を丸め込むだけの説得力を持たせられるとすればそれは――)


 嫌な予感――いや、殆ど確信に近い考えにクロードは頭痛を覚える。

 こめかみの痛みに顔を顰める彼の表情には深刻さと緊張が走る。


(――当事者(・・・)だけだ)


 クロードは深い溜息吐く。


「最後にもう一つだけ聞くけど」


 一刻も早くクリスティーナ達に会ってこの話を伝えたい。

 危険はルネやインセニクト族だけではないと。

 彼女達が帰還したらすぐにでもここを離れ、人の多い場所へ向かおうと。


 そんな事を考えながら彼は、己が抱いた予測が間違っていない事を確認すべく、問いを投げた。


「――聖国について知ってる事は?」


 直後、彼は喉を駆け上ろうとする咳や血を何とか喉奥に押し留め、頭の片隅で溜息を吐きたいような感情を抱くのだった。

 できれば彼らからこんな話は聞きたくはなかった、と。

 彼は胸の中で独り言つのだった。

いつもありがとうございます!

というかここまで読み進めている方がいらっしゃる事が本当に感謝でしかありません……。


そしてこの場をお借りし、一点大切なご報告をさせていただきます。

約2年半という期間に渡り毎日投稿させていただいていたこちらの作品ですが、更新頻度を落とさせていただくこととなりました。


現行の章が完結した後、暫くは新作更新や完結作品の数を増やすことに専念させて頂き、こちらは不定期更新とさせていただこうと考えております。


恐らく次の章が大きな山場〜と考えていたところだったので、更新頻度変更の時期も悩んだのですが、最終的にはこの選択が今の自分にとっては最善かなという結論に至りました。


突然のご報告となり申し訳ありません。

次章から更新の頻度はとても遅くなると思いますが、変わらずご愛顧いただけると大変嬉しいです……!


予定が変わったなどあれば都度ご連絡させていただきます!

今後とも何卒よろしくお願いいたします!

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