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悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う  作者: 千秋 颯
第七章―芸術の国・ルーディック――エンフェスト山脈 『蟲の集落』

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第806話

 呼吸を整えたクロードは一つの大きな溜息の後、ルネを鋭く睨みつける。


「僕達は君を信用していない。それだけじゃない。例え本意ではなかったとしても、君は事実として僕達を騙すような振る舞いをした。……そんな君のいう事に僕達が頷くとでも思う?」

「……納得できずとも、止めるしかありません」

「なら君の家族を殺すしかない。これを他の人達に見せて事情を説明すれば批判はあれど彼を殺す理由としての理屈は通る」

「な……っ、お待ちください」


 クロードはクリスティーナの手を掴み、共に部屋を出ようとする。

 しかしそれを止めようと、ルネが彼の手首を掴んだ。


「……僕達の気持ちは変わらない。君が悠長に時間を掛けるつもりでいるなら……結果を出せないなら僕らは仲間の為に別の方法で最善を尽くすだけだ」


 クロードは眉間に深い皺を刻む。

 そしてルネの手を強く振り払うとクリスティーナを背中で守りながらルネと対峙した。


「証拠もなく罪を着せ、先に手を出したのはそっちだ。これ以上の収穫が望めないならここに居座る理由もない。……今度こそ、皆を本当に呪い殺して(・・・・・)しまったっていいんだよ」


 ルネが静かに目を見開く。

 クロードは何かを思い出すように視線を落とし、考えを巡らせた。


「それに、僕らのせいで龍が目覚めたと思っているなら尚更僕らに尻拭いをさせればいい。氷龍がこのまま大人しく眠ってくれるとも限らないし、それよりも討伐してしまった方がこの先の不安だって消えるでしょ。僕らが死のうが龍を倒そうが、ここの人達にとっては都合の良い話のはずだ」

「……彼らはそもそも、龍のもとへ向かった貴方達が素直に集落へ戻って来るとは考えないでしょう」

「なら、リオと……僕は残るよ」

「クロード」

「どうせ今の僕の腕じゃ足を引っ張るだけだし、ここの人達にとっては僕が監視から逃れる事への不安が大きいはずだからね。ルネ様にとってはどうかわからないけど、他の人達にとっては君より僕への警戒が高いはずだよ、クリス」


 いつ体調が悪化し、隙を作ってしまうかもわからない体。

 それは龍と対峙した際の不安要素となる事をクロードは悟っていた。


「そもそも十人の刺客を簡単に返り討ちに出来る僕らがここに大人しく居座っているのは、仲間を救う為だ。今更そんな仲間を置いて逃げ出したりなんてしないという事は流石に君達にだってわかるはずだ」

「っ、だとしても……! そもそも龍を倒す事自体が現実的ではないのよ」

「そうだね。普通ならそうだ。……けどね」


 クロードはクリスティーナへ目配せをする。

 彼が何を考えているのか、クリスティーナにはよくわかった。

 彼女の頷きを確認し、クロードは勝ち誇ったように笑う。


「――生憎、こっちには龍をも殺した剣士がいる」



***



 クロードは最終的にルネを頷かせることに成功した。

 とはいえいくつかの制約、そしてクリスティーナ側から強いた条件の緩和という説得の材料を用意する事にはなった。


 まず集落の人々が抱く疑念を和らげ、彼らの暴走を避けるべく人質兼監視役として氷龍の採血にはギーを同行させる事。

 また彼には戦う術として武器を預けるが彼の力を必要としない限りは拘束を解く必要はない。また殺人であれ事故であれ、彼を死なせる事はあってはならない。

 更に採血に向かったクリスティーナ達が定められた日時までに戻らなかった場合は死んだものと見なし、リオの救出に関する契約の効力を失う事。

 また採血に成功しても氷龍を無力化できなかった場合や氷龍の暴走を呼び寄せた場合、その他ルネの予知を彷彿とさせるような悪意ある行いが散見された場合にも契約は解除される。

 そして契約の効力を失った後の措置――リオやクロードへの対応に関する判断はルネに一任する事。


 これらを提示する事で漸く今後についての話の擦り合わせが円滑に進むようになった。

 クリスティーナ達に不利となる制約だが、クロードはルナの主張を取り入れたこれらの条件を承諾した。

 彼はクリスティーナとエリアスが採血を成功させて帰還する事を信じて疑わなかったのだ。


「明日の朝には出発してもらうよ」

「それで構いません。後でギーを連れてきてください。彼には納得して貰えるよう、私から説明します」

「わかった」


 クリスティーナとクロードは話しを切り上げ、大広間を後にする。

 案内人に連れられ客室まで戻るが、エリアスとギーの姿がなかった。


「遅めに戻るよう伝えてるから、まだみたいだね」

「そうね。……ねぇ、クロード」


 ギーがいない内に擦り合わせておくべき話、そして明日からの話。多くの話題がクリスティーナの頭の中で同時に浮かび上がる。

 しかしそれが言葉となる手前、クロードの体が傾き、彼は両膝を付いた。


「っ、クロード……!」

「……ごめん、クリス」


 彼は顔を青くさせ、息を乱しながらクリスティーナの肩に触れる。

 その体を支えてやれば、クリスティーナの耳元で囁かれる。


「ペンダント、外してみてくれないかな」

「……ッ!」


 その言葉が示す意味。それを悟ると同時、嫌な予感が膨れ上がる。

 クリスティーナはすぐにペンダントを外した。

 刹那視界に現れたのは漂う黒煙。

 それがクロードの体に纏わりついていたのだ。

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