表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う  作者: 千秋 颯
第七章―芸術の国・ルーディック――エンフェスト山脈 『蟲の集落』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

872/921

第805話

 ルネは言葉を失い、俯く。

 だが傷付いた彼女が気持ちを整理するだけの時間を与えてやる気はクリスティーナもクロードもなかった。


 クリスティーナは続ける。


「貴女にとってギーはどうなっても構わない存在だったのね」

「っ! そんな事……っ」

「そうよね? 大切な家族なのだから、『普通』なら何よりも優先すべき命よね。なら……今、自分がどうすべきかもわかると思わないかしら」


 ルネは苦悩から顔を歪めながら深く息を吐く。

 そして意を決したように口を開くとクロードの持っている小瓶を指す。


「それは、龍の血液です」

「龍……それは氷龍のことかな?」

「いいえ、他の。先も話した通り、蟲の研究の手助けをしてくださる方々が手に入れてくださった、非常に希少な物です。個体差はあれど龍の血液は生命に害を及ぼす毒性があります。それを用いれば、生命の体内に潜り込む蟲を殺し、体外へ排出させる手段を作り出せるかもしれないと……そのような可能性の話がそちらの書物には書かれていました」

「なるほどね。龍の血液は有効な手段かも知れない反面、蟲だけではなく宿主すら殺してしまう可能性がある。だから慎重になる必要があると」

「その通りです。それに……龍の血液を蟲だけを殺す成分を残すよう加工するとして、その量では適量には程遠い。体内の蟲を殺し切る事は出来ない」

「では、更に多くの龍の血液が必要になるという事ね」


 ルネは静かに頷く。

 彼女の姿を視界に留め、その表情を観察しながらクリスティーナは冷たく語り掛けた。


「貴女、リオを救う為の方法を提供すると私達と約束したわよね? なら……」

「ええ、ええ。クリス様の仰りたい事はよくわかっています。しかし……集落の誰かに龍の血液の採取を任せる事は現実的ではないと言わざるを得ません」


 ゆっくりと首が横に振られる。


「龍は魔物の中でも一、二を争う強さを誇ります。狩猟に精通していると言っても私たちの身体能力は人並から外れない。そして私達の雪山での生存方法や狩猟の知識、技術などは龍と対立して血液を無事に持ち替えることが出来る程に万能ではない。送り出したとしても血液の採取どころか、誰も帰っては来られないでしょう」

「だから諦めろと?」

「いいえ。別の方法の模索と、龍の血液の可能性の追究。これらを同時に行っていました」

「……蟲が蝕む力は三日で人が死ぬ程強力なのでしょう? そんな悠長な事で本当に解決すると思っているの?」

「クリス」


 僅かに荒げた声を宥めるようにクロードがクリスティーナへ声を掛けた。

 彼は片手でクリスティーナの頭に手を乗せた。


「気持ちはわかるけど、多分ルネ様の話も一理ある。ここの人達が龍を怒らせても無事でいられる程の腕っぷしを持っているとは思えないし、龍を怒らせれば……この集落だって無事でいられる保証はない」


 クリスティーナは雪山で聞いた大きな咆哮と直後に起きた雪崩を思い出す。

 両手を握り締め、溢れ出した怒りを何とか腹の底へ沈める。


「……氷龍は山頂にいるのよね」

「まさか、向かうつもりですか? いけません、それは」

「貴女、自分が何を言っているか分かっているの? 自分達は薬の材料を用意できない。でも私達がそれを採りに行くことも許容できない。そんな言い分が通用するとでも?」

「そこに関してはクリスと同意見だ。僕達の選択に君が口出しをする権利があると思っているの?」

「……お二人に何と言われようと、思われようとも。私はそれを認める訳にはいきません」


 ルネは真っ直ぐ二人の顔を見つめる。

 決して頷きはしないという覚悟がそこにはあった。


「私は予知の力があるという話をしました。そしてこれが外れた事は今までありません。……これは私だけではなく、ここに住まう全ての者の共通認識です。そして私は予知の力で皆様の事を知りました」

「氷龍を目覚めさせたって話?」

「そちらも、ギーから聞いたのですね」


 クロードの問いへ返された言葉は肯定を示すもの。

 ルネは憂いるように視線を落とした。


「正確に言えば、皆様が氷龍を目覚めさせる存在である事以外にも……氷龍を傷付け、怒りを買う未来を見ました。そしてその結果、ここが滅びるという未来を」

「馬鹿馬鹿しい話だね」

「私も貴方達のように善良そうな方々の未来が何故このようなものとなっているのかまではわからない。ただ……酷な話ではありますが、皆様がこの件について何と言おうとも、その真偽を掴む方法を私達は持ち合わせておりません……っ、クロード」


 何度目かの激しい咳をするクロードを案じるようにルネが話を中断する。

 しかし苦しそうにする当の本人は話の続きを促すように手で示した。


「……皆様が私の予知の事を信用できないとしても、ここの人々は私の予言を信じてくれている。そして貴方達が氷龍の血を求めて集落を離れた事を彼等が知れば、騒ぎになり兼ねませんし……きっと予言の通りになる事を恐れ、そうなる前に貴方達を止めようと暴走してしまう」


 だからクリスティーナ達の望みに応えてやる事は出来ないのだとルネは話したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ