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悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う  作者: 千秋 颯
第七章―芸術の国・ルーディック――エンフェスト山脈 『蟲の集落』
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第797話

 ギーの顔が強張る。


「ああ、それとも殺そうとした? ……最悪どっちでもいいとでも言われたんだろうね」


 何も言葉を返さないのは図星だからだろう。

 ギーを金色の瞳で見つめたままクロードは淡々と話す。


「彼女は顔を隠していたけどリオの容姿はよく目立つ。彼女だけじゃなくてその周囲にいる人の特徴を共有されていればクリスの正体にある程度予測が立てられるででしょ」


 ギーは悔しそうに顔を顰めると視線を落とす。

 この頃にはエリアスもクリスティーナとクロードが知った真実に気付き、難しい顔をしていた。


「っ、そ、そもそも……お前らがロクでもねぇ事を企てるからだろ!」

「計画がバレたからって逆ギレするの?」

「ッチ、言い掛かりつけやがって……! おれらだって何の理由もなくあんな事するかよ」

「ふぅん?」


 クロードは半笑いでギーを見やる。

 話を促しているようにも、小馬鹿にして相手も焚き付けているようにもとれるそれに乗せられたギーはやや早口に捲し立てた。


「お前らが氷龍(ひょうりゅう)を目覚めさせたってのは知ってんだよ」

「ひょ、うりゅう……?」


 すっとんきょうの手本のような声を上げたのはエリアスだ。

 だがわかりやすく態度には出さなかったものの、全く身に覚えのない話に驚かされたのはエリアスだけではない。

 クリスティーナやクロードもまた怪訝そうに眉を寄せるのだった。


「身に覚えがなさ過ぎるわ」

「惚けんなよ。ルネがそう言ったんだ」

「ルネ様が? 氷龍の話は一旦おいとくとして……彼女が何の証拠もなく、命令したってだけで僕らを襲ったって事?」

「ルネは予言を伝えただけだ。お前らを止めねぇとって決めたのはルネの傍にいるババア達だし、それを実行したのはおれらだ。ルネを恨むのは門違いだぞ」

「……なるほどね」


 集落に生まれた双子。忌み、嫌われるはずの存在が特別視されている表向きの理由。

 それを理解したクロードは合点がいったように頷く。


「ルネ様がここで特別な立場にあるのは、彼女が未来を言い当てる力を持ってるからって事だね。……因みに、ルネ様の予言ってどのくらいで当たるの?」

「一回だって外した事ねぇ。だからお前らが何て言い訳したっておれ達を言いくるめる事は出来ねぇぞ」

「うんうん、わかったよ。教えてくれてありがとう」


 クロードは穏やかな口調でギーに言葉を返しながらもクリスティーナやエリアスへ目配せをする。

 視線を受けた二人はそれぞれ無言で彼を見つめ返した。


「……氷龍。そういや、この地方に住んでる龍がいるって話は聞いた事あるな」

「うん、僕も。龍は魔物の頂点と呼ばれるくらい驚異的な力を持つ存在だ。数自体は数えられる程しか確認されていないけど……そもそも今は人間に危険を齎すような個体自体殆どいないと言われているよね」

「おう。基本的に天候的な問題で龍を驚かせるような事があったり、人間や魔物なんかの……他の生物が向こうを刺激するような事をしでかさない限り、暴れたりしねぇはずだ。氷龍だってそのはずだ」

「氷龍はエンフェスト山脈の山頂で長く眠る龍だ。目が覚めるのは五十年に一度くらい。けど、それは二十年くらい前にもう一回来てるって訳だ」


 五十年の周期から外れて氷龍が目覚めた事実。そこにクリスティーナ達が絡んでいるとギーは信じているようであった。

 言い訳は通じないとでも言いたげに彼がクリスティーナやクロードを睨み付ける。


「……そっか、あん時デジャヴあると思ったけど」

「エリアス?」

「あ、いや。オレ、龍は見た事あるからさ」

「なるほど。あの時の咆哮か」


 雪崩に巻き込まれる直前、地面すら響かせた大きな咆哮。

 それが以前聞いた龍のものと酷似しているとエリアスは話した。


「だから多分氷龍が目を覚ましたってのは事実だ」

「そっか……。僕が知ってるのは二十年前に氷龍が起きた時の事だけど、この時は以前の五十年の間に近くに巣窟を作ってしまった魔物が原因でちょっとした災害になったんだ」

「あ、その話ジジババから聞いた事あるな。そのあと前まで住んでたとこを捨てなきゃなんなくなったって……」


 クロードの話に自然と入り込んだギーは言葉の途中で、敵視している相手と普通に会話を成立させている事に気付いたのか、ハッとする。

 気が緩んでいた事への戒めか、彼はこれでもかというほどに顔を顰めてみせた。


「別に話すなって言いたい訳じゃないよ。君の話も聞けるなら助かるし」

「おれがお前と話したくねぇんだよ!」

「そっか」

「多分数秒後には普通に話すわよ、この感じだと」

「話さねぇ!」

「好きにすればいいよ」


 相手にしていると何とも気が緩んでしまいそうな人質だ。

 肩を竦めるクリスティーナを見て、クロードは困ったようにはにかんだ。


「その時はヴィルパン家やルーディックの辺境伯なんかが手を組んで制圧に乗り込んだんだけど、結局彼らが辿り着くよりも先に氷龍は二度寝を始めた、みたいなオチだったかな。そこまで被害は出なかった」

「……けど、今回龍が起きるくらいの何かがあったなら……何かしら対策を打たねぇとやべーよな」

「アベルの胃に穴が空きそうだね。まぁ、龍の話なんて国家が出るような案件だ。僕らの出る幕ではないよ」


 自分達は龍の起床による被害を警戒しながらも予定通りリオを救う方法を探すだけ。

 そして早々にインセニクト族や氷龍から離れるべきだ。

 そうクロードは続けたのだった。

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