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悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う  作者: 千秋 颯
第七章―芸術の国・ルーディック――エンフェスト山脈 『蟲の集落』

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第790話

 クリスティーナ達は十名程のインセニクト族に囲まれながら山中を移動する。


「大丈夫だよ。この子がいる限り、周りは僕達に手を出せない」


 自分の近くを歩く仲間達はクロードは囁く。

 その瞳が映すのは後ろ手に縛られたままエリアスに繋がれたギーの背中だ。


「クロード」

「うん?」


 その声を隣で聞いていたクリスティーナは彼の袖を掴んでその足を止めさせる。


「治療をしましょう。やっぱり貴方、さっきから苦しそうだわ」


 顔が火照り、息が上がっている彼が体質以外の問題を抱えているらしい事は明らかだった。

 しかしクリスティーナが言う『治療』の意味を知っている彼は首を横に振る。


「問題ないよ。蟲は使われてない」

「でも毒は使われている。そうなんでしょう」

「……せめてこんなところでするのはやめて欲しいかな。君は自分の立場と行動によって起こるリスクを考えるべきだよ」

「嫌よ」

「クリス……」


 クリスティーナは応急措置が施されたクロードの肩に触れる。

 クロードに残された時間を悟っているからこそ、彼の時間を削りかねない可能性が僅かでもあるのならそれを取り除きたかった。


(私のせいで誰かを失うくらいなら、リスクを取るわ)


 元よりクリスティーナにとって世界などはどうでもいい。

 ただ自分の周りの、守りたいものだけが手に届けばそれでいいのだ。


(誰かを失う後悔なんてもうしたくないわ。あんな思いをするくらいなら、私は仲間と危機に飛び込む方を選ぶ)


 地底の城で見た夢、そしてそこで話した者達のの最期をクリスティーナは思い出していた。

 自分の決定によって振り回される仲間を気遣う思いがこれまではあった。


 だが彼らがそれを咎める者達ではない事、ついて来てくれる事をクリスティーナはもう知っている。

 ならば自分はかつての自分らしく己の正しさに従って突き進めばいい。


 仲間達を巻き込む覚悟と、共に危険を乗り越えてくれるであろう信頼が彼女の中には芽生えていた。


 クリスティーナは魔法を使う。

 クロードの傷を光が包み込み、みるみるうちに修復されていく。


 クロードの顔色と呼吸が回復した事を確認するとクリスティーナは小さく息を吐いた。


「私って我儘なのよ」


 クリスティーナはフードの下で不敵に笑う。

 彼女の顔が誰かに見られる事はなかったが、それはかつて悪女と騒がれた少女の自身に溢れた顔とよく似ていた。


(遅くなってしまったけれど、漸く本当の意味で覚悟ができた。……私自身に残る問題はまだ一つあるけれど)


 インセニクト族の目の色が変わり、彼らは眼光を鋭くしながらクリスティーナを睨み付けた。

 それらを睨み返すと、浴びせられる視線を遮るように彼女の前にリオとエリアスが立った。


(……守る為には傷付ける覚悟がいる)


 それはリオやエリアスが常に向き合って来た現実であり、クリスティーナが躊躇ってきた選択だった。

 仲間の存在と他者の命。天秤に掛けるまでもなく結果は明らかだ。

 しかしそれを選択しなければならない瞬間に居合わせた時、自分は迷う事がないか。その隙によって彼らを失う事はないか。

 そんな不安がクリスティーナの頭を過ぎる。


 自身の新たな問題を自覚したまま、クリスティーナは仲間と共に改めて先へ進むのだった。



 小屋が点々と建てられた集落。

 その中で集落の中で最も大きな建物があった。

 木材を基調の建物は集落唯一の二階建て、そしてその横幅は他の小屋三、四軒程度の広さであった。


 インセニクト族に囲まれたまま廊下を進み、辿り着いたのは大広間。

 その先には独特の文化を感じさせる豪奢な衣服と装飾を身に付けた少女が椅子に腰を下ろしていた。


「ルネ様。あの者達が――」


 少女の傍に立つ男は彼女をルネと呼び、小声で話をする。


 クリスティーナ達が集落に着いた時点で先程の襲撃者の内一人が集落のものに事情を報告するよう命じていた。

 既に彼女らの耳にクリスティーナ達の話は行き渡っているのだろう。


「そう」


 ルネの歳は十五程度――ギーと同じくらいであった。

 彼女は目を細めてクリスティーナ達を見据える。


「お話は聞いています、お客様。うちの者がご迷惑をお掛けしたとの事、大変申し訳なく――」

「君だよね」


 礼儀正しい挨拶を遮るのはクロードだ。

 彼はルネの様子を窺いながら言葉を選ぶ。


「僕達を襲うように仕向けたの」

「……襲う? 一体何のお話でしょう」


 ルネは首を傾げる。

 その言葉の裏に隠された考えを探ろうとクロードは彼女を睨み付ける。


「クロード様」


 しかし魔法を使うより先、赤い瞳が咎めるように彼を睨め付ける。

 クロードが魔法を使い過ぎればクリスティーナが心を痛める事は容易にわかる。

 だからこそリオは有事に陥った際躊躇いなく魔法を使い続ける彼を止めなければならないと考えていた。


 そしてそんなリオの考えを悟る事ができるからこそクロードもバツが悪そうに視線を落とし、強行に出る事ができなかった。


「貴方ばかりに頼らずとも何とかできる事だってあるわ」


 クリスティーナは二人のやり取りの傍で自身が付けているペンダントに手を掛けた。

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