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悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う  作者: 千秋 颯
第六章―太古の砦・小国パーケム――エンフェスト山脈 『眠る氷城』

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第771話

 エマの目を再び開かせた少年は事の顛末をモーリスに語った。

 殆どはルフィーノから聞かされた話の通りだった。


 ルフィーノ――そして彼の母国サンクトゥスは転移結晶の保有を目的として動いていた。

 彼がこの国を見つけたのは遥か昔、モーリスの祖先がこの地に住み始める前に属していたインセニクト族がその存在を仄めかしたからであったそうだ。


 そしてやがて、ルフィーノはこの国を見つけ出し、更に転移結晶を保有している事も知った。

 それから先はモーリスがルフィーノから聞かされた通りだ。


「アイツはちょっと調子に乗りすぎたよねぇ。歳も取らないし、人から見れば充分過ぎるくらいの力を持ってた。国でも重宝されてたから仕方のない事ではあるけど」


 少年はそう話しながらモーリスに小さな魔導具を渡す。


「これは?」

「ボクとお話しする為の道具だよ。ボクのお気に入りには渡すようにしてるんだ」

「僕は貴方が期待している面白い事なんかはできないと思います」

「そうなったら貸してあげたものを返してもらうだけだけど……まあ、大丈夫だと思うよ」


 少年の瞳がまた歪に細められる。

 その顔は愉悦に浸っていた。


(この人は……一度死んだ人に縋る僕という存在そのものを研究対象――もしくは玩具として見ているだけなんだろう)


 何かを企むように笑うその顔を見てモーリスは少年の本質を悟る。

 どう転んでも面白いと考えている。


「キミの好きにすればいいよ。その代わり、ボクが『お願い』した時だけは働いてね。キミには他の子達よりも多く力を貸してあげてるんだから」


 拒絶をすればどうなるのか、言われずとも理解が出来た。

 エマを取り戻した今、その選択をするつもりもなかった。


 モーリスは黙って頷く。

 それを確認してから少年はモーリスとエマから数歩下がる。


「それじゃ、またね」


 彼は背中越しに手を振った。

 刹那、瞬きの内に少年は姿を消した。


 そこに残されたのはモーリスとエマだけだ。

 不思議そうな顔でモーリスと少年のやり取りを見守っていたエマが目を丸くしたままモーリスを見上げる。

 その視線に気付き、モーリスはエマへ笑い掛けた。


「ごめんね、話し込んだままで」

「……モーリス」


 ぎこちない笑みを浮かべるモーリスの頬にエマが触れる。

 彼女は自身の袖でモーリスの顔に付着した血を拭った。


 そこで漸く、彼女に見えているであろう自身の姿が異常である事に気が付く。

 静か過ぎる城内で全身に血を浴びているモーリスが何を犯したのか。

 意識を失う前の殺伐とした状況や先程の少年との会話の内容を鑑みればすぐにわかってしまうだろう。


 思わず身を強張らせる。

 しかしエマは怯えを見せる事なくモーリスの顔を優しく拭い続けた。


 エマは何も聞かなかった。

 全て悟った上で、それでもモーリスに寄り添い続けた。

 何も言わなくていいと言われているような気がして、モーリスは自分の口から己の罪を語る事をやめた。


 込み上げる涙を堪え、暫くの時が流れた後。

 気持ちを落ち着かせたモーリスは自分の頬に触れるエマの手に擦り寄りながら話し掛けた。


「これからどうしよっか。エマを傷付ける人はもういないけど……エマはまだ外に行きたい?」


 モーリスの顔を見ていたエマは彼の表情の変化に気付き、僅かに息を呑む。

 そして静かに目を伏せると首を横に振った。


「ううん」


 その返答にモーリスは少なからず安堵した。

 ルフィーノは危険な人物であった。彼の思想は強く、極端に偏っていて、周りの犠牲を厭わない。

 であれば、彼の母国もまたモーリスやエマにとっては危険な地かもしれない。


 しかし外の知識を殆ど持たないモーリスはどの国へ向かえば安寧を手に入れられるのかも判別が付かない。

 そもそも、自分達が望む平和が得られる場所など外のどこにも存在しないのかもしれない。


 そう考えれば考える程、確実に安全で、二人の時間を脅かされる事のないこの場に留まる方が安心できると思ったのだ。


「わかった。じゃあ、一緒にここにいよう」


 モーリスはゆっくり立ち上がる。

 二人で生活する場所としては、今の城内は視覚的にも衛生的にもあまりに不向きだ。

 一先ずはエマにショックを与えてしまわないよう、殺戮の痕跡を隠してしまおうと考えた。


 モーリスは小国全体に魔法を使う。

 崩れた建物や死んだ人々の姿は視界から姿を消し、数刻前までの国の姿が瞳に映るようになった。


 二人きりだとエマが寂しがるかもしれないから、大量の死体の中からいくつかを選び、自分達の前で生前の真似事をさせるよう魔法を掛ける。


 そして彼女と暮らす最低限の下準備をものの数分で終わらせると、それまで彼の胸につっかえていた罪悪がスッと抜け落ち、緊張から解かれる感覚があった。


「外には出られないけど、他の願い事なら叶えられるよ」

「願い事……?」

「うん。使用人もいなくなってしまったからね」


 モーリスは小さく頷き、エマの前に跪く。


「何なりとお申し付けください。エマ様」


 エマは目を丸くして何度か瞬きをする。

 そして、真面目な顔で突然振る舞い方を変えた幼馴染の様子に小さく吹き出したのだった。


「……立ち居振る舞いだけなら完璧よ、モーリス」

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