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悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う  作者: 千秋 颯
第六章―太古の砦・小国パーケム――エンフェスト山脈 『眠る氷城』
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第749話

 クリスティーナが眠っている中、三人は周囲を警戒しながら会話をする。

 そして何時間かが経った頃、廊下から部屋へ近づく気配に気付いた三人は素早く行動に出る。


 リオがすぐさま布団に潜り、エリアスはリオの前に座り込む。

 クロードはクリスティーナが万が一目を覚ましても誤魔化せるよう彼女の頭が隠れるようにベッドの脇に腰を下ろした。


 やがてノックが三度繰り返される。

 扉の先に立っているのは間違いなくモーリスだろう。


「はーい」


 反抗的な態度をとった事で彼の気を変えてしまう事がないよう、クロードは素直に返事をする。

 クリスティーナの体調が整うまでは下手に相手を刺激せず現状を維持していた方がよいと三人は判断したのだ。


 返事の後に開かれた扉からは案の定モーリスが姿を現す。


「失礼致します」

「何か用かな? 悪いけどあんまり近くではお話ししたくないかも」

「そうですか」


 モーリスが入室を試みればすぐさまクロードの拒絶が入る。

 そしてそれを聞いたモーリスは素直に足を止めた。


「お二人は特に変わりないようですが、クロード様のお体の調子はいかがですか?」

「特に問題はないよ。お気遣いありがとう」

「そうですか。では、失礼致します」


 クロードの皮肉めいた礼を無関心に聞き流し、モーリスは一礼をする。

 だが今度はクロードが廊下へ出た背中へ声を掛けた。


「ねぇ」

「なんでしょう」

「君の目的は何? 仲間を眠らせるだけで怪我をさせようとしたり殺そうとするつもりはないように見えるんだよね」

「お答えしかねます」

「そっか、わかった」


 モーリスは再び「失礼致します」と告げて退室する。

 彼の気配が遠ざかり、完全に感じられなくなった時、クロードは咳き込み始める。


「おい、クロード」

「平気だよ」

「こちらはクロード様がお使いになられた方がよろしいのでは?」

「大袈裟だなぁ。この体との付き合いももう慣れてるし、本当に大丈夫だよ」


 リオは体を起こして、布団をクロードへ明け渡そうとする。

 しかし彼はわざとらしく肩を竦めて首を横に振った。


「それよりも、彼の事が少しわかったよ」


 クロードは口元に付着した血液を拭ってから話を続ける。


「やっぱり彼は君達を殺そうとは思っていない。眠らせる事で君達を殺す必要がなくなると考えているみたいだ」

「という事は本来は俺達を殺す必要がある事情を負っておる、という事ですね」

「そうだね。本人の意志とは違うところでそういう義務が発生しているんだろう」

「てことはやっぱ魔族からの命令とかだろーな。城で生きてるのがモーリスだけっていうならさ」

「そうでしょうね。眷属は魔族の目的の達成に貢献しなければなりません。でなければどんな未来が待っているかなどわかりきっていますから」


 リオの見解にはクロードも同意を示す。

 クロードはベッドから降りると床に座り直した。


「魔族が警戒し、疎んでいるのは聖女の力だからね。聖女が眠りから永遠に醒めなければ死んでいる事と大差はない。寧ろ、新たな聖女が生まれない分都合がいいと魔族は考えるかもしれない。……殺したくはないから、眠らせ続ける――身勝手極まりないけどね」

「眠り続ければいつかは衰弱して命を落としますからね。当人が見る最後の光景は幸せそのものかもしれませんが」

「現実ではない以上、まやかし以外の何物でもないよ。当人の許可を得たわけでもなく、夢で幸せを与える代わりに人生という時間を奪うなんて事は許されるわけがないからね」


 モーリスの今の立場で自分の手を汚したくはないという主張をする事はあまりに身勝手で子供じみている。

 自分の中のエゴと綺麗事に塗れているモーリスに対する不快感をクロードは僅かに滲ませた。


「まあ今はこの点について語っていても仕方がない。クリスが目を覚ました後の計画でも考えておく?」

「そうですね」

「そうだ。リオは地下で転移結晶を見たんだよな?」

「はい。間違いはありませんでした」

「なら、それを使えばモーリスさんからも逃げる事ができるってわけだ」

「転移結晶頼りになりそうだなぁ」

「もしくは、クリスの魔法であの大きな崖を登る事ができるだけの階段を作ってもらうかだね。ただできるだけ彼女の魔力は温存しておくべきだから、転移結晶に賭けても上手くいかなかった場合の方法として考えておいた方がいいかも」


 魔族が闇魔法を使うのならばクリスティーナは仲間の中で唯一魔族に対抗できる力を持っている。

 いくら聖女の魔力量が規格外であっても、彼女の魔力消費を少なく抑えておいて損はないはずだ。


 リオとエリアスもクロードと同じ見解であったらしく、頷きを返した。


「転移結晶のある場所は覚えてる?」

「はい」

「助かるよ」


 詳しい相談はクリスティーナが目を覚ましてからするとしても、大まかな目標ができただけ上々であった。




 その後三日間。クリスティーナは高熱に浮かされ殆ど寝たきりであった。

 日に何度か、モーリスは客室へ顔を出したが誰も部屋から離れていない事と、クリスティーナやリオが眠っている事を確認すると素直に部屋から離れていく。


 そして城にやって来てから三日が経った昼間、クリスティーナは回復したのだった。

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